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山奥の民宿ですが、異世界の勇者様が数日おきに泥だらけで泊まりに来ます  作者: そらのことのは


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やかん屋のきまり

一、夜中に裏口が鳴っても、三回鳴るまでは開けないこと。

一回目は風。

二回目は迷子。

三回目は客。


一、四回鳴った場合は、塩と雑巾を持つこと。

五回鳴った場合は、聞かなかったことにすること。


一、玄関では、まず靴を脱がせること。

剣より先。

杖より先。

王冠より先。

泥のついた靴は、どの世界でも迷惑。


一、剣、槍、杖、弓、呪具、喋る箱は帳場で預かること。

ただし、喋る箱は押し入れに入れないこと。

前に一晩中、押し入れの秘密を喋られた。


一、魔王軍でも、先払いならお客様。

ただし、廊下で勇者と会わせないこと。

会ってしまった場合は、まず熱いお茶を出すこと。

人は湯呑みを持っていると、少し斬りにくい。


一、勇者でも、魔王でも、王子でも、朝食は七時。

寝坊した場合、味噌汁は冷める。


一、魔女のお客様が薬を売り始めた場合、まず成分を聞くこと。

 答えない場合は、台所には入れないこと。


一、瓶が勝手に笑った場合は、絶対に買わないこと。

 前に廊下が三日ほど笑い続けた。


一、客室で卵を温めないこと。

孵った場合は、親を確認すること。

親が分からない場合は、勇者レオを疑うこと。


一、火を吐くお客様は離れへ。

くしゃみで障子が燃えるため。


一、羽のあるお客様には、大きい布団を出すこと。

羽を畳んで寝ると、翌朝だいたい機嫌が悪い。


一、鱗のあるお客様に、熱すぎる風呂をすすめないこと。

のぼせると人の姿が保てなくなる。


一、宿帳には名前を書くこと。

名前がないお客様は、鳴き声でも可。

ただし、呪文は不可。


一、二階の角部屋は、勇者レオ様用。

よく来る。

だいたい泥だらけ。

だいたい何か連れている。


一、レオ様が「拾ってない」と言った場合は、拾っている。

「ついてきた」と言った場合も、拾っている。

「目が合った」と言った場合は、ほぼ確実に拾っている。


> 一、レオ様が赤い染みをつけて笑っている時は、先に怒らないこと。

>  タオル。湯。包帯。

>  血でなければ、そのあと強めに怒る。


一、宿の中で戦わないこと。

どうしても戦いたい場合は、裏山へ。

ただし、山菜の時期は不可。


一、廊下で魔法を撃たないこと。

焦げ跡は落ちにくい。


一、風呂場で変身しないこと。

排水口が詰まる。


一、客室の天井に張りつかないこと。

見つけた者が驚く。


一、布団を巣材にしないこと。

どうしても巣を作りたい場合は、納屋を使うこと。


一、困った客ほど、まず温かいものを出すこと。

お腹が空いている人は、だいたい話が通じない。

空いていない人も、たまに通じない。


一、帰れない客を追い出さないこと。

帰れる客は、朝になれば勝手に帰る。

帰れない客は、夜になると少しだけ泣く。


一、どうしても分からない時は、掃除をすること。

床を拭いている間に、たいてい客の方が事情を話し始める。


一、裏口が向こう側から開かなくなった時は、無理に押さないこと。

こちら側から開けるには、理由がいる。


一、どうしても迎えに行きたい客がいる時は、やかんに湯を沸かしてから行くこと。

帰ってきた時、温かいお茶がないと寂しいから。


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