わがままな準備✿
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陈莉「――温花様――」
東側に位置する部屋には朝の柔らかい日差しが漏れて、温花様の顔を照らす。そして森の中の屋敷には鳥たちの鳴き声、虫たちの羽ばたく音が主人を嬉しそうに迎え入れているようで――。
華国の宮中、後宮で恐れられている「墓場」には一輪の花が笑う――。
温花「おはよう、陈莉」
その奥の障子には鳥たちが影を作り、窓が開かれるのを待っている。
こんな綺麗な朝があるなんて――。
陈莉「お……おはようございます」
だって、こんな綺麗な温花様を始めて見たんです。ずっと屋敷の掃除や修繕に忙しくて……いつの間にかお妃様ではなく、友人のように並んでいたから――。
こんな綺麗なお妃様は始めて見たんです――。
春を待っていたかのように纏う桜色の衣が主人の動きに合わせ揺れ、朝日を浴び嬉しそうにしている。まるで衣が生きているかのよう。
衣だけではない。化粧もまるでガラス細工のように繊細、輝くように仕上げられていて。
朝が苦手な温花様がここまで準備を済ませてしまっているなんて。
肌を白く塗りつぶすのではなく、肌の色を白く艶を纏い輝かせている。
まつ毛一本一本空を天に向かって伸びて光を集める瞳、その瞳を彩るように目の周りは桜色に色を放ち、光を灯す。
紅の赤はまるでその色が温花様の唇であるかのように潤う。
筆や白粉、どんなお化粧品を使えばこのようになるのか。
どのように――?
華国の上級妃様でもこのような化粧を施せる化粧品、侍女たちは居ない。
白粉、紅が温花様のお化粧のようにお顔の素材を生かしたような繊細な色、筆が存在するのか――。
温花「これって化粧やりすぎかな――?」
あまりに私が顔を見つめすぎていたため温花様は心配そうな顔で窓を開ける。一気に外の空気が入ってくると、ほのかな花の蜜のような匂いが舞う。
とても下級妃――。
墓場の妃と呼ばれていいような人ではない――。
陈莉「いえ!そ、そんなことはございません!とてもお綺麗で――どのようにお伝えすべきなのか――私の言葉では言い表すことができず――お食事にいたしましょう――!」
持っていた食事を慌てて温花様の机の上に置く。
温花「陈莉、いつも食事ありがとう。いただきます」
侍女が仕える主人に食事を作るのは当たりまえ。
食事するために「いただきます」なんて、思えるお妃様はいるのか――。
そして食事の準備の仕方を教わろうとする。
後片付けも綺麗に着飾った温花様は手を動かそうとする。この屋敷には温花様と私しかいない、一緒に食事を作っているなんて誰も知らないからいいでしょ?お嬢様なんて呼ばれるのは性に合わないから辞めて、なんて。
侍女が主人の手を借りることは恥だと伝えると仕方なさそうに受け入れる。
どうしてそんなにも申し訳なさそうにするのか――。
とろとろの粥。
少ない米を朝食べやすいようにしつつ、申し訳ない程度の野菜が少し。
これは華国の下級妃の食事。
これだけ綺麗に着飾っても何故か温花様の表情は浮かない。
普通のお妃様なら着飾る日を何日も前から楽しみに、あれもこれもと時間いっぱいに悩んでいるのに。
陈莉「お口に合いませんでしたか?」
温花「そんな!陈莉のご飯は華国一だよ!違うことで悩んでいるだけだから、ごめんね。心配かけて」
陈莉「それ、私に話していただけないでしょうか……?何かお力になれるかもしれませんし!」
温花「そうだね、陈莉にお願いしようかな」
皿の中の粥を綺麗に食べ終えると、一口飲み込みニコリと笑う。
粥を飲み込んだ一瞬に、温花お嬢様はどんな感情まで飲み込んだのか――。
陈莉「どんなことでしょう?!」
温花「――瓶。これくらいの瓶があると嬉しんだけど」
陈莉「瓶ですか?薬味入れの瓶でしたら、こちらに!」
温花「これ貰ってもいいかな?」
陈莉「はい、もちろんです。このお屋敷の物は全て温花お嬢様のものです」
温花「ありがとう」
やっぱりこっちにしよう――。
陈莉にもらった薬味瓶は鼻に刺さる辛い匂いがする。香辛料が入ってたのかな?
中をもう一度きれいに洗い上げ、現代から持ってきたハンドクリームを流し込んでいく。
皇太后様って皇帝のお母さんだよね?
それなら喜ばれそうなものを渡せばいいよね?
薬よりも美容品のほうが女性からのプレゼントって感じがしていいよね?
いい匂いもするし、手の保湿剤にもなるし。
だって――。
こんなわがままが通用するのか、許されるのか。わからない。皇太后様に無礼だと言われてしまえばきっと命も危ないんだろう。本当は分かってる――。
でもこれを今は手放せない。手離したくない。
今あたしの居場所はこの小さな薬袋にしかないから。




