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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇春の事変
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12話 異常な夜

 遊園地から戻ってきたその日の夜、空の家に一人の客が訪問してきた。玄関を開けた途端、そこにいたのは「や」とあいさつをするカンナである。


「夜は少し冷えるね」


「宿題は見せんぞ」


 翌日は普通に学校がある。こんな時間に来るのはどう考えても課題を写しに来たとしか考えられない。だからこそ、言われる前に制する。


 だが、当の本人は首を横に振るのだった。


「そーじゃない」


「じゃあ、何?」


「その、教科書と問題集をガッコーに忘れたから、一緒に取りに行ってくれる?」


 まさかの学校に忘れてきた、と。


「明日は?」


「早くガッコーに行って、やるのキライ」


 そう言うカンナは逃さないとして、服の裾を掴んで、捨てられた子犬のような目で見つめてきた。それになぜか顔が赤くなってしまう空。


「で、でもさ……学校のカギって開いてなくない?」


「南校舎の一階の窓のカギが壊れてるよ」


 なぜにそれを知っている? そう思ったのだが、それを口にすることも、追求することもしなかった。なんだか、訊かない方がいいと思ったから。特別なり理由はないけれども。


「……ちょっと待ってろ。上着取ってくる」


 カンナの押しに負けた空は自室から上着を取って、彼女と共に紅花高校へと向かうのだった。


     ◆


 夜の学校というものは物静か過ぎて気味が悪く感じる。現に校門前に立っている二人も例外ではなかった。


「オレ、帰っていい?」


「逃すかっ!」


 家にやって来たときよりも、強く服の裾を掴む。更には腕も掴まれてしまって、これではどうしようもないではないか。いや、そうだとしても――カンナを独りにするべきではないのは確実だ。


 あの白衣の男。自分たちを狙っていた人物。本当は夜の町を歩くのもあまり好ましくはないはず。


「わかったよ。行くけど、オレから離れないで」


「それ、わたしのセリフ」


 二人が校門の塀に手をかけて体を持ち上げようとした瞬間――。


「何してんだ?」


「いわっ!?」


 空ではない声に驚いて、カンナは勢い余って学校の敷地内へと頭から落ちてしまう。彼に至っては体を持ち上げた状態でその声の方を見た。そこにいたのは夕方に別れたはずの大地が原付バイクに跨っていた。こちらを怪訝そうに見ているではないか。


「あ、こんばんは」


「おー、何? フホーシンニュー?」


「や、カンナが宿題を忘れたからって取りに行くのを手伝っているだけっスよ」


「なるほど」


 大地は納得したように原付バイクから降りてきた。


「つーか、さっきそっちに三春落ちなかった?」


 そう言われて、空は敷地内の方を見ると、確かにカンナは頭から落ちていた。その表情はやるせない表情である。大地も塀から身を乗り出して彼女を見た。


「おー。大丈夫か?」


「これが大丈夫に見えます?」


「……大丈夫じゃない? オレだって、四階から落ちたコトあるけど、両腕骨折で済んだんだし」


 なんて笑っているが、隣で話を聞いていた空は笑い話ではないと表情を引きつらせる。それに伴い、カンナは起き上がった。


「それはセンパイだからでしょ」


 ふと、妙な視線を感じた。何もそれはカンナだけではない。この場にいる三人が感じる気配。それを手繰るように空が校舎を見上げると、三階の廊下の窓には人の姿があった。


「…………」


紅花高校(アカコー)のセンセーか?」


 それはありえるのだろうか、と思う。いや、この時間帯に見回りの教師や管理人がいるのは別におかしな話ではない。休日であろうとも、部活はあっていただろうし、仕事をしていた教師だって。不法に侵入しようとしている自分たちを怪訝そうに見ているだけではないだろうか――そう思いたい。


 それに、わざわざ不審者の確認をするためにその窓から飛び降りようとするなんて――。


「これ、ヤバくね?」


 大地が呟く。当然だ。人は頭から落ちて普通に立ち上がれない。首の骨を悠長に戻して、こちらに向かってしっかりとした足取りでなんて――。


「カンナぁ!!」


 自分たちの身の危険を感じた空と大地はカンナの腕を掴んで、敷地内から脱出を試みる。急いで、原付バイクのエンジンをかけていると、教師 (?)は塀から顔を覗かせて、こちらへとやってこようとした。


 そのときになって、初めて見たその人の顔。いや、頭は存在するが、顔がない。目や鼻、口がないのだ。思わず、空の足が竦む。カンナを連れて逃げなければならないのに、動かないからだ。顔のない人物はゆっくりと塀を乗り越えてきた。


 逃げろ。早く、カンナを連れて逃げろ。


「動けぇ、夏斐っ!!」


 大声にようやく足が動き出す空。大地は二人を逃がすために原付バイクで撥ね飛ばす。これで多少の時間稼ぎを――。


「夏斐! 冬野に迎えに来てもらえ! じゃねーと……!」


 そう三人の目に焼きつけられた。三階から落ちてきたその人物は大地に撥ねられてもぴんぴんとしていたのだ。二人はその場を彼に任せて走り出す。洋子に助けを求めるために連絡を入れようとするが、恐怖心で震えているのか、操作が覚束ない。


「そ、空!」


 カンナの声に後ろを振り返ると、顔のない人物との距離は一層に縮まっていた。


「危ないっ!?」


 カンナが危険だ、と口に出した途端――その人物は横入りしてきた黒い自動車に撥ねられてしまう。この車は――。


「夏斐さん! 三春さん! 早くこちらに! 秋島さんは私の家にいらしてください!」


「わかった!」


 洋子に助けられた二人はその場で泣きそうになるほど、安堵するのだった。


 四人がその場を去った後、顔がないその人物は誰もいないその通りを見渡すと、どこかへと行ってしまった。彼がどこへ行くかなんて誰にも知る由はない。

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