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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇夏の事変
33/89

29話 勝負! 前編

 二時間かけて辿り着いた目的地の海浜公園から少し離れた場所。公園の方は親子連れや友人同士、恋人同士と遊びにきた者たちでごった返ししていた。しかし、空たちが降り立った場所はそうではない。まさに貸しきり状態の人一人っ子いない浜辺だった。


「誰もいない?」


 困惑しているのは空だけではない。洋子と次郎以外の者たち全員が目を丸くしていた。


「えっ、ココって冬野センパイのプライベートビーチとかですか?」


「いえいえ、ここは父のプライベートビーチですよ」


 そう言うが、結局としては変わらないのではないだろうか、と誰もが鼻白む。


「それに、ここならば……ね」


 その先は自分で解釈してくれ、と洋子は言う。どういう意味だろうな、とあごに手を当てて思案をしていると、カンナが耳打ちをしてきた。


「アレじゃない? 人ごみよりも、誰がいるかわかるよーにってゆーセンパイの考え」


「それ、どーなんだ? 逆に考えると、人ごみに紛れて逃げられないって考えも成り立つだろ?」


「や、結果としてはコッチのほーがいーんじゃないの? ほら、運転手の人もそこら辺はキッチリと考えてるはず」


 その案に乗るしかないのか、と空が腕を組んでいると――。


「何のハナシをしてるんだ?」


 玲たちが怪訝そうな表情でこちらを見てきた。彼らは都市伝説の件に関して他言しない方がいいとして「何でもない」と返す。


「ほら、着替えて遊ぼうぜ」


 それでも自分たちがぼそぼそと会話していた内容が気になるらしい。


「う、うん」


 納得しないような表情を見せる玲と明。ふと、誰かの視線を感じる。そちらを見ると、大地がこちらを見ていた。その視線が言うのは余計なことを話さないように、であろう。


 もちろんだ。大地と空が考えていることは同じなはず。話して、彼らにまで火の粉が飛ぶようなことにならないようにしなければいけない。


 言う訳がない。と視線で返した。


「…………」


 しばらくの間、じっと空のことを見ていた大地であったが――。


「大地クン? どーしたの」


 今度は美奈が愁眉を見せているようである。


「なんかオモシロい生き物でもいた?」


「えっ、あ。や? そんなコトはないけど? それよりも、早く着替えて遊ぼうぜ」


「いーよ。競争でもする?」


 競争? それはもして、水泳のことだろうか。そのことを美奈に訊ねようとすると、誰かが肩に手を置いてきた。そちらの方を見ると、誠一が得意げな表情でいるではないか。その顔、ムカつくな。


「猿渡さーん、コイツさぁ、カナヅチなんだよねぇ」


 勝手に事実を言われてしまった。これに美奈は少しびっくり――いや、しているのは彼女だけではない。その事実を知らないその場一同の者である。


「え、センパイって泳げないんですか?」


「泳げないって……バタ足ぐらいならできるっつーの」


「秋島さんって水泳も得意とばかり思っていました」


「あたしも……」


 一同が驚愕している最中、大地は「え?」と表情を引きつらせる。


「泳げないオレ、オカシイ?」


「や、そうではないですケド」


 ちらり、と空はカンナの方を見た。そう、実のところ彼女も泳げないのである。彼女の場合は水の中で目が開けられない。言ってもいいものだろうか、として黙っていた彼であるが、大地はそれを見透かさない。見逃さない。仲間がいた、として少しばかり嬉しそうな顔を見せていた。


 しかしながら、カンナは大地と共に泳げないというレッテルを張られたくないのか――。


「センパイよりはマシですよ」


 一緒にしないで欲しいと言う反面、腰には車内で膨らまかせた浮き輪を持参している矛盾点。自分の方が泳げると、断言する。ここで適当にあしらえばいいものを。大地は挑発されたならば、それに乗ってしまう悲しい性があるのだ。それ故に「勝負しろや!」と発言してしまう。


「ゼッテェ、三春のほーが泳げないもんね!」


「はぁ!? わたしのほーが五メートル以上は泳げますもん!」


「ンなワケねー! オレのほーが一メートル長く泳げるし!」


「はー、残念でしたぁ。ホントはわたしのほーが五十センチ長く泳げるしぃ」


 なんとも低レベルの口論であろうか。これに美奈は呆れたようにして「やってみれば?」と提案してくる。


「勝負方法はあそこに岩が見えるじゃん? そこが折り返し地点で、こっちに早く戻ってきたほーが勝ちで」


 見れば、そこまで底は深くない、と言う。確かにそうだ、遠浅ではあるようだ。


 そんな美奈の勝負提案であったが、二人は泳ぎたくなさそうな表情を見せる。ややあって、カンナはとんでもないことを言いのけた。


「はい、代打で空がやるそーです」


「えっ」


 いきなりそう言われた。服の裾を掴まされて、逃げられないようにしているこの憎たらしさ。


 代理が有り、というならば。大地は「じゃあ」と呉羽を推薦してきた。


「サッキーがオレの代理で――」


「オレもカナヅチだけど」


 呉羽は泳げないらしい。ならば、他の代理はいないのか、と四バカと呼ばれる三人の方を見た。これに危機感を覚えた誠一と翼は逃げる。一人逃げ遅れた人物の服を掴んだ。誰が逃すか。


「よっしゃあ! オレの代理は後尾あとお浩介こうすけクンがするってぇ!」


「秋島!? 勝手なコトを言わないでくれ!」


 四バカの最後の一人である浩介は競争をしたくない様子。いいや、空だってそうだ。なぜに関係のない勝負をさせられるのやら。お互い、大変だなと二人の間に妙な友情が生まれる。


 この変な空気をどうする? としていると、ここで洋子がビーチボールを持ってきて「ビーチバレーはどうですか」と訊ねてきた。


「泳げないならば、こちらで楽しみましょうよ」


 それならば、としてカンナと大地はそれぞれ掴んでいた二人の服の裾を話した。洋子からボールを奪い取り彼女を睨みつける。


「バレーやるんですか?」


 勝てますかね、とカンナ完全にばかにしている様子。


「もちろんだ。だったら、八姫農業高校ヤノー紅花高校(アカコー)で勝負しようじゃねーか! なぁ!?」


「いーですよぉ?」


 この宣戦布告にカンナはにやりと不敵な笑みを浮かべた。なんとも勝手に決めつけられてはいるが、代打で泳ぐよりかはマシかとして誰もが賛同する。


 ただ、本気になっているのは彼ら二人だけである。


「そーいや、後尾って……後尾のお兄さん?」


 今更ではあるが、気付いた。浩介の姓が『後尾』なのだ。もちろん、空のその質問に浩子は「そーだよ」と答える。


「私のお兄ちゃんだよ」

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