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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇秋の事変
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43話 スマホボッシュー

 とある日のこと。廊下の方からの怒号がカンナの耳に入った。それは彼女だけではないようで、クラスメイトのほとんどが廊下の方を見たりして反応を見せている模様。そっとドアから顔を覗かせて様子を窺った。怒声を上げていたのは隣のクラスの担任教師である猪狩いかり土生つちおである。そして、彼に怒られているのは空だった。


「なんで?」


 空はなぜに自分が怒られているのかすらもわからない様子で、両手にクラスメイト分のノートを手にして困惑している。


「わかんないよね。でも、猪狩センセっていきなり怒るよね」


 いつの間にか、一緒になって顔を覗かせている明がそう言った。それに続くようにして浩子が「猪狩センセーだったんだね」とため息をつく。


「この前、短くしてないのに、スカートが長いって言われたんだよね」


「あー、言われたね」


「二人もなんか言われてたんだね。ボク、髪が長いって言われたんだよね。夏斐君とあんま変わんない長さなのに」


「美野島クンと空はまだいーでしょ。わたしなんて、地毛が茶色だって言ってんのにうっさいの」


 そう言うカンナは自身の髪の毛を弄る。そんな中、スマートフォンを弄っていた玲が「理由があるんだよな」と言ってきた。


猪狩ハゲが自分たちの担任ミッキーのコトが気に食わないだからな」


「なんで、そこで山外野先生ミッキーが?」


 二人の言うミッキーと言うのは一年三組(彼らのクラス)の担任である山外野やまとの幹生みきおのことおである。ちなみに担当教科は現代国語。


「アレ、知らない? ハゲって独身なんだよ。で、年下であるミッキーはフツーに奥さんも子どももいるからそれが気に入らないみたい」


「セーカクに難があって相手がいないってコトか」


 さらり、と言いのけるカンナに三人は苦笑いをする。ちらり、と廊下の方を見ればまだ空は怒られているようであった。


「相手がホシーと思っている人ほど相手は意外にいないと言うのに」


「アレ? でも秋島センパイは彼女いたよね? アレは?」


「あのヒトは元よりイケメンじゃん。中身を変えれば、もっと寄るんじゃない?」


 下手にカリスマ性はあるのだから、などと話していた四人に気付いた土生は「オマエら!」と怒声を上げてくる。


「もうすぐ授業だぞ! さっさと予習してろ!」


「まだ五分前なのに」


「この前と同じだよね。あっ、夏斐君解放されたね」


 やっと土生に解放された空はげんなりとした様子で自分のクラスへと入った。誰もが彼にお疲れ様、という同情の目を向けてくる。


 教卓の上にノートを置き、ため息をついた。それに「大変だったね」という労いの言葉を明から受ける。


「今回はなんで怒られたの?」


「なんもしてねーよ。フツーに廊下を歩いてただけなのに、人が通る道を妨害するなって言われたんだケド」


「ソレ、かなり理不尽じゃん」


「あー、夏斐はアレが原因でもあるんじゃね?」


 玲が思い出したようにして指を鳴らした。『アレ』と聞いて、空はさらに大きなため息をつく。


「アレかよ。たかが、センセーの動画を撮っただけじゃん」


「や、空もとんでもないコトやってんじゃん」


 意外だな、とカンナは少しばかりびっくりした。こういうことはあまりやらなさそうなのに。というよりも、なぜに動画を撮ったのだろうか。そのことについて訊ねると――。


「面白いのが撮れたんだよ」


 そう言って、空から見せてもらったのは後ろ姿の土生がどこかへと電話をしている幹生に対する嫉妬の動画であった。彼らの声はすべてはっきりとしっかりと拾われており、それらを見ていた五人は腹を抱えて笑う。予想以上の面白おかしさに周りが注目し出すほどだ。


「はー……。つーかさ、コレ、山外野センセにいい加減なんとかしてもらおうぜ」


 笑いが落ち着いたところで空がそう言うが、それは玲が「ムダだぜ」と渋る。


「ミッキー自身がハゲと関わりを持とうとしないからな」


「じゃあ、誰に相談するってんだよ」


「ハゲを嫌っているセンセーっていないの?」


「……ほとんどのセンセってどうでもいいって思ってんじゃねーの? ていうか、ハゲと他の先生が一緒にいるの見ないケド」


 ならば、と浩子があごに手を当てた。


「英語のセンセーは? 英語のセンセだし」


「それ以前にオレらが知らないってコトはいないに等しいんじゃないの?」


「哀しいなぁ」


     ◆


 昼休み、五人は生徒指導室前へと来ていた。結局のところ、頼れる教師が思い当たらないためである。中へと入ると、生徒指導部の教師が一人いた。彼らの姿を見て「どーしたか?」と片眉を上げる。


「相談か?」


「あのー、猪狩センセのコトでオレらハナシがあるんですけケド」


「話? なんだ?」


「えっとですね――」


 玲が土生の一連について話そうとしたとき、ちょうど土生がやって来た。そうだった、彼もまた生徒指導部の顧問であるのだ。


 固まる五人。いや、彼らだけではない。話の相手となろうとしていた教師も困惑とした表情でいた。気まずい、この言葉が一番似合う言葉であろう。場所を変えるべきか、とも考えていた教師の思考をカンナが塞ぐ。


「このハゲ散らかしたおっさんがわたしらのクラスだけ異常に厳しいんですよ。なんか、ただそこにいただけなのに道を妨害するなとかスカート短くないはずなのに短いだの……ヒドくありません?」


 まさに爆弾発言と言えよう。カンナは土生を指差しながら怒りの導線へと着火させる。この発言を聞いた教師、四人は吹き出しながらも、笑いを堪えようと咳払いをした。一方で土生だけはカンナを睨みつけている。


「三春。それは誰のことか」


「わからないんスか? この中でハゲ散らかしたおっさんはアナタしかいませんよ」


「お、おい、かん――ぶふぉっ!」


 空が咎めようとするが、先ほどの発言と動画の内容を思い出してしまって吹き出さずにはいられないようだった。それが原因かのように土生は「笑うなっ!」と怒鳴る。


「おい、なんだ? 教師に向かってその口の利き方は!」


「えっ? 教師って教える師ってコトですよね? アナタから教えてもらったコトって言ったら、うるさい説教モドキだけでしょ? そんなどーでもいいコト教えてもらってもわたしら何の身にもならないし、つきませんから。つーか、授業開始時間の五分前から授業を始めるってどーなんですか? わたしらに休憩などするなと? トイレに行っているヒトとか理不尽じゃないスか。それにただの私怨を山外野センセーに向けるだけじゃなくて、こちらにまで向けて何がしたいんスか? よって、そんな口の利き方はしても問題はないと思いますケド?」


「私怨?」


 ベラベラとしゃべり通そうとするカンナの言葉に食いついてくる教師に「違いますよ」と慌てて訂正する。


「私に山外野先生に私怨は一切ありませんから」


「ウソだぁ。山外野センセーに嫁さんと子どもがいるコトに羨ましさがあるんでしょ? でしょ、高崎クン」


「えっ、そこでオレに振るの?」


「だって、その情報高崎クンが言っていたじゃん」


 カンナ、人を巻き込もうとする。だが、玲も玲で自棄になっているのか、戸惑っている教師に「センセー!」と声を張り上げる。


「猪狩センセーは山外野センセーにかなりの怨恨があります! オレ見ましたし、夏斐もショーコとしてムービー撮ったもんな!?」


「オレを道連れにするか」


 正直言って、迷惑だと空は思っていたが、日頃の恨みでもあるのか先ほどの動画を教師に見せようとするも――それを見せまいとして土生が「余計なモノを持ってくるな!」とスマートフォンを取り上げてしまった。


 これにより、証拠を見せられなくなってしまう上――。


「もうすぐ授業が始まるから戻れ!!」


 生徒指導室から追い出されてしまったのだった。

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