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1000日物語  作者: はな


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侍女陈莉



 あたしは願えば現代、華国ふぁこくを行き来できるようだった。次に目を開けばまたあの桜並木のある川沿いだった。

 

 次に必要そうなものは掃除道具と清掃用品。壊れた屋敷の修繕までは流石にできないからペンキ買っていけばとりあえずなんとかなるかな?


 開いた通帳に入っているのはアルバイトを何個も掛け持ちをして昼夜働き、貯めた貯金。これはこの現代で「生きるため」のお金。食費、通学費、携帯代、生活に関わるものは全て自分で支払っていた。

 そこから先日ネットで買った漢服代が大きく引かれている。今までなら「大きな無駄使い」だったはずの衣類、金額。

 でも今回は違う。自分で望んで、「生きるため」ではなく「自分のために」使ったお金だった。

 嬉しくなっていたあたしの心は華国で生きることを望んでいた。あの墓場と呼ばれる屋敷であたしは人生をやり直せるような気がしていた。自分で選択していいんだ。不安もあるけどなんだか楽しくなっている体はホームセンターで必要になりそうなものをカゴに詰めている。


 それと红京ほんじんが喜びそうなものって薬かな?でもどんな薬が欲しいのかなんて聞けてなかった。墓場の屋敷に入ることが決まってから红京に会えていない。後宮でこれから红京ほんじんには会えるの……?

 全然红京ほんじんと話し足りない。華国ふぁこく红京ほんじんに来てからどうやって生活していたの?红京ほんじんって大人びているけど何歳?日本のどこから来たの――?薬コーナーの前でうろうろするあたしは不審者に間違えられても仕方ない。華国ふぁこくって漢方なんだっけ?作れそうな風邪薬とかじゃなくて、清潔面考えると石鹸とかのほうがいいのかな?のど飴とか……?無さそうなものを選んで買っていくことにした。

 ホームセンターと薬局をハシゴしたあたしの腕には買い物袋でいっぱいだった。

 色々考えていては時間がもったいない。正直そんなこと思ったのも初めてだった――。

 あたしはすぐに華国に帰りたいと、あの屋敷に帰る。


 屋敷の庭の草をとにかく鎌で刈って、部屋の中の汚れを吐き出すと、やっぱり虫が出てくる、出てくる。夜これに怯えるのは嫌だからと、もう必死だった(笑)屋敷に残っていたものはほとんどがボロボロで。頑固なカビと、もはや何が絡まっているかわからない埃。こんなに汚れているところを掃除するのも初めてで掃除に没頭していた。

 とんでもない時間が過ぎていたことを大きな声で理解した――。


 「ぎゃー!」


 屋敷の門のほうから大きな叫び声が聞こえてきた。ふと我に帰り、周りを見回すと辺りは夕日が沈みそうな陽の低さだった。

 それより今さっきの叫び声なんだったんだろう?泥棒?虫?慌てて門の方に走った。その先には尻餅を付いている少女が腰を抜かしたのか立てずフルフルと震えていた。


 温花「どうしましたか!?」

 陈莉「ああ……あの……ここに新しくお嬢様が入ると聞いて……お食事を……すいません!お嬢様はどこですか!?温花様はどこですか!」

 温花「あ、あたしが温花です……」


 あたしを見る少女はまるでこの世のものでないものを見るように怯えてあたしを指さしていた。

 あ……そうだここにはもう誰も来ないだろうと思って……。祖父が使っていた大きめの麦わら帽子、紫外線を避けるための青いサングラス、体操服に、UVカットのためパーカー、虫や池のヘドロを取れるために網を持っていた――。もうこれはただの変質者でしかない。

 慌ててサングラスを外して、まさかな状況にあたしも固まってしまった。


 温花うぇんふぁ「す……すいません……脅かすつもりはなかったんです……」

 「お嬢様……?今回この屋敷の侍女をすることになりました陈莉ちぇんりぃです……掃除は私がしますので……」


 自分の周りに落ちていた荷物をなんとかかき集めようと陈莉という少女は力を振り絞っていた。

 

 温花うぇんふぁ陈莉ちぇんりぃ?あたし温花うぇんふぁよろしくね。掃除はだいたい終わったよ!大丈夫?立てる?」


「墓場の屋敷」の侍女を任命されただけで恐怖で体が固まってしまっていた――。昼の食事を取らなかった屋敷の主温花うぇんふぁ様に食事を運ぶよう命令されてやってきたら、まさか――。

 大きな頭に、目は大きく光って、見たこともない衣で走りまる生物がいて――まさか温花うぇんふぁ様だとは思わない、でしょう?

 そんな奇抜?な格好の温花うぇんふぁ様は隣にしゃがみ込んで私が落としてしまったものを一緒にかき集めてくれていた。妃になるお嬢様が地面のものを拾うなんて……自分で屋敷の掃除を進めてしまうなんて……。私の経験上、周りの侍女たちから聞いたことがなかったため驚きが隠せない。

 温花うぇんふぁ様は見ると泥まみれになっていた。

 

 陈莉「……お!お風呂の準備します!今すぐお湯を!」

 温花「お湯今さっき沸かしてあるからごめんね、先にお風呂入ってくるね。そこは座れるようにしてあるからちょっと待っててね」


 こんな逞しいお嬢様も今まで見たことがない。手を差し伸べてくれるだけでも驚きなのに、引っ張り上げてくれる温花うぇんふぁ様はニコニコと笑っていた。

 

 陈莉「あのこちらが湯上り用のお洋服になります。皇帝陛下からの贈り物、これだけなのですが……」

 温花「こんな女にも贈り物しないといけない皇帝陛下様も大変だね〜(笑)……あ、あの陈莉ちぇんりぃ?夜生活できるように灯籠?みたいなものってあるのかな?」

 陈莉「い、今すぐお持ちします!」

 温花「あ……あのあと……この姿はみんなには内緒でお願いします(笑)」


 となんだか申し訳なさそうな温花うぇんふぁ様は灯籠をお持ちすると嬉しそうに灯籠を盛り上げて、上から下からと忙しそうに観察していた。こんな安っぽい灯籠だからお気に召さなかったのかも……と温花うぇんふぁ様が動くと折檻されてしまうと思い、体がのけ反る。

 温花うぇんふぁ様はその様子を見て少し目を細めた。な、なんだろう……。


 温花うぇんふぁ「こんな綺麗な灯籠を持ってきてくれてありがとう」


 それから灯籠を近くで見ていいなんて!この木の縁は職人さんが作ってるの?この絵はどうやって描いてるんだろう?それは興味心で、安い灯籠なんてこと全く気にしていない様子だった。


 張宏ちゃんほん様から聞いた、温花うぇんふぁお嬢様は変人だと聞いてやって来た。そしてこの屋敷は「墓場」と言われていて、本当に見てはいけないものを見てしまったと心臓が止まりそうだった。奇抜な格好、今までに見たことのない装い。変人と言われてしまう理由も頷けてしまう。だけど話してみるとまるで友達のように楽しく過ごしてくれる。身構えてやって来たけど、きっと大丈夫、すぐに安心させてくれる人だった。

 でもなんだか発音に癖がある人だった――。


 ホカホカとした空気を纏った温花うぇんうぁ様は湯上がり用の衣の着方が分からないのか少し照れくさそうにして立っている。

 慌てて手を伸ばすと温花うぇんふぁ様を改めて近くで見た。髪色は少し明るくて、手足は長く、目の色は吸い込まれそうな綺麗な色をして、今まで嗅いだことあるお香?花?の匂いの中で一番いい香りと言っても過言ではないほど、とてもいい匂いがする。思わず大きく鼻から吸ってしまった。


 陈莉「お嬢様、とっても良い香りですね。この香りは何ですか?」

 温花「いい匂いだよね〜!これは金木犀の香り。ずっとこの匂いが好きで使ってるの!」


 あ……この世界にはドライヤーなんてないよね。どうやって乾かそう。髪乾かすためだけに向こうへ毎度戻るのも面倒だしなぁ。

 林間学校でしか火おこしをしたことが無くてお風呂のお湯を沸かすのも、水を集めるのも大変だった。今回は屋敷にあった雑草と落ち葉とをチャッカマンで――(笑)

 红京に聞いてみよっと。「どうやって髪の毛乾かすのが正解?」必死に髪をときながら、仰いで長い髪を乾かしたため髪の毛乾かすのだけでも一苦労だった。改めて現代社会の便利さを痛感した。お風呂に入る習慣が昔はあまりなかったのかもしれない、という気づきにもなった。


 お嬢様が部屋に戻ってくるまでに食事の準備をなんとか終わらせることができた。先ほど持ってきたものを腰を抜かして食事を台無しにしてしまったからこれだけはなんとかしておかないと、と必死だった。机に並べられた食事を見て温花うぇんふぁ様は目を見開いていた。


 温花うぇんふぁ「これ準備してくれたの?!……美味しそう〜!一緒に食べよう!」

 陈莉ちぇんりぃ「侍女として当たり前です……!お妃様と一緒に食事なんて、ありえませんっ……!」

 温花うぇんふぁ「命令だったらいいの?(笑)」

 陈莉ちぇんりぃ「それはそうですけど……」

 温花うぇんふぁ「じゃあ、そうしよ!ここのご飯初めてだし!楽しみで!お話しながら……!」

 陈莉「わ、わかりました!」


 温花うぇんふぁ様はニヤニヤと悪そうな顔をして強引に食事に誘ってくれ、会話を楽しむことができた。墓場と呼ばれる屋敷の中がこんなに心温まる場所だなんて、想像していたものと正反対だった。

 私が墓場の妃へ遣えることになったのは、他の妃様のところで失敗を続けてしまい、職無し状態になりいつの間にか決まっていた話だった。温花うぇんふぁお嬢様は前仕えていたお嬢様とは雰囲気がかなり違う――。


 あたしは昼間の作業の中で屋敷の東側に寝床を作った。ここなら朝日が入って気持ちがいいはず――。

 陈莉ちぇんりぃが準備してくれた布団は少しざらざらしていてこれが機械で作られたものでないことが折り目からわかる。うん、これも気持ちがいい。少し独特な匂いがするのはお香か、何か、かな?布団の上に座り込むと窓の外には大きな満月がこちらを覗いていた。灯籠がまだ1つしかないのに明るく感じたのは満月のおかげだったんだ。

 

 この屋敷だからなのか、華国ふぁこくだからなのか夜は静かだ。陈莉ちぇんりぃが屋敷の中で動いている音がしてくる。

 寝室に明日の衣をコソコソと陈莉ちぇんりぃは持ってきてくれた。


 温花うぇんふぁ陈莉ちぇんりぃ、今日はありがとう。ごめんね先に寝るね」

 陈莉ちぇんりぃ「はいっ!温花うぇんふぁお嬢様、本日はお疲れでしょう。おやすみなさい」

 温花うぇんふぁ「ありがとう、陈莉ちぇんりぃも夜更かししないで早く寝るんだよ〜?明日からもよろしくね、おやすみ」

 

 布団に寝そべると厚みのない布団はペタンとなり、布団が体に引っ付く。思っていた以上に疲れていた体は木のベット?寝台に沈み込む。

 もうちょっとふわふわした布団だと体痛く済むかもな……今度現代に帰る時寝具揃えるのもありかな。家にも買った布団があるしあれでもいいか――。


 目を瞑ると今日の出来事が目まぐるしく流れてくる。今日は陈莉ちぇんりぃと出会えた日だ。もっと明日は陈莉ちぇんりぃと話して友達になれるといいな。そんなことから頭の中では陈莉ちぇんりぃのことでいっぱいになる。

 

 陈莉ちぇんりぃは後宮に入ってから侍女として頑張ってきたんだろう。妃のあたしのために一生懸命してくれていることが節々に伝わってくる。でもなんでこの墓場と呼ばれる屋敷へ来ることになったんだろう?張宏ちゃんほん様の様子からは侍女がこの屋敷に入るなんて言ってなかったし、一人で過ごせるようなこと言ってたような気がするんだけどな――?

 陈莉ちぇんりぃが敵だったとすれば?どんな目的がある?陈莉ちぇんりぃに何かあったとしても何か権力や力でそうなるしかないって可能性もある。真っ直ぐな陈莉ちぇんりぃを疑いたくない――。


 また明日の陈莉ちぇんりぃと過ごしてみて考えればいっか。今日は本当に疲れた。考えを放棄するとあっという間に眠りについてしまった――。

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