剣
皇帝陛下は最近お忙しいのかここへ顔を出さない代わりに剣を振るう顔の整った大男が毎日のようにやってくる。
稽古の様子を退屈そうにただそれを見つめる妃がいる。
温花「剣技のほうはどうですか?」
楊兎「今度競う大会があるんだ!最近は戦がないからな!腕が落ちないから心配だったんだよなー」
楊兎将軍は自慢の剣を出して温花お嬢様に自慢をしていた。
温花「いいな……あたしもやってみたい」
楊兎「見るんじゃなくて、やってみたいなんだな!(笑)剣技祭に温花が来ればそれは目立つからかなぁ……」
温花「他のお嬢様たちは見に行けるのね」
楊兎「そうだなー。温花のことは華辉が隠したくて仕方ないからなー」
温花「市民としてもだめなの?」
楊兎「それか温花が仮面でも被って出場するかだな!(笑)」
温花「それはできるの?!」
楊兎「いやいや!ごめん!華辉は危ない橋を渡せる気はないぞ!(笑)」
温花は侍女の陈莉顔を見合わせた。
そしてゆっくりと口を開く。
温花「……楊兎将軍、红京。今までたくさん心配おかけしました。食事もとれて、運動もできて、月ものがきました」
ここにいる人が心配する理由を温花は理解していた。自分の口から報告をしてくれた。
楊兎「そうか、体調戻ってよかったな!」
温花「報告が遅くなってすいません。陛下には手紙を送っていたんです。楊兎将軍にはお話しているかと思ったんですが」
楊兎「華辉は今、本当に国づくりに忙しいからな〜」
温花「国の父はさすがですね」
温花は医学館で力強く手を引きすぎたこと、押さえ込んでしまったこと……を許してくれたのかわからないが華辉のことを尊敬していることを伝えてくれた。
それだけで俺の肩の力が少し抜ける。
温花が傷ついてしまったことに変わりはない。温花のことを守りたくてたまらない華辉のことを俺は知ってほしい――。
最後のスッと落ちたあの表情はこの後宮の中にいる、1人の妃としての顔に見えた――。
温花「ねぇ、楊兎。あたしにも剣を教えてよ――」
最初は冗談だと思ったが、温花の目は真っ直ぐに刺す。これは冗談じゃない。温花は本気だ。
陈莉「お妃様が剣を握るなど聞いたことがありませんっ!」
红京「……温花様が決めたことなら……」
楊兎「陈莉もそろそろこのお転婆に慣れねーとな!……温花はこの剣で自分を守れよ」
温花「はい、お願いします」
この重い剣には人の命が乗る。
簡単なものではない。
これを持つことで笑顔ではなく、悲しく、辛いものを俺は見過ぎだ――。
銀の剣には覚悟した女が写っていた――。
剣を教えると今までの温花とはまるで別人の顔を魅せ、まるで空気が凍りついたように感じる。
ここまで温花を変える原動力は何だ?
楊兎「温花初めてにしては十分だな!」
温花「楊兎将軍がどれだけすごい人なのか思い知らされて……まだまだです」
楊兎「剣技祭の演舞のほうだと温花はいいんだろうけどなぁ……華辉は温花が出ること許さないだろうしなぁ」
红京「当たり前です。この屋敷が墓場と呼ばれているから他の方がここに来ないだけで、温花様は狙われてもおかしくないのですから。目立つのは良くないです」
薬を最終調整しながら红京はまるで父親か兄のように止めに入る。
楊兎「……でもそろそろ墓場ってだけじゃ、温花のことを隠せなくなるだろ?剣術持ち合わせている女だって知れば、また牽制できるんじゃねーのかなって!なぁ!红京?!」
楊兎将軍は温花が剣術を極めようとする姿を見て、さらに上を見ているのか目をキラキラさせている。
そもそも女性が、まさか妃が剣を握るなんて今まで前例が無かったことで楊兎将軍も楽しくなっているのだろう。
红京「貧血の薬を飲んでなんとか立っていて、稽古ばかりして痣だらけで。仕事を増やされているこっちの身にもなってください。お転婆娘すぎます」
楊兎「えー!红京怒ってんの?!」
红京「はい。ここに薬を持ってくるこちらの労力も少しは考えてください。女性は貧血が多くてただでさえ薬が少なくて大変なのに……毎度こそこそと……」
墓場の屋敷には剣を振るう音、衣が靡く音が静かに聞こえてくる時間が生まれた――。




