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Impact penetrate 崩壊 1

 鶸はチラリと高度計を見やった。

 ん ?

 上下左右の区別のない宇宙で高度計が何の役に立つのかって ? 宇宙に住むだけの人々は不思議に思うだろう。だが、此れは必要不可欠な代物だと言える。

 只、名称は高度計だが高度のない宇宙での使用用途は、戦艦や船又はライフカプセルや宇宙ステーション迄の距離を計測するのに使用している。

 理由 ?

 理由は簡単な事。

 ライフカプセルや戦艦等人が住む場所には疑似重力が発生しているからだ。其れは当然の事だが其れ等のカテゴリーを超えて宇宙にも強く影響を与えている。

 つまり、其れ等に近づけば近づく程重力の影響を強く受ける事になる。

 其の昔の人は、地球に飲み込まれる。と、言う表現を使用していたらしいがまさに其れだ。一つ間違えれば体制を崩されそのまま激突してしまう。

そして何よりも地球軌道上に聳えるニューセイルには、地球から発生している重力も視野に入れなければいけない。

 だから、お分かりだろうが高度計は必要不可欠なのだ。

 そして目標のニューセイル外壁迄30km。

 人事の様に聳えていた巨大な茸が目前に迫っている。余りの大きさの為に、未だ30kmも離れていると言うのに恰も麓にいる様な気にさせる。然れどたかだが30km。宇宙でのスピードを考えると一瞬で其の差は消え去ってしまう程度の距離である事に違いはない。

 高度計が示す距離が瞬く間に短くなって行く。

 グイグイ、グイグイと距離が短くなるに連れ、重力の引きずり込む力が強まって行く。其れでも続々と集まってくる敵兵器の攻撃は緩やかになる事はない。

 幾ら此方の武器がどうだ、相手の武器がどうだと言っても当たればダメージを食らうことになるし、下手をすれば撃ち落とされる。武装の優位は優位と言うだけで無敵になったわけではない。

 其れにBanGもボディに使える程余っているわけでもなさそうだし、仮に使えたとしてもプラズマの持つ半端ない熱量はボディを過剰に加熱し中のフレームや機械系統に甚大な影響を与えるだろう。そして何よりBanGは熱に強いと言うだけで強度自体は並である。

 何にしても当たらぬにこした事はないと言う事だ。

 鶸はフェネックにライフルを構えさせると1射、又1射ビームを打つ。その度に怪しく禍々しいフェネックの姿が露になる。

 グイグイと強い力で重力が兵器を引き寄せる中、鶸はビームを撃ち近づく敵を切り捨てて行く。


 だが、矢張り重力の持つ力は偉大だ。


 ニューセイルの擬似重力もさる事乍ら此処は地球軌道上である。天然の重力が兵器を飲み込もうとする力は想像以上に強い。

 徐々に兵器の重さが運動性能に変化をもたらし始め、無重力の中で戦闘する様な羽ーー。否、綿の様な動きから重い鉄の塊の動きに変わって行く。

「大佐ーー。此れは予想以上ってやつですか。」

 圉孫艶ぎょそんえん一等級大尉が言った。

「予想以上 ? 茸の大きさに驚いたのか。」

「真逆。敵の多さですよ。」

「確かに。予想以上に多いな。」

 エリン-ノワンル一等級大尉が答える。

「あぁぁ、基地の状態から殆ど壊滅したと思っていたけどな。」

 ジェイソン-イリフィン同じく一等級大尉が言う。

「ビーム兵器のお陰だな。」

 バグン-ダナワワン一等級大尉が答える。

「残り10kmーー。後一息なんだがな。」

 王焚場わんふんば一等級大尉が言う。

「あぁぁ、こんな所で立ち往生してちゃぁ、学に笑われるぜ。」

 ダット-えん一等級大尉が答える。

「もとい、彼奴の事だ我先に突っ込んで来そうだ。」

 そう言って王はライフルで敵を牽制する。然れど大多数対6。先程迄外壁から威嚇射撃をしていた敵兵器もいよいよ本腰を入れて外壁を離れ肉弾戦を仕掛け始めて来た。

 確かにーー。此れは予想を遥かに上回る多さだと鶸も思う。

「だがーー。」

 と、鶸は後ろを見やる。敵味方部隊の大半以上はまだまだ防衛ラインで戯れているのが現状。

そんな中で無理やり部隊を此方に回しているのだろうか ?

 ふと、そんな事を考える。

 否、

 ニューセイルは誰の目から見ても陥落している。そう言っても過言ではない惨状だ。其れは一本気陽光も理解しているだろうし、ニューセイル自体も過去の遺物であることも分かっている筈だ。

 ならば、そんな無駄な事をするだろうか ?

 矢張り否ーー。

 今、彼等が最重要で守らなければいけないのは大型戦艦大和、その2番艦に当たる大型戦艦鬼神丸だ。と、鶸は近くにいる艦隊を見やる。

 然れど

 然れど、

 鬼神丸の姿は見当たらない。

 否、正確には鬼神丸の形を知らないので何れが鬼神丸なのかは定かではないが、其れでも大型戦艦と言われる程の戦艦は見当たらない。

 未だ出航出来ず港の中か ?

 成る程、外壁にいる連中は鬼神丸を護衛していると言う事か。ならば、外壁にいる人形兵器は新たにニューセイルから出てきたと考える方が正しいのかもしれないな。


 全く、只デカイトいうだけではない様だ。


 と、鶸は迫り来る敵をライフルで狙い撃つ。然れど敵もビームの威力を目の当たりにし、異常な程の警戒を見せている。

 受けても意味が無い。

 なら避けろ。

 放たれるビームを必至に避け乍らグイグイと敵兵器が突っ込んでくる。その間相手は一切の攻撃を仕掛けて来ない。だから援護は外壁にいる兵器が担っている。

 まったく、こちらに取っては厄介な戦法だ。

 其れでもーー。

 伊達に千成武人の称号を得ている訳ではない。

 鶸はスーッと息を吸い込み、自分の宇宙に映る全てをギロリと見やる。

 闇の中で青く輝く星。

 宇宙を照らす風前の灯であるニューセイルの灯り。

 戦艦から零れる灯りが、

 放たれるプラズマの閃光が、

 宇宙を彩っている。

 普段ならハッキリと見やる事の出来ない風景がハッキリと宇宙に表示される。敵兵器の挙動が恐怖が怒りがヒシヒシと伝わってくる。

 そして、

 何故、

 そう、何故人類は宇宙に上がって迄戦争をするのか ? 兵士である私がこんな事を考えるのは無粋な事だが素直に然う思う。何故なら、戦争の悲劇は歴史を通し伝わっているはずだからだ。 

 では何故 ?

 否、愚問だ。

 其れは、知らないからだ。

 知らぬから職がないと言って兵士になるのだ。

 知らぬから同じ事を何度も、何度も繰り返すのだ。

 あれだけ地球を汚染しても尚、人は核の本当の恐怖を知ろうとはしない。此れだけ貧富の差が激しい世の中にあっても本質を知ろうとはしない。

 富と名声。

 普通の暮らし。

 貧民と奴隷。

 詰まらぬ事に酷使し、

 日々時間を費やして行く。

 地球を奪われても尚、人々は理解しようとしない。


 だから戦争をするのだよ。

 

 ありったけの屈辱と悲しみと恐怖を持って、

 宇宙にいれば、戦争で死ぬのは兵士だけではないと、知る事が出来るだろう。何故なら君達に逃げ場は無いのだから。


 そして知れば良い。


 自分達が如何に愚かであったかを。

 この戦争は言わば結果ーー。

 人類が選んだ最終決断だ。


 そして、鶸の宇宙には、重力に逆らう様に敵兵器が目前に迄近づいて来ている。そして、スパイラルで、シールドでフェネックに襲いかかる。

「悪いが、始まりの花火を上げに行かさせてもらうぞ。」

 そう言うと鶸は其れ等をスルリと交わしビームの剣で切り裂いていく。その激しいプラズマエネルギーが切り裂くボディを弾け飛ばし、力強い衝撃が鶸のコクピットにまで伝わって来る。

 グッと歯を食いしばり、続けて宇宙政府統一連合の兵器に襲いかかる。引き裂かれるように千切れていく相手兵器がニューセイルの外壁に吸い寄せられるように落ちていく。

 襲い来る兵器を蹴散らすと鶸はビームの刃を消し、アームに柄を持たせライフルを構える。

 外壁から攻撃を仕掛けてくる兵器を狙い撃つためだ。

 弱は狙いを定めると躊躇うことなくトリガーを引く。ライフルから放たれる光は稲妻の如く兵器を破壊する。ビームに貫かれるというよりも弾け飛ばされていく様に見えるこの光景。外壁に当たったビームも同じように分厚い鉄板を弾け飛ばす。 

 恐らく当たった場所はその膨大なエネルギーにより貫かれているのだろうが、その力はそれだけでは収まらず周囲の物を破壊し弾け飛ばしているのだ。

 鶸の後方からもビームが放たれる。

 王達だ。

 放たれるビームは光り輝きながら外壁と兵器を破壊していく。反撃するよりも攻撃を交わすだけで手一杯な状況である。

 運良く避けても弾き飛ばされる破片に当たり破損させられる事もある。だからライフルで狙っている余裕もない。

 こちらの攻撃に翻弄される様を見やり、鶸は右腕のアームに掴ませている柄からビームの刃を形成させる。

 そして、

 一瞬。

 鶸は更にスピードを上げると瞬く間に敵兵器を切り刻んで行った。

「大佐ーー。地球に飲み込まれないで下さいよ。」

 エリンがそう言うと、鶸はニヤリと笑みを浮かべ、あぁ、分かった。と、言ってニューセイルの外壁に降り立った。

 そして、ジロリ、ギロリと周りを見やる。

 外壁から見やる宇宙は宇宙からニューセイルを見やるのとは又違う風景になる。そして、フェネックの動きも又変わる。

 先程迄グイグイと飛んでいる様に動いていたフェックの動きは、ホバー走行をしているかの如く、少し兵器を浮かせて移動する様になる。残念な事だが、足が有るからと言って走ったりはしないのだ。多少なら歩くが、基本的に歩行はしない。

 だから兵器がホバーの力で宙に浮くと、フワフワと安定感の無い軽い感じに変わる。鶸はフワフワとしたこの感じが嫌いなので基本的に地上戦は好まない。

 好まないが不得意と言う訳でもない。

 だから、ニヤリ。

 余裕の笑みを浮かべたまま周りを見やる余裕が有るのだ。

 飛び交う銃弾とビーム。

 巡洋戦艦から放たれるレーザー砲。そして沈んで行く巡洋戦艦。

 まるで最終決戦でも行っているかの如く。其の風景は凄まじい物である。

 そして鬼神丸を護衛する人形兵器。

 どんなに状況が最悪でも、守るべき物はどんな事があっても守る。武人としての埃を掛けるが如く。一本気陽光艦隊指令大佐は鬼の形相で敵兵器を薙ぎ倒して行く。

「何なんだーー。こんな物が。って、クソ ! !。」

 と、ガロン0式をグイグイと駆り乍ら迫り来る敵を押し返していた。

 一本気が人形兵器に乗ってから未だ数分も経ってはいない。其れでも一本気の周りには必然的に仲間の人形兵器が集って来ている。

 信用されている物だと皮肉めいた事を思い乍らも、鬼神丸を出航させる為には有り難い事である。然れど、真逆のプラズマ兵器の使用には正直驚かされる。

 実用されて数十年。

 全く役に立たなかった兵器の再構築をしていたのは、自分達だけではなかったと言う事になる。しかも連合帝国側の方が先に使用して来た事に更なる驚きを隠せない。

 BanGに変わる鉱物でも見つけたのか ?

 否、恐らくCUEもBanGを使っているのだろう。

 全くーー。

 と、チラリと鬼神丸を見やる。出来るだけ敵を鬼神丸に近づけたくないと言う思いから一本気は鬼神丸から離れた場所で敵と交戦している。

 其れでも鬼神丸迄の距離は近い。

 3kmーー、否4kmは離れているかーー。矢張り近い。近すぎる。然れどそれ以上前に行く事が出来ない。其れも敵のビーム兵器の所為だ。一気に押され始めた。

 それでも、敵のヘボな腕のお陰で助かっている。此れで腕が良ければアウトだった。ライフルを撃ち剣でたたっ切る。スパイラルで殴り相手を押さえつける。それでも、相手を一撃で落とせるのは巧く急所に入った時だけだ。


 だが、

 敵は違う。


 ヘボでも一発当たれば高い確立で人形兵器を破壊出来る。

 しかも防御は不可。万が一にでも当たれば終わりだ。そして一本気がアーダ、コーダとしていると通信専用の人形兵器を駆る原田葵軍曹から通信が入った。

「大佐 !!大変です。兎に角映像を送ります。」

 そう言って原田が映像を送る。

「何だ !」

 と言い乍ら一本気は送られて来た映像を自分の宇宙に映しだす。

「此れはーー。」

 ドクンと心臓が高鳴る。

「敵部隊がニューセイル外壁に到達しました。」

「何たる失態だ。」

 と、ジッと映像を見やる。そして、ゾクリ。背筋に悪寒が走る。

「こ、こいつ。」

「はい。異様な程強いです。」

「当たり前だ。こいつはーー。千成武人だ。」

「せ、千成武人って。あのーー。」

「あぁぁぁ、間違いない。この動きは間違いなく千成武人だ。」

 そう言うと一本気は鬼神丸に通信を送る。

「艦長 ! ! 出航準備は ?」

 河野が通信回線を開くと同時に、一本気の鬼の様な形相と威圧する様な怒鳴り声が艦橋に響いた。河野は顔を引き攣らせ乍ら、いや、未だ。とボソリと答える。

「未だーー。急げ。出来るだけ早く。今直ぐにでも出航させろ!!」

「むちゃを言わんで下さい。ようやく人が集った所なんですよ。其れでも少ないぐらいだ。」

「分かっている。無理を承知で言っているんだ。兎に角急げ、急がねば沈まされるぞ。」

「か、艦隊司令ーー。」

 河野は初めて聞く一本気の弱気な言動に顔色を変えた。

「千成武人だ。この作戦、彼奴が指揮を取っている。」

「千成武人ーー。まさか。」

「いや、間違いない。それに、ニューセイル外壁に到達された。」

「はい。其れは此方でも確認済みです。」

「だったら急げ。何を企んでるか分からんぞ。其れに、こっちにはないんだ。あれが。」

「あれ ? ですか。」

「兵器だ。兵器。ビーム兵器。ニューセイルにはないんだよ。」

「え、えぇぇーー。え ? 否、有りますよ。」

「ある。あるのか ?」

「え、えぇぇ。テスト機ですが。日野本工業のドックに確か有りました。」

「日野本工業 ? 其れは何処だ ?」

「市街地の中です。」

「市街地だぁぁぁ。誰が今から市街地迄行くんだよ。」

「す、すみません。」

 そう言うと河野はションボリと頭を足れた。


 ーー「でも、これ華奢きゃしゃですよね。」

 人形兵器を見上げ悠那が言った。

 依存の兵器とは一風変わった姿の兵器を見やり新しい時代の幕開けを少し感じた。だが、これはあくまでもテスト機とコンセプト機。

 それはその外欄を見れば誰にでも分かる。各部位毎に色分けされたボディは各部の動作チェックを行う為のものだし、そして外装もそれに伴いどうも安っぽい。

 ピンクと赤に塗られたもう一つの兵器は、形はしっかりと出来上がっているが、こう言った派手な色合いは好まれない事から製品版ではないと思われる。

「だな。此れで殴り合ったらバラバラになりそうだな。」

「はい。那奈さんの方が丈夫そうですね。」

 と、悠那が言うとガツンと日比野に殴られた。

「那奈はああ見えてもろいんだよ。」

「なによぉ。ああ見えてってどう言う意味ぃぃ。」

「そのままかとーー。」

「あら、沙也ちゃん迄そう言う亊言うのぉ。」

 と、那奈が言った所で、ヘッドライトを煌煌と照らし乍ら1台の車が入って来た。其の車は兵器の前でピタリと止まり、中から金色の髪を靡かせた女性が1人降りて来る。

「え、人 ?」

 と、悠那が見やると見た事もない様な美しい女性が其処にいた。人形の様だ。と思い乍らジッと見やっていると、あぁぁぁ、リオンじゃない。と那奈が言った。

「リオン ? おう、本当だ。リオンじゃないか。」

 と、日比野が言う。

「あら、お二人さんごきげんよう。貴方達も此処の兵器をパクりに来たの ?」

 リオンは長い髪を一つでにくくり乍ら答えた。

「だよ。」

「そっか。考える事は同じね。所でその那奈のスーツはあれ ? コンセプトは達磨 ?」

「は ? 達磨。」

 ジロリと那奈がリオンを見やる。

「うん。だってどう見てもだーー。」

 と、言った所で那奈が雄叫びを上げ乍ら空中二段蹴りをリオンに繰り出した。リオンは其れを手で払うと、相変わらず身軽ね。と言う。

「当然よ私の祖父は其の祖父に、そして其の又祖父はーー。」

「はいはい。先祖代々詠春拳を伝授されて来たんでしょ。でもさぁ、詠春拳に空中二段蹴りは無いわよ。」

「いいの。此れは私のオリジナルなんだからぁ。」

「オリジナルね。まぁ、どうでも良いけどさ。急いでるから先に行くね。」

 と、言うとリオンはさっさと華奢な人形兵器に向って走って行った。其の姿をジッと見やり、あのーー。知り合いなんですか ? と、ボソリと悠那が日比野に聞いた。

「だよ。本名アラン-ノマンシェ33才だ。」

「え。アラン ? え、でもリオンって。あーー。もしかして情報機関かなんかのエージェントですか ?」

 キラリと目を輝かせ悠那が問い返す。

「いや、彼奴は只の看護兵だ。」

「か、看護兵 ? 看護兵が人形兵器に乗るんですか ?」

「だよ。彼奴は元々パイロットだったからな。」

「そうそう。リオンちゃんは女になる迄はパイロットだったのよ。」

「??? 女になる迄 ?」

「そうよ。リオンちゃんは愛する人の為に性転換手術をしたのよぉ。」

「へー、って、あの人バトルスーツも着ないで兵器に乗りましたよ。」

 と、悠那は驚いた口調で言った。

「大丈夫なんだよ。彼奴は那奈と違って丈夫だから。」

「そうそう。リオンちゃんは丈夫だから。」

 と、二人は平然と言って退け兵器のコクピットに向って歩き始めた。

「ふーん。」

 と、言い乍ら悠那も兵器のコクピットに向って歩き始める。

「ふーん。気になるんだ。」

 後ろで沙也が言った。悠那はゾクと何やら嫌な気配を感じたのかハッと振り返る。

「えーー。な、何が。」

「何が。じゃ無くて。リオンの事気になるんだ。どうせ私は可愛くないし。医務科の人の様に華奢じゃないし。足だって太いし、大根だし。」

「そ、そんなんじゃないよ。」

「そんなんだもん。だって悠那はエロい目でリオン見てたもん。」

「み、見てないよ。其れに沙也の方が可愛いし。」

「ふんだ。」

 と言ってプイッと顔を背ける。

「え、え、えぇぇぇぇぇ。ち、違うんだよ。ただ、」

「ただ、何よ。」

「お人形さん見たいだなって。」

「は、何。お人形さん。ふん。どうせ私はへちゃむくれですよ。」

「そ、そんな事無いよ。沙也は熊さんみたいで可愛いよ。」

「はぁ、熊 ? くぅぅぅまぁぁぁ。はぁ、何それ。熊って何よ。熊って ! !」

「おーい。何してんだよ。さっさと乗らねえと置いてくぞ。」

 コクピットの入り口で日比野が大声で言った。チロリと日比野を見やると日比野はテスト機のコクピットの前にいた。派手好きの日比野の事だから、てっきりコンセプト機に乗るものだと思っていたのだがどうやら違ったみたいだ。

「あ、はい。いや、あの。後で謝るからさ。兎に角今は行こう。」

「こんな気持ちで行けない。」

「えぇぇぇ。じゃぁ、どうすればいい ?」

「ギュッてして。」

「ギュッてーー。分かった。」

 そう言うと悠那はギュッと沙也を抱きしめた。

 そして、沙也の体がブルブルと震えているのを知った。

 そう、拗ねていても、

 ダダをこねていても、怒っていても。

 其の全ては僕に甘えるため。否、其の全てが甘えていたんだ。女の子として、沙也は僕に甘えて来ていたんだ。


 そして僕は沙也の言葉を思い出した。


 ’いつも、いつも出撃の度に今日で最後なんだと思って出て行きます。毎日、毎日、今日も明日も明後日もずっと最後が付き纏っているんです。この恐怖は兵士を辞める迄ずっと続くと思います。だから、毎日が恐怖です。だけど、選んだのは私です。’


 沙也の言葉を思い出して僕は又ポロリと涙を流す。

 ポロポロ、ポロポロと涙が込み上げてくる。

 僕は、

 僕は、

「ごめん。だけど好きなのは沙也だから。」

「うん。私も好きだよ。」

 甘えた沙也の声が耳に残る。

 そうーー。

 沙也は知っているのだ。戦場に出ると言う事がどう言う事なのかを。だけど実戦経験の無い僕に取って、其れはゲームの延長に過ぎない。ブルブルと震えていた体は人形兵器を前に高ぶり興奮している。

 そう、コクピットの中は疑似世界が広がっているだけの仮想空間。其れはワールドオブウェポンズドールの世界と瓜二つの世界。だから、コクピットに入れば自慢の腕を披露出来る。

 怯えていた僕が沙也に良い所を見せる事が出来る唯一の場所。只、僕はそんな詰まらぬ事を心の奥底で考えていた。

 だから、怯えていた僕はいつの間にか百戦錬磨の達人の様に余裕な気持ちになっていたのだ。それは世界ランキング4位と言う実力が成せる技でもある。だけど、沙也は知っている。其れがゲームとは違うと言う事を。リアルにはコンテニューと言う便利な機能が付いていないと言う事を。

 其れは戦場で戦友を無くし続けて来た者にしか分からぬ辛さ。

 そして引かれ合って、

 出会い、

 好きになって、

 直ぐに戦場に出る。

 この会話が最後かもしれない。

 この温もりが最後の温もりかもしれない。

 このドキドキがーー。

 其れが一瞬で消え去る、本当の怖さを知っているのだ。聞きたくても二度と聞く事が出来なくなる声。嬉しい事だけが残る想い出。

 絶対に生きて帰れる何て言いきれない現実。

 其れでも、僕達は戦場に出て行く。

 兵士だから ?


 違うよ。


 生きる為だ。

 そう、僕達は、

 生きる為に兵士になって。

 生きる為に戦場に出る。

 本当。嫌になるよこんな世界。誰だよ。世界をこんな風にした人達は。

 どうして僕達がーー。

 過去の人間の尻拭いをしなければ行けないんだよ。

 誰だよ、地球の環境をむちゃくちゃにしたのは。

 遥か昔の様に、ずっと地球で暮らせる事が出来ていたらーー。

 否、止めよう。と、悠那は今一度ギュッと沙也を抱きしめ、さぁ、行こうか。と、言った。沙也は悠那の胸の中で、うん。と、答える。

「良し、じゃぁ、行こう。続きは帰ってからだ。」

「うん。約束だよ。」

「約束だ。」

 そう言って僕達はコクピットの所に向った。

「あ、沙也は僕の後ろにいれば良いよ。得意じゃないんだろ。」

 そう僕が言うと沙也はニヤッと笑みを浮かべ、大丈夫だよ。私はあれに乗るから。と人形兵器の奥に置いてある見た事もないファイターを指差した。

「悠那。今回だけは私が守ってあげるよ。」

 そしてニコリと沙也は笑った。

 まったく…。

 どうして女は強い。僕は苦笑いを浮かべコクピットのハッチを閉めた。


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