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三番目の花嫁  作者: 天嶺 優香
番外編
34/34

側仕えの彼女

2015年の9月〜12月頃まで拍手に載せていた小話です。ジーナのちょっとしたその後の話です。

 優しい光を持つ緑の瞳は、いつもマーヤを包みこんでくれる。

 側仕えのジーナはマーヤにとって、母であり、姉であり、友だ。どこに行くにしても一緒で、マーヤの心も、ジーナの心も一つだ。

──そう思っていたけれど。

 マーヤが子供を産んで、父の友人であるコムルの商団について旅をするうち、ジーナは少しずつマーヤと距離を置くようになった。

 お嬢様、と声をかける数も減ってきた。

 そして、ある日──マーヤの息子が二歳になる頃。突然ジーナはマーヤに言った。

「お嬢様、お願いがございます」

「お願い……?」

 いつにない真剣な様子のジーナに、マーヤは息子をあやす手を止める。

「コムル様の商団のひとつが西に行くのは聞いていますよね?」

 もちろん知っている。いくつもあるコムルの商団のうちのひとつが、辺境である西へ向かうらしい。

「そこへ、私もついて行きたいのです」

「……でもそこへは、私は行かないわよ」

「知っています」

 マーヤにはその言葉が理解できずにいた。マーヤもいないその商団に、なぜジーナがついて行く必要があるのか。ずっと側にいればいいのに、なぜ……。

「実はその商団の一人に先日求婚されまして」

「……だから行くと言うの? 私の元を離れて?」

「……お嬢様はそろそろ独り立ちなさる頃です。いつまでも私がいては甘やかしてしまいます」

 でも、とマーヤが納得できずに言葉を発する前に、ジーナがすっと頭を下げた。その有無を言わさない行動に、思わず言葉がつまる。

 確かにマーヤはジーナに甘えてばかりだ。これからも、ずっとそうだと思っていた。

「……そうよね。ジーナはジーナの人生があるものね」

 ジーナはぱっと顔を上げ、なにかを言いかけて、やめた。

 マーヤは深呼吸を一つした。体にすっと新鮮で冷たい空気が流れて気分もわずかに良くなる。そうしてから、頷いた。

「わかったわ。許可する」

「……ありがとうございます」

 マーヤとジーナの間にはたくさんあった。長い時もあった。

 けれど、別れの時はこんなにもあっさりと何気なく終わるのだ。お互いにそれ以上、言葉を交わさず、そうしてジーナはマーヤの元を去った。

 そうして二年が経ち、アスランがマーヤの元へ戻ってきて数ヶ月後。

 幼い少女を連れて、ジーナが戻ってきた。アスランを目にするなり顔を険しくさせて、いきなり彼に飛び蹴りをお見舞いするという瞬発すぎる動きを見せた。

 勢い余って地面に倒れたジーナはすぐに体を起こして、祖国ではアスランの立場ゆえに言えなかった言葉を思い切り投げかける。

「私はあなたが気に食わないんですよっ!私のお嬢様に苦労させて!でもこうしてちゃんと約束を守ったのですから少しは見直してあげなくもないですっ」

 と、祖国の人々が聞いたら卒倒しそうな暴言を吐いた。

 そして呆然とするマーヤをジーナは見つけると、離れていた年月が嘘だったかのように朗らかに笑った。

「お待たせしました、お嬢様。またお側に置いてくださいね」

 マーヤがどれだけその言葉を聞きたかったのか、ジーナはやはり良くわかっている。

続きを書く予定でしたが、これはこれで書きすぎずでいいのかなと判断しました。またなにか別の話を思いついたら不定期にupする…かもです。

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