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「こら、目を覚ましなさい」
その声に、響はゆっくりと目を開けた。
白い道着に袴姿の白髪の老人が目の前に立っている。
「先生?」
「どうした? 夢でも見ていたのか?」
そこには玄野響の師である直江四門の姿があった。
「はい……少し」
「ずいぶん肝の座ったものだ。稽古中に居眠りとはな」
四門はそう言って笑った。「それで? どんな夢を見ていた?」
「忘れてしまいました。ずっと先の未来……ボクがボクで無くなる……そんなバカげた夢だった気がします」
「夢ってものはバカにならんものだぞ。時には真実を映し出すこともある。夢見といって、未来を映してくれることもある」
「ボクにそんな力はありませんよ」
謙遜して言っているつもりはなかった。どんな夢だったかは忘れたが、それが良い夢でなかったことは憶えている。そんなものが夢見などであってほしくない。
「それはどうでしょう? まだ中学生でも、響クンは大物ですからね」
四門の背後に淡い黄色い着物姿の若い女性の姿があった。それは四門の娘である直江鳴子だ。
「鳴子さん、からかわないでくださいよ」
「宮家でも、将来の頭領候補を問われ、響クンの名前を挙げない人はいないらしいじゃありませんか」
「そんなもの興味ありません」
「あなたが興味なくても、周りが放っておかないでしょう」
鳴子は嬉しそうに言った。
「先生だって頭領にならなかったじゃありませんか」
「私とお前とは違う。私がそういう道を選ばなかったからといって、おまえが真似をする必要はない。それにおまえは多くの人に手を差し伸べることが出来る人間だ」
「先生までそんなことを言うんですか」
四門に評価されていることは嬉しいが、さすがに宮家陰陽寮の頭領という話になると重責すぎる。
「頭領になるかどうかは別として、周りからそういう評価を得られる人間であることは良いことだ。これからもそう思われるよう努力しなさい」
「よぉ、来てたのか」
振り返ると、そこに茶髪の若者が立っていた。
それは蒼鬼百太郎だった。中学一年の響にとって、大学生の百太郎はずいぶん年上だが、ここで知り合って以来、妙に気が合い、まるで古くからの親友のように付き合っている。
「大学は終わったのか?」
四門が声をかける。
「今日は休講でしたよ」
その百太郎の背後に、自分と同じくらいの年齢の少女の姿があった。「今日は従姉妹を連れてきました」
少女は百太郎の隣に立ち、小さくペコリと頭を下げた。白い肌にクリリとした大きな目、肩まで伸びた長い黒髪、その純和風の雰囲気を持った少女は興味深そうに道場を見回している。
「その子も稽古を?」
「いえ、こいつは陰陽師には向きません。子供の頃から病弱で絵ばかり描いています」
「おまえの従姉妹ってことは小鳥遊家の? それなら元は陰陽師の家系。その力は十分あるだろう。稽古で身体を鍛えたらどうだ?」
「こいつに稽古をさせたら一日で熱を出して倒れます」
「そんなにキツイ稽古はさせていないだろう?」
「いえ、こいつは限度というものを知らないのです。もし稽古をさせたら、自分が納得するまでやり抜こうとするでしょう。だから絵を描くくらいがちょうどいいんです。玄野と同じ年齢なので、良い友達になれるかと思って連れてきたんです」
「じゃあ、中学生か?」
「そうです。ほら、挨拶しろ」
そう言われて、少女は顔を出した。
「小鳥遊籠女と申します」
少女は改めて丁寧に頭を下げた。




