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Impact penetrate 千成武人1

挿絵(By みてみん)

鶸鴻鉞じゃくほんえつ大佐。皇帝陛下の声明が始まりました。」

 艦隊司令兼大型戦艦ホーリーリング艦長師洪戦しほんせんが言った。

「あぁ、私の宇宙にも皇帝陛下が映しだされているよ。」

 鶸は、自分の宇宙に表示させている李筝雲りそううんから、その視線を小さく表示されている師に移し答えた。

「了解しました。それでは作戦を開始します。」

「宜しく頼む。私は作戦通り学元寸がくげんすん大尉の部隊と兵器で出撃する。艦隊戦の指揮は頼むぞ。」

「了解です。しかし良いのですか ?」

「何がだ ?」

「ミサイルに施した光学迷彩です。一基だけノイズが走る仕様になっていますが。」

 と、師は第一艦橋内に映し出しているミサイルを見やり乍ら言った。

「あぁぁ、構わんよ。こちらは奇襲をかけるんだからな。其れぐらいのチャンスは与えてやるさ。」「チャンス…、ですか。」

 指でミサイルをクルクル回しながら師が言う。

 第一艦橋に映し出されているミサイルのホログラムが、師の指に連動して忙しなく動く。

「あぁ、何も知らずに死んで行くのは何かと不憫だろうからな。」

 鶸も自身の宇宙にミサイルを表示させる。

「ですが、我々の絶対有利が覆りかねません。」

「それは、相手が気付けばの話だ。心配せずともニューセイルは落とせるさ。」

 そう言って鶸は通信を切り、暫しそのミサイルを見やった後すっとそれを消した。

 そして、ジロリ…。

 宇宙を見やる。

 広大な宇宙に中華連合帝国軍の艦隊凡そ25隻が今まさに出撃の合図を待っている。此れだけの数の戦艦が集結しても宇宙には物音一つ響かない。

 漆黒の中に静かに浮かぶ其れ等は静かに灯りを灯す。

 然れど、宇宙とは違い戦艦の中は物々しい音がけたたましく鳴り響き出撃するのだと言うことを否応なしに告げる。

 艦隊司令の師洪戰が全巻に向けて司令を発する。その合図と共に各戦艦の周囲には光学迷彩が施されその姿を宇宙に同化させる。

 鶸はその様子を人形兵器フェネック-ベースグレードのコクピットの中で見やっている。人形兵器の部隊はまだ出撃していない。

 鶸は旗艦ホーリーリングの中でジッとその時を待っている。

 やがて艦隊の前面に投影されていた光学迷彩が静かに消える。

 此れが消えても戦艦に施された光学迷彩がその姿を隠肉眼でも艦隊を探すことは出来ない。だから其れをクローズした所で何が起こったのか理解できるものはいない。漆黒の闇は闇のまま其処に存在しているだけだ。

 艦隊は赤外線と通信だけを頼りに艦を発進させる。目標のニューセイルまで15万Km。高速走行を行えば10分もかからない距離だ。その10分足らずの時間兵士はコクピットの中で迫り来る恐怖に極限の緊張をもたらす。

 精神安定タブレットを大量に含む兵士もいる。

 静かにその緊張を楽しむ兵士もいる。

 長い様で短い時間が流れやがて兵士は現実を目の当たりにする。

 大隊隊長の号令に従い小隊長が部下に命令を下す。

 其れと同時に格納庫にけたたましい音が鳴り響き、高さ約15mの人形に命が吹き込まれ。人形は鉄の塊の体をグゥゥゥゥッと動かし始めるのだ。

 人形は部隊別にカタパルトから規則正しく宇宙に躍り出る。艦隊の前衛には光学迷彩が貼られ人形兵器の姿を隠す。

 その数凡そ600機ファイターの数を入れると2000はくだらない数だ。其れらが全て光学迷彩の向こうに集結しているのだ。

 勿論ニューセイルから我等を見つける事は容易な事ではない。其れに残り6カ国は開戦はあくまでも6日後だと思っているので其処まで執拗な警戒はしていない。

 だから余計に容易だった。

 地球軌道ステーションニューセイルまで1500Kmの間近に迫ってもその存在を知られることはなかった。鶸は自分の宇宙に映るニューセイルを見やり、ニタリと笑みを浮かべる。

「学大尉ーー。」

 宇宙に躍り出た人形兵器、ファイター戦艦を見やり乍ら鶸が学に通信を送る。

「はい。鶸大佐。」

「流石に600機の人形兵器が一同に会すると壮観だな。」

「ええ、ですが私は少し恐怖を感じます。」

「恐怖 ?」

 と、鶸は艦隊の前に整列する人形兵器を見やり、うむ、確かに。と言うと、鶸大佐でも恐怖を感じるのですか ? と学が答えた。鶸はニッと笑みを浮かべると、さぁ、始めようと言って通信を着切る。そして鶸は整列する部隊の一番前にフェネックを移動させると体を部隊の正面に向けた。

 トクンと鼓動がリズムを刻む。

 流石に緊張しているのか時折腕がブルっと震えた。例え自分達が仕掛けた戦争であってもいざ始まるとなると緊張しないはずがない。其れにこの戦いは間違いなく歴史に残る戦争になる。卑怯な戦略だろうと勝った方が世界を支配する唯一の国家になる。其れに綺麗な言葉は勝った後で幾らでも付けたせる。

 だからこの卑怯な戦略が下品されるのなら終わった後で歴史を作り直せば良い。

 鶸はファイター、人形兵器約2000、そして後ろに控える艦隊を目前に捉え通信回線を開けた。ファイター、人形兵器2000のコクピットに艦隊の全モニターに鶸が映し出される。

 鶸は暫し宇宙を見やった後、ユックリと口を開いた。

「諸君、私は君達の事を誇りに思う。其れは一般兵も将校も関係なくだ。其れだけ今回のこの作戦は重要な役割を担っている。聞いての通り、残り6カ国は我々連合帝国に宣戦布告を申しつけて来た。皇帝李筝雲殿下も仰られている様に人類の歴史の殆どは虐殺と殺戮に満ちた戦争の繰り返しだった。人々は同じ星に産まれた人類であるにも関わらず、宗教の違いから始まり、色の違いや、文化や考え方が違うだけで仲間を見下し恰も自分達の方が上だと主張する様に無駄な戦いを繰り返して来たのだ。其の詰まらぬ主張は小さな領土を奪い合う戦いから、国を取り合う戦争に発展し地球を汚染し続けた。

 私達は知っている。戦争とは無益であり其処から得られるものなど何も無いと言う事を。何故ならその結果が私達だからだ。

 宇宙に住まざるをえなくなった私達こそが結果なのだ。

 だから私達は無益な戦いを避け友好的に一つに成ろうと努力して来た。

 地球で産まれた民が一つと成り平和な世界を作らんとするためにーー。

 後の人類が皆揃って地球に住める様にと。

 しかし彼等は無下に其れを踏み躙った。

 自分達の方が素晴らしき人類だと主張するためにだ。

 たった其れだけのために彼等は宣戦布告を申しつけてきたのだ。しかし、幸か不幸か此処は宇宙だ。汚染されるものは何もない。

 しかしーー。

 此れは我等にとっても好機でもある。

 何故なら、

 我等が想いーー。

 此処まで来るのに100年。長き時間を得て今まさに想いはもぅ、其処にあるからだ。残り6カ国は協定を結び1つに成った。

 此れでこの世界に残る国は中華連合帝国と残り6カ国が作り上げた宇宙統一共和国の2国のみ。分かり易い図式だが其れだけに負ける事は許されない。

 何故なら彼等はこの時代にあってしても未だに自分達の方が優れていると思っているからだ。

 そんな彼等が世界を掌握すればーー。

 そうだ。

 私は断言できる。

 もしも彼等が勝利する様な事があれば我ら人類は未来永劫地球に戻れることは無いだろう。

 だから我々は勝たなければいけない。例え今は卑怯な作戦だと下品され様とも、先の人類は必ず私達に感謝する事になるだろう。何故なら今日のこの作戦が有ったからこそ世界は一つに成り、後の人類は地球に住める様に成るのだから。」

 鶸はそう言うと少し間を開ける。

「だから、此処に集ってくれた君達は卑怯な下衆ではない。私達は誇り高き戦士だ!」

 グッと鶸は拳を握りしめる。ワッと歓声が沸き起こり、奮い立つ闘志は力強く其の熱気がビシビシと伝わって来る様だった。鶸の演説終了後師が、其れでは各艦につぐ。ミサイル発射準備。20秒後に第1射を発射せよ。と命令を出す。師は其の後、皇帝李筝雲の様子を見やる。メインデッキ中央に映し出されている李の姿は晴れがましく態とらしいと言わんばかりのジェスチャーで声明を述べている。師はジッと其れを見やる。

 艦長席にドンと腰を下ろし机の上で指をトントンと鳴らす。其れはまるでタイミングを計っている様にリズムを刻む。

 やがて初めのミサイルが艦隊から発射される。然れど光学迷彩を施されたミサイルを肉眼で見やる事は出来ない。

 李の映像が映し出される横にミサイルの弾道軌道が表示される。

「全艦ミサイル発射確認。」

 オペレーターが告げると師は其の映像を見やる。そして又指でトントンとリズムを刻む。ミサイルは人形兵器の部隊の真上を通り過ぎニューセイルに向かって飛んで行く。

 人形兵器のセンサーがミサイルを確認し鶸の宇宙に弾道軌道を表示する。鶸は其れを見やり1500Km先のニューセイルを拡大表示で映し出す。

 地球から突き出した軌道エレベーター。その先にある島一個分程もある巨大な軍事基地も宇宙から見やれば欠片程の大きさも無い。

 其の周りを巡回する巡視艇はさしずめ塵と言った所だが、さて、其の巡視艇は見つけられるか ? その塵よりも小さなミサイルを。否、其れよりも李の声明に違和感を感じているかが問題だーー。

 万が一彼等が声明をただの声明として聞いているのなら戦争は始まらないだろう。我々に侵略され幕を閉じる。

 さて、戦争になるのか ?

 侵略で終わるのかーー。

 歴史は何方を選ぶのだろうな。

 と、鶸はスッと瞼を閉じた。


「河野艦長ーー。外の様子はどうだ ?」

 鬼神丸のメインデッキに現れた一本気陽光艦隊司令大佐が言った。

「巡視艇の報告ではこれと言って何も…。」

 一本気の問いかけに驚いた様に河野艦長大佐が答える。河野は一本気が声を掛ける度に体をビクリと動かしてしまう。だが、此れは河野がビビリだからではない。

 一本気の他者を威圧する禍々しい雰囲気。其れを象徴する釣り上がった目、恐怖を増幅させる様な両サイドの刈り込み、そして後ろを剃り上げたヘアースタイル。軍人らしい角張った顔。一切笑みを浮かべない口元。常に覚悟を決めている腹の座った度胸。最早典型的な軍人だと言える。

 だが河野も一本気に負けず劣らず、大型戦艦の艦長に任命される程の猛者である。其れでも一本気を前には自分が兎に思えてしまう。

「何も…。」

 と、モニターに映る宇宙を見やる。河野の言う通り宇宙には此れと言った変化は感じられない。其れでも何故か胸騒ぎが止まずにいる。其の理由は皇帝李筝雲の声明にある。

 何かある。一本気はそう感じている。否、此れは一本気だけではない。異変に気付いた兵士が続々と軍宿舎に集まり、港付近にいる兵士は自分の艦に乗艦を始めているのだ。

 当然何かあればすぐに動く。多くの兵士はそう考えている。

 何故ならこのニューセイルは軍事基地であり乍その中には大きな街が存在しているからだ。もしも襲撃に合えば多くの民間人が死ぬ事になる。勿論その中には自分達の家族や恋人もいる。

 人の命が軽んじられる此の世界であっても恋人や家族は失いたくないと誰もが願う。

 否、こ言う時代だからこそ余計にそう思うのかもしれない。

「艦の状況は ?」

「現在当直の兵が出港準備を行っています。」

「非番の兵は ?」

「港付近にいた兵は徐々に戻ってきていますが、街にいる兵士は宿舎に集合している様です。」

「宿舎かーー。間に合わんな。」

「ええ、出航するには人手が足りません。其れに…。」

「其れに ?」

「人形兵器とファイターの格納がまだーー。」

「其れは良い。いざとなれば其のまま搭乗すれば良いことだからな。其れよりも鬼神丸の出航準備を整える方が優先だ。」

 と、一本気はメンソールに火を付けると一服ふかし宇宙を見やる。物々しい影がヌッとモニターに映り込む。

「巡洋戦艦が出航したか。」

「其の様です。此れで何かあっても少し時間を稼げます。」

「あぁぁ、しかし何も映らんな。」

「ええ…。此処が襲撃される可能性は20%ぐらいですから。」

「確かにそうだ。可能性としては低い。低いが、だからと言って何も構えずにいれば、何かあった時何もせずまま侵略される。」

と、ニューセイルから続々と出港する巡洋戦艦を見やる。

 ニューセイルの外壁を守るように出港していく巡洋戦艦…。

 然れど何も異変のない宇宙。

 不安だけが各々に降りかかる恐怖…。

 その様子を自分の宇宙から見やっている鶸。

「そうだーー。其の考えと、行いは正しい。」

 ニューセイルから出てきた巡洋戦艦を見やり鶸が呟く。

 だが、残念な事に私達は其れを欲しいとは考えていない。地球から突き出した巨大な茸は伐採するのが1番だからな。

 と、鶸はフェネックの腕を高らかと挙げた。

 師は其れを見やり、よし、各艦バトルフィールド展開。バトルフィールド展開後ミサイル第二射発射準備。と、伝えると其の伝令をオペレーターが全艦全兵に伝達する。

 そして、

 第一艦橋の宇宙が戦闘仕様に変化した。

 第一艦橋内にCIC、航海科、戦術科の各ルームが姿を現し、各艦の艦長の姿が小さく師の机の前に表示される。

 これでリアルタイムに師の司令が各科と各艦の艦長に伝える事ができる。

「ミサイル第二射発射準備完了確認。発射のタイミングをお願いします。」

  CIC司令長1等級中佐ベリィ-イップが師に伝えた。

 師は李の演説を見やりタイミングを見計らう。

 全く…。

「猿芝居だな。」

 と、師はボソリト呟き乍ら李の演説を聞きやる。

「何か ?」

 横で聞いていた艦長補佐1等級大尉ビチャメンコ-マッルキィが言った。艦長を取り巻く様に配置された席に着座している航海科科長1等級中佐韻千斗いんちとと戦術科科長1等級中佐ノインダ-バフマンがチロリと師を見やる。

 CIC司令官補佐のスウ-ギョンホは右後方のビチャメンコをチロリと見やった。

「別に…。何もない。」

 視線を躱すように師が答える。

「そうですか。」

「あぁ…。それよりも、お前はこれから起こる事をしっかりとその目に焼き付けておけ。」

「分かりました…。」

 そう言うと師は又李の言葉に耳を傾ける。其の声明はやたら長く、意味など殆ど無い声明。あるとすれば相手に対する疑問符を持たせる事。

 其れに何の意味がある ? 

 師は自分に疑問を投げかける。

 何も言わず。

 ただ攻撃を仕掛ければ良い…。

 奇襲だろうと、何だろうと、こちらは火星鉱物を死守しなければならないのだ。死守しなければ大国対残り6カ国の図式が崩壊する可能性もある。

 100年掛けて培われてきた歴史が一気に崩壊する可能性だってあるのだ。否、そんな事は一介の兵士である自分よりも政治家の方が良く理解しているだろう。

 然れど彼等の期限は長くて一年…。

 早ければ半年も持たないだろう。だから敵は何としても其れまでに火星採掘所を占拠しなければいけないのだ。さもないと全てのエネルギーの供給が停止する。

 そうなれば又CUEからエネルギーの供給を頼らなければいけなくなる。

 頼ると言う事は、すなわち我等が国に吸収されると言う事…。

 勿論彼等は其れを願ってはいない。

 願っていないから、自らを崖っぷちに追いやり宣戦布告を申しつけてきたのだ。

 分かるか…。

 その脅威は我等の力を裕に凌ぐ力になる。

 全く、何が相手にチャンスを与えるだ馬鹿馬鹿しい。そんな余裕が何処に有る ? 我が軍の兵は体たらくな者の集まりではないか。まともに訓練など誰もしちゃいない。

 暇さえあれば一般兵とイチャイチャといちゃついてばかりで、海賊の討伐とは名ばかりの宇宙旅行で毎日ドンチャン騒ぎ…。

 奇襲をかけるのもこう言った事を考慮しての事だろう。其れなのに何故こんなちまちまとしたやり方をするのか ?

 鶸総司令官は其れをチャンスと言うが。

 と、チャンスと言う言葉が頭から離れない。

 チャンス…。

 チャンスねぇ…。

 と、師は一言一句、李が取る仕草全てを見逃さずジッと見やっている。見れば見る程その大げさすぎるジェスチャーは単なる道化に思える。

 皇帝陛下が好んでやっているのか ?

 政治家がやらせているのか ?

 全く…。

 李皇帝も鶸総司令官も良くわからん…。

「光学迷彩を施した核ミサイルをバーンと打ちゃあ其れで終わりだろうによ…。」

「何か ?」

 今度は左隣の韻が言った。

「別に…。」

 と、答える師をチラッと見やり、核を打つというのは反則ですよ。と言う。

「打たなきゃ反則じゃないってか…。」

「それは用途次第でしょう。例えば巨大なものを消滅させる時とかには良いかと。」

「ふん。俺にはどちらも同じだと思うがな。」

 と、師の指がピクリと動く。

「来るぞ、ミサイル第二射発射用意はいいな。 !」

 そして、ガタリと席から立ち上がると師が声を張り上げた。

 それと同時に緊張が各艦全体に迸る。

 李の言葉が動きが…。

 緩やかにそして指先がピクリと動く。

 李から第二射発射の合図が出された。

「第二射、発射!」

 それを確認し師が言った。

 其の合図と共に第二射目のミサイルが宇宙から突然姿を現す。

 鶸はチラリと後方を見やる。

 そうだ、2射目のミサイルは肉眼でも見やる事ができる。

 

 これがどう言う意味か分かるか ?

 意味のない声明…。

 長々と…。

 語り、聞かせるどうでも良い話。

 そうだ、全ては猿芝居だ。

 其れを見抜けた者は生き残れる…。ーーかもしれない。

 

 何故なら皇帝李筝雲は此の後、君達にこう言うからだ。


 ”今すぐに始めよう…。”


 そして、おびただしい数のミサイルが宇宙に解き放たれる。然れど未だその姿を肉眼で見るには遠く離れた距離。ミサイルの姿は暗い闇に飲み込まれたままレーダーにのみその存在を示す。

「艦長 ! 前方1500Kmにミサイル多数!」

 突如レーダーに映る大量のミサイルを確認したオペレーターが巡洋戦艦の艦長に告げた。

「ふん。小賢しい真似を…。追撃ミサイル発射 ! 一発もニューセイルに当てさせ…。」

 艦長がそう答えた瞬間ーー。

 光が…。

 衝撃が…。

 巡洋戦艦艦を破壊する。

 そして解き放たれたミサイルは前衛部隊の戦艦を破壊しニューセイルに飛来する。

 けたたましい爆音と恐怖を与える衝撃。

 逃げ惑う人々に弾き飛ばされる人…。

 崩れゆく街は瓦礫に埋もれ民間人はパニックに陥りながらも非難ポッドに向かう。然れど飛来してくるミサイルはその猛威を奮い、無慈悲に多くの民間人を死に至らしめる。

 本来なら兵士が民間人を非難ポッドに誘導するのが適切なのだろう。然れど、突然の来襲に対しその余裕はなく兵士は戦場に赴いていく。

 何にせよ敵の攻撃を食い止めることが最優先なのだ。敵の攻撃を防がない限り逃げ場所など有りはしない。人は生身で宇宙に出ることも叶わず。救命ポッドに逃げ込んでも退路がなければ矢張りその先に光は見えない。地上のように瓦礫の陰に隠れてもニューセイルが破壊されれば全てが宇宙に投げ出されてしまうのだ。

 結果的にノイズに誰も気づかなかったニューセイルは一瞬のうちに壊滅的状況に陥ってしまった。 

 そして、モニターには2射目のミサイルが、人形兵器の部隊が雪崩の様に押しかけて来ている。

「CUE ! ぬかったわ。」

 其の光景を見やり一本気が歯を食いしばる。ギリギリと怒りの音が響く。普段でも釣り上がっている目がより一層釣り上がった。

 そして、グラグラと戦艦が揺れる。

 グラリ、

 グラリ…。

 時折映像にノイズが走る。

 破裂する外壁、

 突如爆発する巡洋戦艦…。光学迷彩を施されたミサイルの姿を彼等は認識できない。だから、当然人は驚き慄く…。

 然れど驚いている暇はない。

 訳わからなくとも攻撃されている以上対応しなければいけない。然れど突然の爆発。そして、目前に迫るミサイルとファイター、人形兵器部隊。

「いったい何が…。」

「光学迷彩だーー。奴らミサイルに光学迷彩を施して飛ばしやがったんだ。」

「光学…。」

 と、河野は通信回線を開ける。

 一本気はジロリと河野を見やる。

 恰もさっさと指示を出せと言わんばかりの目だ。

 狂気を宿したその瞳は怒りで燃えたぎっている。だが、許せぬ気持ちは河野も又同じ。ブルブルと怒りで手が震えている。

 河野はグッと拳を握りしめ宇宙を見やった。

「鬼神丸艦長大佐河野だ。港にいる兵及び停泊中の戦艦に告げる。鬼神丸艦長大佐の権限においてコードAを発令する。繰り返す…。」

 河野の声が港に響き渡り、それと同時に軍事用のマルチファンクショングラスにコードAの文字が浮かび上がった。

 緊急事態の時に発動されるコードA。各々の兵はその文字を見やり、其れに伴った行動に移行するが、実際はそう上手くはいかない。

 敵の爆撃により半壊状態の港はてんやわんやである。

 そして押し寄せる敵の軍勢は津波の如く迫り来る。

「河野艦長ーー。本部司令室から通信です。」

 オペレーターの佐々木が伝える。 

「本部…。」

「はい、パナパプト提督です。」

「提督…。繋いでくれ。」

 河野がそう言うと、佐々木はパナパプトの姿を第一艦橋内に映し出した。

「河野艦長…。おぉ、一本気大佐も此処に。そうか、それは好都合だ。それで鬼神丸は…。」

「はっ。今の所は何とか。」

 河野が答える。

「うむ。それは良かった。それで、君の発令したコードAは此方でも確認済みだ。ニューセイルの兵も使ってくれて構わん。出港の準備が出来次第此処を離脱してくれ。」

「離脱 ? パナパプト提督…。何を。」

「完全に出遅れだよ。占拠されるか落とされるか…。こちらの部隊も出撃しているが時間稼ぎにしかならんだろう。」

「しかし、だからと言って。」

「気遣いはありがたいが、今やニューセイルの価値よりも鬼神丸の価値の方が高いと言うのは言うまでもない事だ。此処で鬼神丸を沈めてしまう様な事があれば、我が軍にとって大きな痛手となる。」

「確かに…。」

 宇宙に目を向け一本気が言った。

「しかし、何もぜずにと言うわけにはいきませんよ。」

「分かっている。しかしこの状況。落とされるのは時間の問題だ…。」

「一本気大佐まで…。」

「否、その通りだ河野艦長…。悔しいがニューセイルは壊滅的なダメージを受けている。すでにミサイルは民間エリアも破壊し、多くの民間人をも犠牲にしてしまった。最早戦う前からの大敗だよ。我々が出来ることは生存している民間人の退路を作る事と鬼神丸をこの宙域から離脱させることだ。」

「そう言う事だ河野…。俺は人形で出るぞ。」

 そう言うと一本気はさっさと人形兵器デッキに向かっていった。

「た…。」

「河野艦長。鬼神丸と民間人と残存兵をよろしく頼む。」

 そう言うとパナパプトも通信を切った。

「て…。」

 

 お、おいおい…。

 

 と、河野は力一杯デスクを叩く。

「全く…。佐々木軍曹。民間エリアの状況を映せるか。」

「民間エリアですか…。ちょ、ちょっと待って下さい。」

 と、佐々木はパネルを操作するが民間エリアの映像が出てこない。否、正確には黒い画面が表示されている。佐々木は其れをジッと見やり首を傾げる。

 空爆により映像通信が破壊された様に思えたが、佐々木には何か違うように思えたからだ。

 佐々木は更に映像を見やる。ジッと穴があくほどその映像を見やっている。

 そして、薄ぼんやりと何かが動いた…。

 佐々木は矢張りこれは民間エリアの映像だと確信した。直ぐさま映像を解析させその全容を見やる。

 そして、その映像を見やり佐々木の手が震えた。

 パナパプト提督が言った様に街は散々なものだ。嘗ての栄華を微塵にも感じさせない崩れ果てたビルに道…。屋根に空はなく光は消え失せ、最早此れは街と言うには余りにも無残と言える。

 一言で言うなら巨大な廃棄処理施設の様な感じだった。

 そして、その所々で倒れている人。

 更によく見れば人の一部が散乱しているようにも見える。

 ブルブルと手が震え佐々木は目を逸らした。

 グッと拳を握り歯を食いしばる。その悲惨な光景を目の当たりにし佐々木は涙を流した。

「艦長…。映像回します。」

 低いトーンで佐々木が言った。

「うむ。頼む。」

 と、佐々木の変容に河野はどうしたんだ ? と、思いながら映像を見やる。そして、その理由が直ぐに理解できた。

 何とも憎悪と怒りを覚える映像だ。逃げ場のない宇宙施設を攻撃するなど海賊でも行わない愚かな行為をCUEはやってのけたのだ。変容して当然だろう。

 倒壊した家…。

 破壊された施設…。

 嘗ても繁華街も見る影なく破壊されている。

 人は…。逃げたのか、死んだのか見える人影はチラホラだった。そんな繁華街の店の中に悠那達はまだいた。

 モントリーズカフェ店内で…。否、最早店内と呼べる代物ではなくなった枠の中で悠那は泣いていた。

「こいつ又泣いてるぜ。」

 悠那を見やり乍ら日比野が言った。

「うふ。沙也ちゃんが守ってくれるって言ったのがよっぽど嬉しかったんじゃない。」

 と、答え乍ら那奈はポテトスナックをギュッと5枚程掴み口に放り込む。

「ふーん。」

 と、言い乍ら日比野は長い髪を搔き上げる。茶色に染めた髪がパラリともとに戻る様に落ちてくる。軍服も戦闘服も着ていない日比野は差し詰めとっぽい兄ちゃんである。

 年も30歳をとうに過ぎているが成長の遅い宇宙では30歳と言ってもまだまだ20代前半に見える。若作りせずとも肌はプルンプルンしていると言うことだ。

 そんな日比野がグイッと腕を伸ばし沙也の首根っこを掴むとグイッと悠那から引き離した。

「そろそろ、行くぜ。」

 日比野が言った。

「は、はい…。」

 ポロポロと涙を流し乍悠那が答える。日比野はそんな悠那を見やり、お前が沙也を守るんだろう。と言ってポンと頭を撫でてやった。

「は、はい。」

「だったら泣くな。前を見て胸をはれ、恐怖を捨てろ。そして、現実を受け入れろ。」

 日比野の言葉に悠那は黙ったまま頷く。

「よし、それじゃぁ、気合入れろ!」

 そう言うと悠那の背中をバチンと叩いた。悠那はウッと咽せそうになるのをグッと堪えた。

「其れでぇ、どうするんですかぁ ?」

 日比野を見やり沙也が言う。

「ウフ、此処に来る途中にねぇ。見つけたのぉ。」

 そう言い乍那奈はポテトスナックを口に放り込む。

「見つけたぁ ?」

「そう、秘密基地ぃ。」

「秘密基地ぃぃ ?」

「ん、あぁぁ。企業の秘密工場だよ。」

 日比野が答える。

「企業の ? じゃ、じゃぁーー。」

「あぁ、あるぜ。多分。」

「よかったぁーー。此れで抜け出せる。」

「ふ、辿り着けたらだけどな。」

「あ、はい。」

 そう言うと悠那は店の出入口を見やる。瓦礫でグチャグチャに潰れた出入口は辛うじて通れる程度の穴が空いている程度だ。

 悠那はジロリと那奈を見やる。

 那奈の体型を見やり出入口の穴を見やる。明らかに那奈の方が大きい様に思えたが、敢えて其れには触れないでおこうと悠那は思った。

「さて、其れじゃぁ行くかーー。」

 日比野がそう言うと3人は一度顔を見合わせ出入口に向かって走り出した。


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