華辉の内
朕では無くあの池で蓮の花、鯉に目を輝かせる女の存在がずっと気にかかる。
あの池匂い、鯉が泳ぎ水の流れが変わる音も特別なものに変わったあの日から。
桜の木が欲しいとせがむ女に送ると、木の根が綺麗だと必死に手紙を書く。
奇妙だった感覚が気になって近づいた。暇つぶしが興味に変わっていく。
興味がまた変わっていく――。
それだけだったはず。
怒りを覚えた。
心を知った。
「――華辉様!宮中のも森の奥から狼煙が上がっております!何かあったのでしょうか?!」
宮中は静かに夜の準備をしていた時刻だった。
焦って走ってくる山源はなぜ狼煙が上がったのか混乱していた。
朕が狼煙を渡した人物は――。
華辉「馬の準備を!」
重厚な装備を身につけ、重く銀色に輝く剣を腰にかけ、これぞ皇帝の威厳の姿。
慌ただしく馬に乗り込み、山源たちと狼煙の上がった方角目指す。
そこに既に楊兎将軍たちの隊と医者?が現場に揃っていた。
刺客は楊兎が拘束しており、緑の衣に身を包んだ医者見習いの少年は指示され血の滲んだ大きな包みを丁寧に開く――。
そこには花が血に染まり青くなっていた。
俺の花だ――。
誰がこのようなことを――。
堪えきれない熱が頭に登ってくるのがわかる。
そしてこのような重装備をしたところで間に合わなかった自分は、外面だけで何もできていない。
皇帝という仮面だけで何を大きな気になっていたのだ。
もっと早く花を助ける方法を考えるべきだった。
朕の敵は花を壊そうとするもの。
医者見習いの少年は後宮の妃は朕しか慰めることができないと言う。
ただの友人、医者は皇帝のような力を持っていないから、と下がる。
早く楊兎が娶っていれば俺の花は傷つけられることなく済んだ。
朕は朕の手で花を傷つけてしまった。だから離れていたはずなのに。
朕がいるから朕の花は傷つけられる。
この情けない皇帝の背中を将軍、友人の楊兎が背中を押してくれる。
義務でも、政務でもない。
怒っている。大事にしたくてもがく。友人楊兎にも渡したくない。
華辉「温花――」
朕の花の名を呼ぶ声も自然と優しくなる。
この大切な花に手を伸ばすことも怖くなっていた。でも触れたくて仕方ないのだ――。
華辉「山源、この事件の首謀者を必ず見つけるのだ」
その言葉に熱が籠る。
山源は一瞬固まり「はい」と返事をする。
あの事件の首謀者を見つけるためならと政務にも力が入る。
華辉「――なんだ、この報告書は」
報告書に書かれていたのは「正八品温花の自作自演」そんなはずはない。
山源もこの報告書に目を通しているはずだ。これが事実だと?血を流すことを自ら望んでする人間など存在するはずがない。
添えられた文書には朕の花を侮辱する内容が並べられていた――。
「元妓女である」「梅毒持ち」「異国の要人と関係あり」「人殺しのため墓場へ」
そんなはずはない。
そうだ俺は怒っている。
確かに変わった女ではある。
だが文書に書かれたことが事実だとはとても思えない。
報告書を投げ捨て「墓場」に向かう。
山源は慌てる様子もなく、文書を拾う。
華辉「――温花の様子はどうだ?」
刺客に襲われること、血が流れた後だ、恐怖に震えているはず――。
「きゃーっ!やったぁ!あたしの勝ちね!」
嬉しそうな声が屋敷中に響き渡る――。
楊兎「うわぁぁ〜!温花〜!」
红京「あまり暴れないでください。傷が開きます」
温花「剣術させてもらえないから双六するしかないから、仕方ないの〜(笑)」
红京「双六はもっと静かにできるはずです」
楊兎「そんなんじゃ楽しくねーよな!温花!」
温花「そうだー!そうだ!」
红京「……いいですか、塗り薬の時間にまた来ますのでそれまで双六で静かに過ごしていてください」
温花「まっかせてっ!剣術はしないから!」
红京「陈莉、剣は隠し終えましたか?」
陈莉「はいっ!剣術用の履き物も完璧です!」
温花「あっ!陈莉が抜けたのってそーゆーこと?!」
红京「これは俺が頼みました。本日は楊兎将軍が屋敷に居てくれるそうですが、くれぐれも安静に。意識も失っているんですから」
温花「昨日は眠かっただけだし……」
红京「疲れが溜まっているみたいですね。本日は双六もせず、睡眠を取るよう指示だしますよ?」
温花「わ、わかった!双六して待ってるね!……今度は陈莉も入ってよ!」
陈莉「はいっ!」
双六の駒と小物を嬉しそうに並べると、医者見習いが前に立つ。
红京「いい子にしていてください」
温花「……っ、それじゃあたしが悪い人みたいじゃん」
顔を真っ赤にさせて顔を横に逸らす。
なんだその反応は。まるでそれでは医者見習いのことが――。
華辉「その双六、朕にもさせよ」
気がついた時には温花の体を自分の衣の袖で隠す。
陈莉「皇帝陛下っ……!」
楊兎「おっ!華辉も双六するか〜!(笑)」
ずっと医者見習いの顔を睨む。
だが医者見習いは顔色ひとつ変えず頭を下げ、一歩下がる。
红京「それでは他のお妃様の健康観察に行ってまいります――」
楊兎はずっと朕の背中を叩いて何故か嬉しそうだ。
華辉「楊兎痛い。……温花、大丈夫だったか?」
温花「陛下……ありがとうございます……」
自分の袖の中から出てくる花の顔は潤んでいて、目を離せなかった――。
あぁ、このまま袖の中に隠しておきたい。
医者見習いにあのような顔をさせたくない――。




