背伸びしたタンポポ✿
◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!
◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
红京は体を草木に隠して薬の苦い匂いと共に離れていく。
あたしの体は鉛のように重く、ただその背中を眺めるしかできない。
墓場の妃と言えどあたしは皇帝の女になった。自ら望んで。
そして红京もそれを理解した上であたしを後宮の中へと導いた。
分かっている――。
この行動はあたしに対してではなく、红京という少年の「義務感」からくる優しさであること。
中心から離れた墓場の屋敷。
ここへ来ることも危険。薬を作ることだって大変だったはず。
優しくされて、今まで味わったことない心の温度を感じて、嬉しい理由をいくつ並べても「会えないかもしれない」それがあたしの体をさらに重くする。
急に独りぼっちになったような感覚。
『いやだ――』
苦い匂いのする、渋い薬袋。
これを握りしめてあたしは息をする。
今さっきまでそこにあった新緑の緑の衣とはまた違った鮮やかな黄緑は目の前の景色を独り占めする。
黄色――。
背丈の高い草に隠されるように咲くタンポポ。
ふわふわと花びらを広げ太陽の光を浴びようと背丈の高い草に負けないように、背伸びをしている。
温花「ふっ――(笑)」
まるで現代のあたしみたいだ。
背伸びをしても周りに勝てない。分かっているはずなのに必死に伸びて。
細く伸び切った茎が自分の頭が重たいと少し風に揺れるだけで、苦しそうで。
红京が「向こうの世界で会えたら」そう言ってくれたけど。
きっと現代では红京のような優秀な人とあたしは交わることが無かった。
『いやだ――』
何も手立てがないこの世界で「医者」なんて手に職をつけて、自分の力で立って。無力なあたしに当たり前のように手を伸ばして。
ヤブ医者――。
あまりに上等な職。
あたしはただ红京が同じく現代から来たと言ってくれたから、歩いている。
実はこの背丈の勝てないタンポポのように、静かで背丈の高い草に実は守られているだけ――。
そんなことも分からずに背伸びしていた。
皇帝のために後宮でもこれなの?また繰り返すの――?
『いやだ――』
红京に会うため違う男へ媚び売らなきゃいけないの?
『いやだ――』
皇太后様への贈り物は準備するのに、あたしにはないの?(笑)
『いやだ――』
この腕を伸ばしてここに居て欲しいと言えなかった。
自分の弱さ。
红京のような人に並んでできることなんてあたしには何もない。
屋敷に戻ろうと思って立ち上がりたいのに、この薬袋を抱えたまま動けない。
忙しく動く感情の最後に出てきたのは「嫌」だった。
こんな幼稚な感情を無かったとことにしてきた。
今回もそうすればいいだけなのに――。
唾を飲み込んで顔を上げる――。
陈莉「――温花様!ここにいらしてたんですね!探しましたよ!」
陈莉は墓場の屋敷の周りを走り回っていたのか――。
タンポポの綿毛をあちこちにくっつけて、汗の粒を額に流す。
そっか――。
タンポポは空を飛べる、花だ。
そんな特別な花とあたしが同じだなんて、失礼だった。
心配そうに見つめる陈莉の髪についたタンポポの綿毛をふぅっと息をかける。あの背丈の長い草木を自由な空から見下ろして、自分だけの居場所を見つけて空を流れていく。
もっとみんなに見てもらえる場所で咲いてね。
背伸びしなくていい場所で風に揺れていてね。
あたしも自分で選んでもいいよね――?
あたしも飛んで場所を変えたんだから、自分の思うままに生きて見てもいいよね――?
温花「陈莉、ちょっと手を貸してほしい」
今度は誰かの手を借りて生きる人生だっていいよね――?
あたしは新しい生き方を選んでみてもいいよね――?
陈莉の小さな手を握って立ち上がる。
陈莉「お嬢様大丈夫ですか?どうしてこんなところに……!」
温花「ありがとう。陈莉。鳥を追いかけていたら転んでしまって――(笑)」
红京と会ったことは隠さなくてはいけない。
陈莉に見えないように衣の中に薬袋を隠して話を逸らす――。
温花「――挨拶の服ってどんなのがいいのかな?」
陈莉「そうですね!今から衣装決めに行きましょう!」
陈莉がこの墓場と呼ばれる屋敷に来てくれた。それなのにあたしはずっと陈莉のことを警戒しなきゃいけない――。
陈莉は心配そうにずっと横を歩いてくれ、屋敷に入る前には衣についていた汚れを落としてくれて、お茶を準備してくれていて。衣を見やすいように並べてくれて――。
こんな優しい子を疑わなければいけない後宮って。
いや、これは自分の考えのせいだ。
陈莉を信じなきゃ陈莉からの信頼を得るなんて無理だよね。
あたしは最悪だ――。
陈莉「これをどこで手に入れたのですか?どれも素敵です。これは絹ですか?刺繍もこまかいですし……」
衣装台の前で陈莉は目を丸くして中の衣を見ている。
まさかこれネット通販で買った漢服なんて言えない(笑)これを揃えるのに結構な総額したのは間違いないけど。
温花「旅をしながら……(笑)」
陈莉「異国の品物でしょうか?!……あまり目立ちすぎるのも……質素になってしまうのも……難しいですね――」
下級妃の屋敷に鏡はないため妃自身が自分の容姿を見ることが不可能で、妃の見栄えは侍女の腕にかかっていると言っても過言ではないらしい。
明日の準備のために陈莉はあたしよりも嬉しそうに衣装を選んでくれる。髪飾りを忙しそうに並べてあれでもない、これでもないと忙しそうに走り回る。
あたしはまだ苦い匂いのする薬袋を抱えて、自由な自分を選択するための準備を始める――。




