走る
温花はクスクスと笑っている――。
楊兎将軍は確かに温花の言葉で救われている。
温花は詳しく知らないから、不安になるのも仕方ないだろう。
红京「――温花、楊兎将軍の故郷はこの辺だったようです。だから懐かしくなったのでしょう。彼の帰る場所になれているのですから、十分でしょう?」
温花「うん……」
寄り添いたい気持ちも理解できる。
だが華国の大将軍が侍女、妃の前で涙なんてできないでしょうし……。
俺だって涙を見せる勇気は持てない。
不安そうな顔のまま歩く温花は色々頭の中で考えているのか、言葉数が減った。
この人が静かなときは誰かのことを考えている時だ、な。
その優しさを自分にも使ってほしいけど……。
行動も、感情も忙しそうな温花を見るのは正直飽きない。
红京「俺はここでの生活に慣れてしまったので、戻れる保証のないものに執着しなくても良いと思ったんです。すいません、温花の気持ちを無視してしまって」
温花「戻れる方法がわかった時はどうするの?」
帰ってきた言葉はいつもの温花のようではなく、静かな言葉だった。
红京「そのときは戻ります」
温花「そんなの頑張りたく無いだけじゃん!簡単に手に入るものだけが欲しいだけじゃん!」
温花はこちらを勢い良く向いて、眉間に皺を寄せていた。
珍しく怒っている?悔しがっているのか……?
温花「こんな優しい红京にしてくれた家族が待ってるかもしれないのに……心配かけてるかもしれないのに……」
红京「別に諦めたとは言っていませんよ。家族に会いたい、心配かけてしまっている……悔やむことももちろんありますよ」
温花「ほら、红京は現代に戻ったほうがいい」
温花は怒って歩く足を早めて、一歩前を歩き始めてしまった。
温花がなぜそこまで怒っているのか興味?面白み?を感じて、そのまま後ろ姿を見ながら会話を続けることにした。
红京「どうして温花様はそう思ったんですか」
温花「……红京はきっと家族に愛された人だと思ったから。……だからその家族のところに帰ったほうがいいと思ったのっ!」
红京「ありがとうございます。ご心配を温花にたくさんかけてしまっていたんですね。すいません。でもどうして?」
温花「どうして、どうしてって……!红京はそうであって欲しいってあたしの願いだよ!そうじゃなきゃ、あたしが納得できない!」
红京「ふっ(笑)わがままでしたか(笑)」
温花「そうだよ!わがままだよっ!」
温花は顔を真っ赤にして振り返って――。
红京「はい、温花はわがままなくらいが面白いです。あ、でも命はしっかり守りましょう――」
ずっと温花を付けてきているのは人攫いだ。
宮中からこの地に来る侍女は幼女だったはずが、今回は温花が同行し、珍しいと手を伸ばすつもりだったのだろう。
温花は声にならない声を出しながら、引っ張られるがままに走るしかない。
温花「走るなら、走るって言ってよっ!」
と、衣の袖と裾をたくし上げ横を走ってきた……(笑)
温花「も〜っ!急に走り出して、笑って失礼な人っ!」
こんなに走れるなんて、さすが墓場の変人――(笑)
鍛えられ方が違う(笑)
人に追われていて、この人を人攫いから逃さなければいけないのに……。
顔を真っ赤にして横を走っていることが面白くて笑いがとまらない。
あとは楊兎将軍がうまくやってくれるでしょう――。




