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妖かしつれづれ話 拾の話・籠の鳥  作者: けせらせら
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 響は我にかえり、手の中の短刀を見つめた。

 自分はなぜあれほどまでに我を失ったのだろう。彼女の言葉のどこに自分の心の傷に触れるものがあったのだろう。

 思わずガクリとその場に膝をつく。

 背後から一人の男が近づいてくる足音が聞こえた。

「やっと一人になったな」

 その声は蒼鬼百太郎だった。だが、響には百太郎がそこにいることよりも、今、自分がやったことのほうがショックだった。

「ボクはなんてことを……」

「あぁ? さっきのことか? 気にする必要はない」

「でも、これは……妖かしを切るものだ」

 百太郎はそれを聞いて声をあげて笑った。

「何を言っている? あんな怖い女、あれくらいのことなんてこともない。ただ姿を消しただけだ。いや、俺がいるのをわかってのことか」

「怖い?」

 響は振り返って、そこに立つ百太郎を見上げた。

「知らんのか? あれは双葉だぞ。いや、そんなことを今のお前に言ってみても意味はないか。そろそろ記憶が戻った頃だと思ったんだが、どうやら決定的なところはまだ戻っていなかったようだな」

「記憶が戻ったほうがいいと言うんですか? 音無さんはそうは言っていなかった」

「俺とアイツらとは立場が違う」

「立場?」

「俺には、お前が昔のことをちゃんと思い出してくれないと困るんだよ」

「なら教えてください。あの小鳥遊籠女さんとはいったい誰なんですか?」

 響は立ち上がり、百太郎へと詰め寄った。

「アレはな、おまえの許嫁だった女だ」

「許嫁?」

 意外な言葉ではあったが、それはどこか予想していたものだった。やはり彼女とはそういう関係だったのか、と納得出来るものだった。

「そう言われても思い出せないか。いいだろう。俺がお前の過去を教えてやる。お前のなかにある力を使ってな。俺が欲しいのはそれだからな」

 百太郎は懐から一本の短刀を取り出した。それは響が持つ短刀『無我』と良く似ていた。

「それは?」

「『我は無く、我は時に流れるのみ』、おまえの持つ『無我』と対をなす刀、『流我』」

 百太郎をゆっくりとそれを抜くと、まっすぐに響に向かって切り下ろした。


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