お見舞いと拉致監禁2
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夕食前だったのでアヤさんの母親に一緒に夕食を食べないかと誘われたが、僕たちは遠慮して早々に帰ることにした。玄関前でおばさんに見送られながら、僕たちは駅に向かって歩く。
「アヤ先輩が病気じゃなくてよかったな」
「そうかな。僕はもっと恐ろしい何かだと思っている」
曲がり角で僕は立ち止まり、ポケットから携帯電話を取り出した。内藤さんがぽかんと口を開ける。
「電話?」
「名倉メイにだ」
僕は番号を押して名倉メイに電話をかける。電話口から思い出したくもない甲高い声が聞こえてきた。
「やっほー、お兄ちゃん。妹が恋しくなってきちゃったのかなー」
「単刀直入に言う。君はアヤ先輩をどうしたいんだ」
「わっはー。哲学的な質問だにゃぁ……。僕はアヤおかーさんをどうしたいんだろう?この胸の高鳴る気持ちをお兄ちゃんにも分けてあげたいよ」
「……狂人に尋ねるだけ無駄だったよ。そこにアヤさんがいるんだろ?ちょっと変わってくれないか」
「えーやだー。でも写メなら送ってあげるよー。ちょっとまっててねー」
「あっ、おい……」
電話が切れた。僕の焦っている反応を見て、内藤さんが不安そうな顔を見せる。
「……名倉メイってのはやっぱりサイコなのか?」
「うん。でも阿闍世家で媚を売るぐらいの知性はあるようだな。みんなすっかり騙されてる」
「アヤ先輩やおばさんを騙す目的は?」
「さあ……。サイコの考えることはわからないから。……あっ、そのサイコからメールが届いたぞ」
名倉メイから添付ファイル付きのメールが届く。ファイルを開いて内藤さんと一緒に中身を覗いてみると、首輪を繋がれて拘束されているアヤさんの写真が入っていた。そして何故か彼女は頭に大きなリボンをつけて、フリルのついたヒラヒラのピンクのワンピースを来ていた。僕はゴクリとつばを飲む。
「……どう思う?」
「これは……絶望的に似合わないな」
「そうじゃなくて……。ほら、手を縛られて猿ぐつわされてるよ。アヤさんは名倉メイの家に遊びに行ったんじゃない。監禁されてるんだ」
内藤さんが顔を上げて驚く。
「な……!?目的は身代金の要求か!」
「それはないと思う。たぶん名倉メイは監禁自体を楽しんでいると思うな」
「ま、待てよ……!アヤ先輩を監禁して何が楽しいんだ。何をどうやって楽しむんだよ!」
「そんなの僕に聞かれても……。でもこの服を見る限り、名倉メイはアヤさんを着せ替えして楽しんでいそうだ」
「なるほど……。それはお人形遊びみたいで確かに楽しそうだな」
内藤さんが腕を組んで静かに頷く。すると携帯電話がプルプルと震えた。名倉メイからの着信だった。携帯を耳元に近づけると、また彼女の声が聞こえた。
「どうー?とってもかわいいでしょ!」
「絶望的に似合わないって」
電話口から名倉メイのがっかりした声が聞こえる。
「えー?僕のイチオシの一枚だったんだけどなー」
「そんなことはどうでもいい。今すぐアヤさんを解放しろ」
「やだいやだい。これから一緒にお風呂に入って二人の汚れを落とし合うんだ」
「なっ……!」
僕は一旦電話をやめて内藤さんに話しかける。
「着せ替えだけでなく一緒にお風呂に入ったりするらしい」
「なんだよそれ!めちゃくちゃ楽しそうじゃねーか!」
また電話を耳元に当てる。
「いいか、よく聞け。君のやっていることは立派な犯罪行為だ。ニュースになっても知らないぞ」
「えー、それは困るなあ」
「困るなら今すぐやめろ。もうアウトだけど今なら誰も大事にはしたくないから」
「でも僕はアヤおかーさんを手放したくないんだ。ねえ知ってる?愛とか恋ってがんばれば伝わるものなんだよ。アヤおかーさんは帰りたいって言ってるけど、いつかは僕の気持ちに気づいてくれると思うんだ。……ううん、気づいて欲しい。何が何でも気づかせてやりたい。そうすればアヤおかーさんだってずっと僕と一緒にいたくなるはずなんだからね。そのためなら監禁でも暴行でもなんでもするよ。えっ、そんなんで愛が伝わるかって?そりゃーもう……」
「長い。君がアヤさんを手放したくないのはわかったよ。あとは警察に任せることにする」
電話口からクックッと笑う声が聞こえる。
「んー?そんなことしちゃっていいのかい?僕がちょっと体を動かせばアヤおかーさんの細くて綺麗な首に手が届いちゃうんだよー?」
「ちょ……。愛がどうのこうのと言ってたくせに、都合が悪くなったら人質にするのか」
「するよー?なーに、そんなに心配しなくてもいいんだよ、お兄ちゃん。ちょっと前に僕はお兄ちゃんに執着していたけど、すぐにアヤおかーさんに心変わりしちゃったでしょ?僕は飽きっぽい性格なんだ。うん……この恋もどーせ成就しないと思う。誰も僕の愛を受け止めきれないからね」
「む……。だったらさっさと飽きて欲しいが……」
「任せてー。じっくり時間をかけて僕の愛を伝えていこうと思ってたけど、超特急で進めることにするよ。ありとあらゆることを試したあとはアヤおかーさんは僕に振り向いてくれるかなあ?」
「試すだけ無駄だと思うけどね。大事にしたくないと思ってるなら監禁もほどほどにしろよ」
「わかったー。ばいばーい」
電話が切れた。僕は携帯電話をポケットに戻した。
「やれやれ……」
「ど、どうだった?」
深刻そうな顔で内藤さんが僕に尋ねる。
「今すぐは解放しないけど、名倉メイも大事になったら困るらしいから、出来るだけ早く終わるようにがんばるって」
「終わるって何がだ?」
「よくわからないけど、アヤさんを振り向かせるためにありとあらゆることを試すらしい」
「ありとあらゆること……?例えば?」
内藤さんに尋ねられたので、僕は眉をひそめた。
「だから僕に聞かれてもねえ。狂人のすることだから、僕じゃ想像できないよ……まあでも狂人のやりそうなことといったら……」
僕たちはその場で腕を組んで考えこむ。
「「ハッ!」」
しばらくして僕たちは全く同時に顔を上げた。
「アヤさんの貞操が危ない!」
「お……落ち着けよ。今のは一般人である私たちの想像だろ?その名倉メイとかいうのはサイコだからもっとメルヘンチックなことをしてくれるはず……」
「でも『ありとあらゆること』だよ?絶対入ってると思う」
僕がそう言うと、内藤さんが思いつめた顔で頭を抱えだした。
「おいおい、勘弁してくれよ……。そんなことになったら、どうやってアヤ先輩を慰めたらいいか、私わかんないよ……」
「というか、冷静に考えてみたら貞操どころか命の保証もないもんね。『結ばれないならいっそ……』とか名倉メイが考えてしまったら……」
「じゃあ呑気に喋ってる場合じゃないじゃないか!今すぐ警察に通報しなきゃ!」
カバンからスマホを取り出して通報しようとする彼女を僕は制止する。
「それは駄目だ。追いつめられたら何をしでかすかわからない」
「じゃあどうしろって言うんだよ!このまま指をくわえて黙っているわけにもいかないだろ!」
「……とりあえず、状況をまとめよう。アヤさんは名倉メイに監禁されている。場所はおそらく名倉メイの自宅だ」
「その自宅の場所はわからないのか?わかれば私たちで助けに行くとかできるんだが……」
「わからないな」
「そうか……」
内藤さんが僕に『どうしたらいいんだ?』という顔を見せる。僕は少し考えたあと、心の中で小さく覚悟を決めて口を開いた。
「……でも一応、突き止める方法は考えている」
その言葉を聞いて、内藤さんはいつもの強気な顔に戻った。
「おおっ!イド先輩は頼りになるな!それで、どんな方法だ?」
僕はかくかくしかじかと内藤さんに計画のあらましを話した。僕が内容を話しているうちに内藤さんの強気な顔がだんだんと不安げな顔に戻っていった。
「……だいぶ神頼みだな……」
「うん……。他の方法を考えたほうがいいかな?」
「でも他にいいアイデアはないんだろ?」
「うん」
沈黙が流れる。内藤さんがゆっくりと駅に向かって歩き出した。そして振り向いてじっと僕の顔を見る。
「じゃあやるしかないな。うまくいけばアヤ先輩を助けられるかもしれないんだ。駄目だったらまたそのとき考えようぜ」
「……そうだね!」
僕たちは二人顔を見つめ合って互いに頷き合い、僕達に助けだされるまでアヤさんが無事であることを祈って、駅に向かって走りだす。駅に着いて電光板を見ると電車は五分待ちだった。特に走る必要なんてなかった。




