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出合い系総合夢世界  作者: 吉良利休
名倉(なくら)メイ
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33/41

お見舞いと拉致監禁

 アヤさんと喫茶店で別れてから数日が経った。恐ろしいことに、その間アヤさんから全く連絡が来なかった。やはり名倉メイによって取り返しのつかないことになっているのだろうか。あの時に、何が何でも名倉メイをアヤさんに近寄らせないようにしていれば、こんなことにはならなかった。名倉メイの危険性を誰よりも知りつつもアヤさんに任せてしまったのは、どう考えても僕のせいである。そう思うと気が気でなかった。悩みに悩んだ挙句、僕はたった一言、『生きてる?』とメールを送ってみた。しばらく待っても返事は帰ってこなかった。取り返しの付かないことが起こっている。


 何かが起こっているにせよ、とにもかくにも一度アヤさんに会ってみるべきだろう。メールを送っても返事がない、電話をかけても出てこない。次はどうするべきだ。アヤさんの家に押しかけてみるか。いきなり訪問するのは迷惑に思われるかもしれないが、アヤさんだって僕の家に押しかけた前科がある。それなら一度くらいは構わないだろう。しかし僕はアヤさんの住所を知らなかった。そもそも彼女とどうやって会ったっけ。そうか、泡沫高校で出会ったんだ。冷静に考えてみれば、今は平日の昼で、普通の高校生は授業を受けている時間帯だったのだ。それならば、メールや電話に出ないのはそれほど不思議なことではない。


 電車に乗って泡沫高校へと向かった。前のように事務に行って学校見学の許可を取りに行こうか。しかし、何度も許可を取っていると、逆に学校の中で何をしているんだと怪しまれそうな気がする。一応、僕はここの卒業生のため、訪問理由の欄には恩師と会うためという真っ当な理由が使えるから、怪しまれたところでそれほど問題ではないと思うけど……。


 正門から学校の様子を窺ってみると、もうすでに授業は終わって放課後になっているようだ。グラウンドからは野球部やサッカー部の掛け声が聞こえる。そろそろアヤさんが僕のメールに気づいて返信してくれたりしないだろうか。そんなことを考えながら校門の近くを右往左往していると、聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。


「おっ、イド先輩じゃないか。なんで学校に来ているんだ?そうか、卒業してもここが恋しくて仕方がないんだな!」


 内藤さんだ。体操服を着て汗をかいている。どうやら学校の外周をランニングしていたようだ。彼女は僕に向かって堂々と胸を張る。


「よしよし、私の体操服姿で存分に青春を懐かしんでいいぞ!」

「こんにちは。……そういえば内藤さんがいたっけ。すっかり忘れてたよ」

「失礼な奴だなー。まーでも、私もイド先輩のことちょっと忘れてたからお互い様だな。次の夢のミーティングはいつかな。そうだ、サイコ女についに見つかったんだって?でも何事もなくてよかったな」

「知ってたんだ。アヤさんから聞いたの?」

「ああ、メールで知ったよ。思ったよりおとなしくて扱いやすいからアヤ先輩と友達になったんだって。扱いやすいから友達にするとか、アヤ先輩も頭がおかしいな!」

「だよね……じゃなかった。アヤさんはまだ学校の中にいる?」

「アヤ先輩なら今日は学校に来てないよ。風邪でダウンしたんだって。アヤ先輩と同じクラスの三年の先輩が言ってた」

「えっ……?」


 僕は動揺して体が少し揺れた。


「鬼ごっこでもすぐへばってたもんなー。芸術部に入ってるし、意外と体が弱いのかな?」

「確かに……」


 風邪……。名倉メイのせいか?だが同時に僕はすこしほっとした。僕が危惧していたことに比べれば風邪なんて些細な事だ。メールや電話に出ないことに少し疑問が残るけど、風邪で携帯電話に触るのが億劫なだけなのかもしれない。


 僕がその場で考え込んでいると、内藤さんが僕の顔を覗きこむ。


「おっ、アヤ先輩のことを心配しているんだな。感心感心。そうだ、一緒にアヤ先輩のお見舞いに行こうぜ!」

「でも僕、アヤさんの住所知らないよ」

「私は知ってるぞー。今は部活中だから終わるまでちょっと待っててくれないか。六時になったらここに集合ということで」

「わかった」

「やれやれ、友達の多い私は大変だなー」


 そう言って内藤さんは走り去っていった。


───────(1)───────


 六時になるまで駅前で適当に時間を潰してから学校の正門に戻る。部活が終わった高校生たちがぽつぽつと校門から出て行っている。しばらく待っていると、制服姿の内藤さんがやってきた。


「来たぞー。アヤ先輩の家に向かおうぜ」

「うん」


 僕たちは一緒に歩き出す。


「お見舞いだけど何にも用意してないなー。でもまあいいか、大事なのは気持ちだからな」

「電車で行くの?」

「ああ。木霊町だからここから電車で二駅だな。駅から近いからあんまり歩かなくて済むぞ」

「へー」

「そーいやさー。さっきお見舞いに行くってアヤ先輩にメール送ったんだけど、返事が来ないんだ。寝てるのかな?」

「……だといいんだけど」

「確かに!鼻の上にわさびを乗せて起こしてやろう」


───────(2)───────


 空が薄暗くなってきた。電車に乗って木霊駅に着き、5分ほど歩くとアヤさんの家に着く。そこそこ裕福そうな一軒家だった。内藤さんがインターホンを押す。すると、インターホンからアヤさんに似た声が聞こえてきた。アヤさんの母親だろう。


「はい、阿闍世でーす」

「アヤ先輩の友達の内藤マレでーす。アヤ先輩のお見舞いに来ました」

「まあ、内藤ちゃん!来てくれて嬉しいわ、ちょっと待っててねー」


 そう言ってインターホンが切れた。家の中から微かにパタパタという足音が聞こえる。


「今のはアヤさんの親御さん?」

「うむ。この前遊びに来た時に懐かれてしまってな。ときどき自分の人徳が恐ろしくなるよ」

「親子揃って君に懐いているのか……。君は阿闍世家を引き寄せるフェロモンでも出しているのかな」

「フェロモンじゃなくて人徳だっつーの」


───────(3)───────


 しばらくして玄関のドアが開き、アヤさんの母親が現れた。アヤさんと同じ栗色の髪で整った顔立ち、そして少し老けている。アヤさんが順調に年を取ったらこんな感じになるんだろうなと思わせる風貌だった。強いてアヤさんと似てない点を挙げるならば、出会った瞬間に感じるおっとりとした雰囲気だろうか。心なしか少しふくよかな風体である。


「はい、どうぞ」


 アヤさんの母親に居間へと案内されて、お茶と和菓子を出される。僕たちは軽く礼をしてそれらをありがたく頂いた。


「お見舞いに来たのに茶菓子貰ってなんだか申し訳ないなー」

「そちらの方も、アヤの友達かしら?」


 おっとりとした目がこちらを向く。


「はい。招木イドと言います」


 僕は正座をしたまま頭を下げた。それを受けて彼女は優しく微笑んだ。


「ようこそ初めまして、アヤの母をやっていますわ。イドさんはアヤのクラスメイトかしら?」

「えーと……。僕は大学生です」

「あらまあ。へえー」


 なんとなく驚かれると予想していたが、想像に反してアヤさんの母親は感心するように頷くのみだった。僕の隣に座っている内藤さんがちらりと天井に目を向ける。


「アヤ先輩は二階か?もしかしてもう元気だったりするのかな」

「あっ、それなんだけど……。風邪で寝込んでいるってのは実は私の嘘なの。アヤは昨日の夜に友達の家に遊びに行ったきり帰ってきてないわ」

「ええっ!?」


 僕は驚いた声を上げたが、内藤さんはあまり驚いていないようだった。


「ほほう。アヤ先輩は意外と不良なんだな」

「そうねえ。授業放り出して外泊するなんて初めてだったからびっくりしちゃった」

「……その友達というのは名倉メイですか」


 僕が名倉メイの名前を挙げると、アヤさんの母親はうんうんと同調するように頷く。


「うん、そうよぅ。イド君もメイちゃんのお知り合い?あの子って本当に変わった子ねえ。でもかわいいわ」

「名倉メイってサイコ女のことか。そっちも私同様に親子揃って気に入ってしまったのか?」

「サイコってほどでもないわよー。たまにパジャマ姿で出歩いたりする変な子だけど、私の代わりに家事をしてくれるいい子よ。アヤは普段何も手伝ってくれないんだけどねえ、メイちゃんが家事をしてくれるときは渋々一緒に手伝ってくれるのよねえ。ぷぷぷ」


 アヤさんの母親が口元に手を隠して面白そうに笑う。内藤さんも目を細めて意地悪そうにニヤリとした。


「ほほう。アヤ先輩は親の手伝いもできないだらしない娘だったのか。こいつはいいことを聞いたぞ。今度会ったときからかってやろう」


 そんな雑談をしている場合でないと思うのだが。アヤさんが無断外泊をするなんてめったなことだ。二人とももう少しアヤさんの身を案じてやればいいのに……。一人でそんなことを思ってしまったが、二人とも名倉メイの危なさを知らないから呑気なだけか。僕は本題に切り込んだ。


「アヤさんはいつ帰ってくると?連絡は取れているんですか?」

「さあ、アヤはメイちゃんの家が気に入ったから一週間ほど泊まりたいんですって」

「アヤさんが?アヤさんがそう言ったんですか?」

「ええ、そう言ってたってメイちゃんが教えてくれたわあ。二人ともアヤに用事があるの?アヤの携帯は電池が切れたらしいから連絡が取れないけど、メイちゃんとならすぐに連絡が取れるわよ。急ぎの用でもあるなら私が電話してあげるけど」

「ふーん、どうする?」


 内藤さんが僕に尋ねる。僕は少し考えた後に首を振った。


「……いや、大丈夫です。僕らはお見舞いに来ただけなので、元気なようなら、特に何も」

「おばさん意外と放任主義だなー。娘が学校サボって友達の家に遊びに行ってるというのに、怒ったりしないのか?」

「そーう?別に学校を一週間休んだくらいでどうってことないでしょ。メイちゃんは言動がちょっとあれだけど一応大人だから、娘のことはメイさんに任せるわ。それにアヤももう高三だからね。私があれこれと言う年じゃないでしょ?というより、あれこれいったらあの子反発しちゃうからねえ。ぷぷぷ」


 アヤさんの母親が笑うと、マレさんが呆れるように肩をすくめた。


「やれやれ、反抗期の娘を持つと親も大変だな。アヤ先輩も少しは私を見習うべきだ。私は反抗期なんてとうの昔に抜けだしたぞ。寂しがり屋の母のために毎日メッセージをしたためてやってるしな」

「マレちゃんのようないい子に育って、マレちゃんの両親は本当に幸せものねえ。あっそうそう、マレちゃんのためにペロちゃんキャンディを買ってきたの。舐めて舐めてえ」


 アヤさんの母親がビニール袋から棒付きキャンディを取り出して内藤さんに渡す。内藤さんはキャンディをみて真顔になった。


「なんだそれは。高校生になった私がそんな子供っぽいものを食べるわけ無いだろう。私を馬鹿にしているのか?」

「してなーい。動画で撮りたいからおねがーい」


 アヤさんの母親がポケットからスマホを取り出して内藤さんに向けると、内藤さんがため息をついた。


「ふう、やれやれ。アヤ先輩のお母さんのお願いとあらば仕方ないな。仕方なく舐めてやろう。動画は撮ってもいいけどネットに上げないでくれよ、それとどうせ撮るなら綺麗に撮ってくれ」

「撮る撮るぅー」

「……」


 そのまま二人が撮影会に勤しむ。僕はその隣で、畳をじっと見つめながら一人考え事をしていた。

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