走る✿
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温花に厳しい言葉をぶつけてしまった。
怒られている温花は何故か嬉しそうに笑っている。
現代に帰る方法を探しているわけではない。
頼んだわけではない、と。
楊兎将軍も一人にならなりたいときだってある、と。
ただ温花は寄り添おうとしてくれていただけ。
俺はただ温花に自分の言葉にならないものをぶつけただけ。
楊兎将軍は確かに温花の言葉で救われている。事情を知らない人間が、一人で不安になってしまうも無理はない。
红京「――温花、楊兎将軍の故郷はこの辺だったようです。だから懐かしくなったのでしょう。温花も、俺も彼の帰る場所になれていると思いますよ」
温花「うん……」
温花の小さな、消えて行きそうな声が冷たい風に流されて行く。
寄り添いたいという健気な気持ちは、理解できる。
だが、華国の大将軍が侍女、妃の前で涙するなど許されるはずがない。職や位を無くして考えても男が女の前で涙を見せるなどできない。
俺だって誰かの前で涙を見せる勇気は持ち合わせて居ない。
不安そうな顔のまま歩く温花は色々頭の中で考えているのか、言葉数が減った。この人が静かなときは誰かのことを考えている時だ、な。
その底なしの優しさを自分にも使ってほしい。
次々に変わる行動も、感情も忙しそうな温花を見るのは正直、退屈しない。
红京「俺はここでの生活に慣れてしまったので、戻れる保証のないものに執着しなくても良いと思ったんです。すいません、温花の気持ちを無視してしまって」
温花「戻る方法がわかった時はどうするの?」
押していた背中は急に強張り、頑なに目線すら合わせない。
返ってきたのは、いつもの明るい彼女のものとは思えない、静かに何かを確かめるような硬い声。
红京「――そのときは戻ります」
温花「そんなの頑張りたく無いだけじゃん!簡単に手に入るものだけが欲しいだけじゃん!」
温花はこちらを勢い良く振り返り、眉間に皺を寄せていた。
珍しく怒っている?悔しがっているのか……?
温花「こんな優しい红京にしてくれた家族が待ってるかもしれないのに……心配かけてるかもしれないのに……」
红京「別に諦めたとは言っていませんよ。家族に会いたい、心配かけてしまっている……悔やむことももちろんありますよ」
温花「ほら、红京は現代に戻ったほうがいい」
温花は怒って歩く足を早め、一歩前を歩き始めてしまった。
こちらが感情のままに強い口調で温花を叱ってしまったからなのか。それとも温花も俺に怒ることができるようになったのか。
温花がなぜそこまで怒っているのか。
湧いてきた感情は純粋な興味なのか?それとも歪んだ面白みか?、そのまま自分よりも小さく、少し逞しいような後ろ姿を見ながら会話を続けることにした。
红京「どうして温花様はそう思ったんですか」
温花「……红京はきっと家族に愛された人だと思ったから。……だからその家族のところに帰ったほうがいいと思ったのっ!」
红京「ありがとうございます。ご心配を温花にたくさんかけてしまっていたんですね。すいません。でもどうして?」
温花「どうして、どうしてって……!红京はそうであって欲しいってあたしの願いだよ!そうじゃなきゃ、あたしが納得できない!」
红京「ふっ(笑)わがままでしたか(笑)」
温花「そうだよ!わがままだよっ!」
温花は顔を怒っているのか、真っ赤にして振り返る――。
温花が俺を現代の世へ返そうとするのは「待っている家族」が居るから、と。まるで自分は「待ってくれる家族」が居ないかのよう。俺は温花かれ見れば恵まれている人間だと。
そうであって欲しいという願いというより、わがまま。
そうでなくては納得できない、と――。
红京「ふっ――(笑)はい、温花はわがままなくらいが面白いです。あ、でも命はしっかり守りましょう――」
ずっと温花を付けてきているのは人攫いだ――。
宮中からこの地に来る侍女は幼女だったはずが、今回は温花が同行し、珍しいと手を伸ばすつもりだったのだろう。
手を引き、引っ張られるがままに走る温花はまだ怒っている。
温花「走るなら、走るって言ってよっ!」
負けず嫌いなのか衣の袖と裾をたくし上げ前へと走り出る。
こんなに走れるなんて、さすが墓場の変人――。
箱入り娘のお妃様たちとは鍛えられ方が違う。
人に追われていて、この人を人攫いから逃さなければいけないのに……。
顔を真っ赤にして横を走っていることが面白くて笑いがとまらない。
あとは楊兎将軍がうまくやってくれるでしょう――。




