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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇冬の事変
74/89

70話 再・四人でRPG 後編

『げーむきを こわされたくなければ おれの はなしを ききますか?』


『→はい  いいえ』


 結果として半強制的だ、と後に空は語る。こんな横暴が許されていいかと言えば、そのようなわけない。ただでさえ、自分たちの貴重な青春の時間をふいにされているようなものなのだから。絶対に顔を合わせたらぶっ飛ばしてやる、という野望を抱きながらも渋々と『はい』を選択した。


『ほう。 ききわけの いいやつだな。』


 やらせのくせにして。釈然としない空がテレビ画面に向かってコントローラーを投げたい気分に陥るが、そのようなことをすれば、話が進まない。そのため、我慢しながらも「それで」と白衣のキャラクター――もとい、あの白衣の男に声をかけた。


「アンタらの目的はなんだよ。さっさと答えてくれ」


『…………』


 話を聞け、と言ってきたのはそちらの方だぞ。こうして自分たちの時間を割いて聞いてやろうとしてやっているのに何をしているのだ。


 何も答えない相手に空だけではない。他の三人も首を傾げて見交わした。


「なぜ、何も答えないのでしょうか?」


「さーな、考えられるのはトイレとか?」


「あー、その線が妥当かもしれませんね」


 どうせトイレに行っているのだろう。なんて軽々しく考えていたのだが、ここでカンナが「や」と別の憶測をし出した。


「あえて下出に出ないと教えてくれないとか?」


「こっちが聞いてやってんのに?」


 そんな冗談あってたまるか。もし、あったとしても勘違いも甚だしいものだ。そう空が愚痴ったとき、それが音声となって拾ってしまったのか、画面に発言が表記される。


『こっちが きいて あげているのに なんで したでに でなきゃ ならないんだよ。』


 言葉が表記されたならば、当然この文字は相手にも送られてしまうのであって――。


『あたりまえだろ。 あんなたいどは きこうとする やつの たいどじゃない。』


 今なら漫画やアニメみたいにして、コントローラーを壊せる感情的力が出そうだ。だが、本当に壊そうとはしない。そこまでの力があったとしても、私物破壊というのは意外にも後悔するからだ。壊したい、投げつけたい気持ちを抑えつける空。


「夏斐、やるのか?」


「すべて聞かなかったコト、なかったコトにしたい」


 そう嘆いたとしても、どうにもならないのがこの偽物ゲーム。なんて卑劣なやり方なんだ。こんなのが自分の実父だなんて。こんなやつの血が半分自分の中に入っているのが最悪。本当、警察に捕まって一生出てこなければいいのに。


「……空」


 何を思ったのか、カンナ頭を抱えている空に対して肩に手を置いた。彼女は慰めてくれるのか。同情は要らないと思っていたが、実際にされると虚無感から少しだけ脱出できる気がした。


 カンナは気にすることない、と励ましてくれるのだろう。


「空がお母さん似でよかったね」


「ソレ、今ゆーコト?」


 ちくしょう。慰めてくれると思ったら、どうでもいい言葉ではないか。いや、本当にそれでよかったのだが。


 このまま敬意を払わずしては埒が明かないとして、空は盛大にため息をついた。不本意ではあるが、腹を括るしかない。


『もうしわけありませんが あなたさまの おはなしを おきかせください。』


「……これでいーだろ」


 高校生にしては上々の丁寧さではあると思う。向こうも大人だ、下手な敬語だとしても許してはくれるはずだろう。でなければ、どうしろと?


『せいいが ないよね』


 即座に出てきた画面を見て、空はゲーム機本体の電源スイッチに手を伸ばそうとするが、そこは大地によって止められた。ウィルスに感染するぞ、という言葉すらも効かない彼は是が非でも画面を暗転にしたいらしい。


「放してください! もーいいっ! あのおっさんの言う通り、正月にでも新しいのを買って、ソフトを捨てればいいだけのハナシなんですから!」


「や、確かに気の毒だけど! これはある意味でのチャンスじゃねーの!? 情報を手に入れるための!」


「情報!? そんなの雪野さんが集めたモノだけでいーでしょ! どーせ、このおっさん、くだらねーコトしているだけなんだし!」


「夏斐って、意外と辛辣なコトゆーとき、あるよな?」


 自分ではどうにもならないとでも思ったのか、大地はカンナに助けを求めるようにして同意を誘ってきた。彼の気付いたというような発言に彼女は「そうですね」と頷いた。


「空ぁ、そーゆーとこがあのおじさんに似てんじゃないの?」


「何をっ!? カンナまで失礼だ! あの犯罪おっさんとオレは別なの! 一緒にしないで!」


 キレた空は大声で毒舌を吐いている。もちろん、それはマイクを通して白衣の男にも伝わっているのは百も承知。人間誰もが罵声を浴びさせれば、怒りが沸点に到達するのは至極当然。


『おまえ ほんとの ちちおやに むかって そんないいかたは ないだろ!』


 ひらがなばかりの文章ではあるが、向こうが憤りを感じているのは文面を見るからにして伝わってきていた。だが、それを理解したのは三人だけであって、空にはむしろ逆効果だったりする。


「誰がおっさんの息子だ! ジョーダンじゃねー!」


『はい ざんねんでした。DNAを しらべりゃ いっぱつで おれの むすこだと はんめいします。あきらめろ。』


「くだらねーコトに必死なおっさんの遺伝なんて要らねーんだよ! ンなモン母さんのところの遺伝だけで十分じゃ!!」


『くだらなくねーんだよ! おまえ これが せいきの じっけんだと まだきづかねーのかよ!』


「行方不明者出している時点で世紀でもなんでもねーだろ! ただのユーカイ犯じゃねーか!」


 父子のけんか勃発。これらを止める術をカンナたちは持ち合わせてはいない。このまま、ほとぼりが冷めるまで生温く見守るしかないのか。ぎゃーぎゃーと騒ぐ空を見て洋子は「珍しいですね」と驚きは隠せなかった。


「夏斐さんって、あそこまで大声上げるとは思わなかったです」


「まー、確かにそーだよな。結構冷静なとこがあると思ってたケド、実際はああなの?」


 こういう空の姿を見たことがなかったから。気になった大地は親子げんかを見なかったことにして、スマートフォンを弄るカンナに話を振った。これに彼女は「うーん」と少しばかり考える。


「ありえなくは…ないと思いますケド。一応、空も男子高生ですし。癇癪ぐらいはあるかと」


「ってゆー三春はどちらかとゆーと、アイツの母親みたいなコト言ってるけどな」


「とりあえず、落ち着かせるためにこれでも食べさせますかね」


 そうカンナは自身の鞄の中をゴソゴソさせた。ややあって、取り出した物――緑色の何かを手にして、画面に向かって怒りを飛ばしている空の口の中へと放り込んだ。


「ご近所メーワクだよぉ」


「………っ!?」


 急激な劇物。口いっぱいに広がる青臭さに混じった苦み。そこに隠れているのは生温かい甘さ。空は涙目で口を押えてカンナの方を見た。その潤んだ目から読み取れる訴えは「口の中に何を入れた?」である。口に出さずとも、言わずとも相手に対して意思疎通ができるこのすばらしさ。


 悶絶する空に対して、カンナは「挑発に引っかかってんじゃないよ」と肩を竦めた。その物言いは答えを言わずとも、わかるでしょ? である。


 一方で大地はこの光景をどこかで見たことがあるなと、思っていた。そして、即座に思い出す。


「ゴーヤガムか」


「そーです。あのときはカワイソーだと思っていたから、もうしないとしてたんです。でも、今回ばかりはしますよ。落ち着かせるために」


「カンナぁ! オマエっ!!」


 春に食べたときよりも不味さは倍増しているではないか。それは商品の進化でも何でもない。物品の時間超過による劣化であるのだから。


「……ったく、もうちょい別のやり方でやってくれ」


「えー。だって、空ってこーゆー風にして止めないと、止まらないでしょ」


 というよりも、このままヒートアップして知りたいものも知れなくなるだろうという的確なツッコミにより、ようやく空はしおらしくなった。少しは反省をしているらしい。これを見ていた大地と洋子は扱いが上手いなと心の中でカンナを褒めた。いつもは人のことをからかってくるくせにして。こういうときだけしっかりしているとは。


「とにかく、向こうを怒らせないでハナシを聞いて」


「わかったよ……」


 ようやく本題に入っていけるのだ。白衣の男は待ちくたびれた様子で――もう空にからかいの言葉をかけるつもりはないらしい。画面上には『おしえてやろう』という表記が。


『おれの もくてきは ぜんじんるいの さべつかを なくすこと。そのための じっけんを するために いろんなひとの でーたが ほしいのだよ。そのなかでも そらと ふゆのざいばつの おじょうさまが ほしいのさ。』


「それでユーカイを……」


 男の言っている意味はわかる。だが、そのためだけに他人を犠牲にするのか。それが空には許せなかった。向こうへと伝わらない画面を睨みつける。彼の呟きはマイクが拾ったようで――。


『なにか かんちがいしていないか?』


『これは ぜんせかいが まちわびている せいきの じっけんだ。だから これが ゆうかいだなんて おかしいはなしだ。』


 男はどうもまともではないらしい。

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