壊れる日常②
「原因三号。何故か最近あなたが気になって授業中に眠れませんやら、体育で目が離せない、彼氏がしらけてきたなんてクレームが届いてるわ。風紀が乱れるから、お面しなさいな」
「一番ひどくない!?」
涙目になってる。
アリスの件に関しては本人ではどうしょうも出来なさそうな問題なので、流石に理不尽だ。普段はここまでのことを言わないから、今の飛鳥はそうとう疲れてるんだろうな。
「ま、あんたらだけじゃなくて色々と面倒はあるのよ。先生たちもここぞとばかりに、生徒会に仕事任せるもんだから」
「大変なんだな。無理はするな、困ってたら俺は帰宅部だから手伝うぞ?」
「いいわよ。あんたはオカ研に集中なさいな」
がばっと飛鳥が起き上がる。少しだけ嬉しそうに口角を上げていた。
六月も後半。世間ではまたもや歴代最高気温の更新やら、数十年に一度の雨が降っていたそうだ。最近は文化祭の装飾で、重苦しいコンクリート壁の学校がさながらテーマパークのように彩られている。
これも飛鳥たち生徒会が影ながら動いて色々手配してくれているからだ。
「ならそうさせてもらうよ、マスターが顔見たがってたから終わったら一緒に行こう。まあそのくらいなら、奢ってやらなくもない」
素直に労うのは飛鳥との関係上少し恥ずかしさがあるので、遠回りに上から目線で発言しておく。アリスと鈴音がにまにましながら俺を見ていたけれど気にしたら負けだと全力で無視した。
「あら、なら甘えさせて貰うわ。約束忘れないでよね!」
飛鳥は満面の笑みで提案を受け入れるのだった。
ちょうど弁当も食べ終わったようで、箸を白いケースに入れて弁当箱と一緒に頭巾のような布で包み始めた。手際よく布で包み終えると、飛鳥は思い出したかのように鈴音を見る。
「そういえば、今年も関係者用に二階を解放するそうよ。鈴音も誰か呼んでおくといいわ」
「え、ああ、うん!」
バツの悪そうに鈴音が返事をする。そういえば飛鳥は鈴音の家については知らないんだったな。家族に発表を見せればという、いたって普通の会話だが少し鈴音には重い内容だったと思う。
「ま、それはそれとして、飛鳥は今の時点での仕事は終わってるのか?」
「あ、ああ……。仕事残ってるんだった……。ありがとう……」
「がんばってね」
意地悪な気もするが話をそらさせてもらう。
アリスも察してくれて飛鳥を笑顔で送り出していた。
「ああ、昼休みが、消滅する……」
とぼとぼと歩いていく飛鳥を見送る。
失礼かもしれないが飛鳥は将来、いわゆる社畜になってしまいそうだな。既に背中から長年培った社畜根性のようなものが見える。
「ごめん! ありがとうね!」
鈴音が両手を合わせて申し訳なさそうに謝罪した。
「別に構わないぞ。というか飛鳥にはまだ言ってなかったんだな?」
「うん……。飛鳥ちゃん気にしいだから、心配かけそうなんだよね!」
「確かに……。わかるかも」
アリスもうんうんと頷いて同意する。我が校で知覧に肩を並べるオカン属性の持ち主として信頼されているが、鈴音はその部分を心配しているようだ。
飛鳥なら鈴音の家庭事情に率先して首を突っ込みそうというのは俺も同意見だな。
「それで話をぶり返すんだが、お前はその、父親には伝えなくてもいいのか?」
俺の問いに鈴音は頭を抱える。
「うーん、それはまあどっちとも言えないかな? お父さん普段は優しいから、お酒さえ入ってなければ来てくれそうだし! でも、お酒飲んでたら叩かれるから嫌かも!」
あくまでも元気に、なんてことないような感じで話す鈴音だが聞いてて反応に困るのは俺たちの方だ。どう答えたらいいのかわからん。
「じゃあ、俺と孝宏がついてくから親父さんのところに一緒に行くか?」




