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Impact penetrate 千成武人2

 ふと、正気に戻るとニューセイルの揺れが少し静かになっている事に気付く。だからと言って街が元の姿に戻っているのかと言えばそうじゃない。

 辛うじて重力制御装置は生きているが、その他の電力はブラックアウト状態に近い。だから空気が無くなるのも重力が無くなるのも時間の問題と言えた。

 其れに外からの光が一切差し込まないニューセイルの街は、空が消えれば漆黒の闇に飲み込まれる。所々に非常灯が灯っているが、都市1個分を包み込む巨大な鉄の箱を十分に照らせるだけの明かりは無く殆ど周りの状況が把握出来ないのが現状だった。

 ゴソゴソっと日比野はポケットから小さなライトを取り出しスイッチを入れる。目前が少し明るくなり、瓦礫がチラホラと見やる事が出来る様になった。

 周囲を少し照らした後、日比野はライトの灯りでルートを示す様に灯りを瓦礫からジープに移動させる。幸いな事に障害になりそうな程の瓦礫は散乱していない。念のため一通り確認を済ませ、さて、秘密基地に行くか。と、言って日比野は店の前に止めてあるジープに向った。

 其れを追う様に悠那と沙也が後に続く。日比野は右側の運転席側のドアを開けソソクサと乗り込むと素早くエンジンを掛けライトを点灯させた。

 そして現実が自分の目を通して脳に情報を送る。脳裏に残る景色と目前の景色とのギャップに一瞬意味がわからなくなった。

 キャニオンもなければ空もない。ビルは崩壊し道は瓦礫で埋れている。山は鉄の壁に変わり、空は剥き出しの天井に変わっていた。

ブルっと体が震えた。

「生存者は ?」

 思わず口から出た言葉だった。だけど、生存者がいるか如何か等、この暗がりの中では分からないだろうし何が出来るわけでもない。

「さぁな。無事なら地下の救命ポッドに行ってるさ。」

 日比野が答える。

「救命ポッドかぁ。」

 沙也が言う。

「今頃バビューンッて発射されてるわよぉ。」

 パクリとポテトスナックを食べ乍那奈が言った。

 確かにここまで破壊されれば、救命ポッドが宇宙に射出される可能性は高い。だけど救命ポッドが射出されたとして、この戦闘のど真ん中に投げ出されて大丈夫なのだろうか ? と、悠那は無駄に地面を見やった。

 然れどいくら地面を見た所で何も伝わってはこない。其れに救命ポッドは地球に向けて発射されるのだから戦闘は避けられる可能性の方が高かった。

 やばいのはあくまでも空ーー。

 漆黒の闇に飲み込まれた黒き宇宙。

 真黒だーー。

 暗き闇を見やりボソリと呟く。

「悠那ーー。行くぞ。」

 そんな悠那を見やり日比野は早く乗れと言いたそうな顔で言った。悠那は、あ、はい。と答えると思い残す様な気持ちを置き去りのまま後部座席に乗り込んだ。横には先に乗り込んだ沙也が薄暗い外を見やっている。悠那は運転席の日比野を見やり、大尉は心配にならないのだろうか ? と、問い掛けようとして止めた。

 だってそれは、僕にだって分かる。

 分かってる。

 心配している余裕など誰にもない。

 この状況から生存する事に集中しなければ、

 僕達は間違いなく死ぬーー。

 そう、死ぬ。

 死ぬ。

 ドクンと鼓動が高鳴る。

 悠那はグッと拳を握りしめ歯を食いしばった。

 怯えない様に、恐れない様に頑張っても未だ体が震える。初めて味わう恐怖は体から抜けない。現実を見やり怖いと思うことは正しい事だ。

 だからーー。

 乗り越えるんだーー。

 そうだーー。

 乗り越えろーー。

 乗り越えろーー。

 歯を食いしばり悠那は必死に恐怖と戦う。泣かない様に、怯えない様に必死に拳を握りしめる。それでもブルっと体が震える。

 もう怖がらない。立ち向かうんだと決めても映画の様にはいかないものだ。拭い去ろうとしても恐怖が頭から離れない。

 悠那の願う気持ちに答えること無く体はガタガタ、ガタガタと。

 やめろーー。

 震えるな。

 震えるな。

 怖くないーー。

 怖くなんかないーー。

 ガタガタ、ガタガタと震える体を押さえつける様に力を入れる。必死に悠那は自分の中の恐怖と戦い続ける。

 そして暖かい温もりが手に伝わってきた。

 悠那の手の上に沙也の手がソッと被さっている。

 暖かい温もりがジンワリと悠那を包み込んで行く。

 震える体が、染み渡る恐怖がーー。

 沙也の温もりで、


 無くなる訳などない。


 迫り来る現実を前に僕は前を向けないでいる。

「私も怖いです。」

 そんな悠那にか細い声で沙也が言った。

「いつも、いつも出撃の度に今日で最後なんだと思って出て行きます。毎日、毎日、今日も明日も明後日もずっと最後が付き纏っているんです。この恐怖は兵士を辞める迄ずっと続くと思います。だから、毎日が恐怖です。だけど、選んだのは私です。」

 悠那の手をギュッと握る。

 そして悠那はやっと沙也の持つ恐怖を知った。先ほど迄サラッとしていた沙也の手が汗ばんでいる。怖くなんかないーー。そんな表情を見せていても内心は怖くて、怖くてどう仕様も無いのだ。悠那はアメイジング機に乗る手練れでも恐怖し、緊張するのだと知った。笑っていても、平然としていても其れは強がっているだけなのだと知った。


 僕はーー。

 やっぱりダメだなぁ。


 悠那は震える手を動かすと沙也の手をそっと払いのけ、今度は悠那が沙也の手をギュッと握った。

 勿論、言葉はなかった。

 何を言えば良いのか分からないと言うのが本当の所だ。だけど、今は其れで良いと思う。いずれ、いつの日かきっと何か言える日が来る。

 僕はーー。

 絶対にそうなるんだ。

「悠那。」

 徐に悠那を見やり沙也が言った。

「え、な、何  ?」

 心の声を聞かれたのかと思い少し焦る。

「怖くて失禁しそう。」

 そう言って沙也が笑った。な、何だよそれ。然う想い乍らも又沙也の笑顔に助けられたと思う。 

 沙也が笑う。

 だから僕もつられて笑った。

 瓦礫に埋もれる街を見やり乍ら、暗闇に覆われた鉄の箱の中で樸は笑った。ちゃんと笑えていたかどうかは不安だが樸は必死に笑った。

 この、笑えない状況の中で、

 人の死骸が散らばっているステーションの中で…。

 樸は戦争と言う物を実感した。


 ーー。

「鬼神丸を最優先で出港させる ! クルーは鬼神丸の出港準備を手伝え !」

「負傷兵は兵器格納庫だ! 救護室 ? 救護室はもう無理だぞ !」

「こっちも無理だ ! 医務科の兵はいないのか ?」

 鬼気迫る声が方々から飛び交う。敵の襲撃に対応出来なかったニューセイルの港は混乱を極めていた。港に停泊中の戦艦はクルーが足らず殆どの戦艦が港で立ち往生を強いられ、慌てて出したコードAも殆ど機能していない。

 そりゃそうだ、緊急時に発令されるコードAは自分の所属艦、自分に与えられた兵器でなくとも搭乗が可能になる。そして最優先で旗艦又は大型戦艦を守らなければ成らない。しかし、皆自分の船を出すことに執着して鬼神丸にまで意識が向いていない。其れに大型戦艦は他の船と違い勝手が大幅に違う。だから、専用のクルーがいなければ思うように作業が捗らないのだ。

 そして、慌てて港に戻ってきた兵も爆撃の巻き添えになったり、負傷兵を連れた兵士が帰還し、港付近の民間人が港に集結したりと、混乱はさらなる混乱を招いていた。

 只一つ幸いだった事は、兵器乗りのパイロットが機転を利かし直ぐに迎撃行動に移った事だ。其の行動により更なる被害は辛うじて免れた。

 だからと言って状況が好転したわけではない。2射目のミサイルに紛れて襲いかかる人形兵器の部隊がニューセイルの領域に侵入してきたからだ。

 鶸の駆るフェネックが縦横無尽に宇宙を駆ける。其れに続くように人形兵器部隊が津波の様に襲いかかり、マシンガン、ライフルから放たれる鉛玉が宇宙空間を飛び交っていた。

 完全にしてやられた格好だが、宇宙政府統一連合もやられっぱなしというわけではない。部隊長大尉クラスの兵が各々に出撃して行く兵を束ね、即席の部隊を作り上げ対抗し始めたのだ。

 其れでも圧倒的に相手の方が数が多い。其れに加え此方は船を出すことに右往左往している始末。結論から言うと、ニューセイルが落とされるのは時間の問題と言う事だ。

「鶸大佐の部隊が間もなくニューセイルに到達します。」

 通信兵から通信が入った。学は通信兵から送られて来た映像を見やると、プイッと周りを見やった。敵味方とも分からぬ兵器が殴り合っている映像が学の宇宙に映っている。

 剣を抜き、殴り、殴られ、スパイラルでお互いを蹴り合う。津波の様に押し寄せる部隊を力で押さえつける。そんな戦い方だ。

 幾ら此方が数で圧倒しても、真面目に訓練をしていたか否かでその差が大きく出てくる。場慣れしていない此方の兵ではガチンコの勝負では不利。

 只、幸いな事に其の事実に相手は未だ気づいていない。此方の奇襲に振り回されている感が否応無しに出ている。

 だからと言ってこのまま押し潰せるほどやわでもない。

 学はグイグイとフェネックを駆り乍らタイミングを図る。無数の弾道軌道が学の宇宙に表示される。シールドで弾を防ぎライフルで敵を打つ。

 打って打たれて切って切りかかられる。

 そんな中で各小隊に指示を出し乍ら防波堤を切り崩して行く。

 当然思う様に進行等出来ない。

 自分の宇宙をキョロキョロと休む間無く見やり、弾道軌道をチェックする。一瞬の判断ミスと迷いが全てを終わらす結果となるからだ。

 まったく、今回の作戦は余裕だと思っていたのにーー。そんな事を考えていた学は少し後悔している。

 他の部隊は ? と、周りを見やる。

 ゴチャゴチャと雑多した宇宙を見やっても訳など分かるはずもない。学は宇宙に他の部隊の状況を映し出す。

 薄大尉の部隊。

 殷大尉の部隊。

 圃大尉の部隊。

 鄽大尉の部隊。

 自分の近くに位置する部隊はこの4つ。何れも似たり寄ったりな状況と言える。そして、氏大尉の部隊と婀大尉の部隊は鶸大佐の道を作る為に部隊の3分の1を失っている。

 流石一本気陽光率いる部隊だと言うべきかーー。

 だとしたら、このまま行けば何れ気づかれる。

 だが、

 学は襲い来る残り6カ国の人形兵器を殴り潰すと、シークレットAAAを解除した。学の宇宙に、シークレットAAA解除。伝達。と、言う文字が表示される。

「其れでも勝つのは俺達だ。」

 その表示を見やりボソリと学が言った。

 ピピピっと鶸の宇宙にシークレットAAA、解除の文字が表示された。鶸は其れを見やり、何だ早いな。とボソリと呟くと、まぁ、いい。全員確認したな。と、鶸は自分が率いる小隊の隊員に言った。6人の隊員は速やかに返答を返す。

 そして、鶸は自分の宇宙にエネルギー供給経路を表示させる。勿論自軍からの供給ではない。相手が供給しているエネルギーだ。鶸はEolコード解析プログラムを左上に表示させる。このプログラムが敵軍のEol供給コードを解析し、此方のEolコードを書き換える。其れにより敵が放出しているエネルギーを奪う事ができる様になる。

 宇宙に表示されているエネルギー供給経路が、自軍のEolから敵軍のにEolに進路が変更された。これでエネルギー切れの心配がなくなった。

 仮に人形兵器から供給できなくなっても、戦艦やニューセイルから放出されるエネルギーを奪うことが出来るからだ。

「コード解析確認。エネルギー供給開始…。予定通り問題ありません。」

 王が言った。

「なら、速やかに武装交換。そして次世代の戦闘の在り方を教えてやろう。」

 そ言うとフェネックは手に持っていた剣とライフルをスッと離し、背中にマウントしていたライフルを右腕に装着した。そして両側の腰にぶら下げていた柄を腰から外しグッと握りしめる。

「目標ニューセイル上空。残り100Km。一気に行くぞ !」

 そう言って鶸は一気に速度を上げた。


 ーーズシリと車体の左前が下がった。

 那奈が助手席に座ったのだ。悠那はチロリと那奈を見やり、何をしてもインパクトのある人だと思った。只、其れは思うだけで口には出さない。

「姉さんやり過ぎですよ。」

 言ったのは沙也だ。

「何が ?」

 そう言い乍らドアを閉めると、それじゃぁ、行くぞ ! と言って日比野は車を発進させる。勿論、車が発進しても車体は下がったままだ。

「車体めっちゃ下がってますよ。」

 ニヤリとしたり顔を浮かべ沙也が言う。

「そんな訳ないでしょぉ。気の所為よ。」

 そう答え乍らポテトスナックを掴むーー。

 スカスカと指に感触が伝わってこない。那奈は徐に袋の中を覗くとマジかぁと言って袋を窓から捨てた。

「あっ、姉さん。駄目ですよぉ。」

 スナックの袋が風に吹かれフワリと飛んでいく。

「もぅ、沙也ちゃんは真面目なんだからぁ。」

「何言ってるんですかぁ。宇宙施設内でのポイ捨ては禁止ですよ。」

「馬鹿ねぇ。心配しなくてもニューセイルは今日で閉店ガラガラよ。」

「ガラガラってーー。アッサリとそんな事言っちゃ駄目ですよぉ。頑張って防衛しましょうよ。」

「防衛も何も、あんたこの状況見て良くそんなことが言えるわね。」

 那奈の言葉に沙也はボロボロに崩れ落ちた街を見やり、確かにーー。と、呟く。

「でしょぉぉぉ。」

 そう言うとペロリと那奈は指を舐める。日比野はそれを見やり、もう少し食うか ? と問う。

「う〜ん。どうしよっかなぁ。う〜ん。でも、今から人形に乗るしねぇ。勇はどっちが良いと思う ?」

「そうだな。俺は船に戻ってからの方が良いと思うな。」

「う〜ん。じゃぁ、そうする。」

 そう言うと那奈は大きなゲップをすると、脂ぎった指で髪をといた。そして、悠那はそんなやり取りを横で聞き乍ら思わず吹き出しそうになっていた。

 何なんだこの会話はーー。3人のやり取りを見ていた率直な感想だった。なんと言うのかまったくまとまっていない。仲が良いのは良く分かったけどーー。まったく、こんな時になんだよ。

 と、悠那は思う。思い乍ら日比野、那奈、沙也を見やり。ニヤリと笑みを浮かべた。

 何だろう。

 楽しいな。

 こんな時に、どうして僕はこんなにも楽しく笑ってるんだ ?

 どうしてこんな気持ちになるんだ ?

 今日で終わりかもしれないのにーー。

 今死ぬかもしれないのにーー。

 そうだ、

 そうだよ。

 どうせ死ぬんだったら。

 今日で終わりなら。


 心の底から笑ってやろうーー。

 僕はそんな風に思った。


「なんだよ。良い顔するじゃないか。」

 そんな悠那を見やり日比野が言った。

「え、あーー。」

「どうせ今日で最後なら笑顔でいよう。何て気持ちわりぃ事考えてんじゃないだろうな。」

 そう言うと日比野はニヤリと笑みを浮かべる。悠那はスッと視線を逸らし、そ、そんな事考えてませんよ。と答えた。

「だよ。そんな事考えられてたら俺はショックだよ。自分の部下にヘボ大尉と思われてるって事だからな。それに嬉しいことにコードAも発令されてるしよ。」

「え、コードAですか。」

「だよ。だから気兼ねなしにあれに乗れるぜ。」

 そう言って日比野は目前に聳え立つ人形をフロントガラス越しに指差した。

「着いたぜ、悠那。此処が秘密基地だ。」

 あーー。

 着いてたんだーー。

 早いな。知らない間にもう着いたんだ。そう思い乍ら悠那は前を見やる。那奈の体が邪魔で人形の姿は殆ど見えない。

「ボクゥ、秘密基地にようこそ。」

 そう言って那奈はドアを開けるとヒョイっと車から降りた。見た目の大きさからは想像出来ない那奈の身の軽さに、デブゴンだ。そう思ったが悠那は口には出さなかった。

 チロリと前を見やり、助手席のシートを倒す。此の位置からだと殆ど分からないな。そう思い乍ら秘密基地に降り立つ。沙也は日比野大尉の方から秘密基地に降り立ち、すかさず姉さんデブゴンみたいでしたよ ! と、言っていた。

 本当に仲が良いんだなと思い乍らも、最早僕の興味はそこにはない。

 あるのは目前に聳え立つ謎の兵器ーー。

 僕はユックリとそれを見上げた。

「どうだ。」

 悠那の横に立ち日比野が言った。

「暗くてよく分からないですけど、ワクワクします。」

「だろ。」

「はい。」

「それじゃぁ、やり返しに行くか。」

 そう言うと日比野は更衣室に向かって歩き始めた。


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