第304話 第三学年一学期19 エルヴェ視点
私とライアは同時に床を蹴る。速さは──同等。いえ、寧ろ、負けてる?
古来より狩猟で生計を立てていたが故に培われたエルフの動体視力の良さが、否応なく私にその事実を突きつける。
ライアさんは私の一撃をひらりと躱し、微笑みを浮かべながら回し蹴りでカウンターを決めにくる。受ける気はないから避けるけど……明らかに戦闘慣れしてる動きなのよね。不思議だわ。本当に一般人?
何度か殴って避けての攻防を繰り返して、私は一度後退する。追撃はこない。ライアはとても優雅に佇んでいた。その表情に疲労は見られない。強がりってわけではなさそうなのよね……。
「中々やるのね」
「そちらこそ、と返させていただきます」
「!?」
油断も隙もない。ライアは返事と共に高速で接近し、手刀を振りかざしてきた。
どうにか躱せたけど……容赦ないわね。避けられなかったら終わりだったかもしれないわ。
更に追撃。躱すたびに嫌らしい場所を攻撃してくるせいか、段々と拳がかすり始めた。直撃も時間の問題と悟った私は、負けじと風の精霊を呼び出して応戦する。
「……精霊は干渉が難しいので厄介ですね」
精霊の作り出す風の刃を躱しながら、忌まわし気に精霊を睨んだライアは、一度距離を取ってパチンと指を鳴らした。
その直後、突風が部屋中に吹き荒れた。咄嗟に私は意識がライアから外れる。
──それが命取りだった。
「おや? 余所見とは降参の合図でしょうか?」
その声は私の背後から聞こえた。
咄嗟に振り返るも、魔法の弾丸が待機状態でこちらに向けられていた。
「……私の負けね」
これは勝てない。詰んだ。
そう感じた私は魔法を解き、素直に降参した。
ライアも魔法を解く。後は審判兼司会のアドレルちゃんの宣言だけなのだけど……彼女は目を点にして固まっていた。見れば大半の見物人はアドレルちゃんとおなじ反応をしていた。ハギちゃんだってそう。唯一、ケイ君は変わってないけど……それだけライアを信用しているってことなのかしら。
「強いのね……」
「私はまだまだですよ」
力押しでの勝利ですからね。と言いながら、ライアは握手を求めて来た。
これでまだまだって……傲慢なことを言うようだけど、王都で一、二を争えるレベルの実力よ? 一体ライアはどれほどの実力者と会ったことがあるのよ。
私たちが握手を交わすと、まばらに拍手の音が鳴り始めた。
「し、勝者、ライアさん……」
拍手に紛れてアドレルちゃんの声が微かに聞こえた。彼女は拍手こそしていないけど、何度も自分の頬をつねったりしていた。
「完敗だったわ……流石はハギちゃんの姉ね」
「ありがとうございます。エルヴェ様もパルヴァ商会の警備部副長の名に恥じない実力者、と判断させていただきます」
褒め言葉、と受け取っておきましょう。
私がライアの手を取って立ち上がると、全方位から大歓声があがった。
負けてしまったけど……悪くない気分ね。
「そ、それでは今回の催しはこれにて閉幕とさせていただきます……」
歓声に紛れて、アドレルちゃんの声が聞こえた。まあこの様子だと……聞いていたのはライアとハギちゃん、そしてケイ君のみかしら。
あ、アドレルちゃん、明確に落ち込んでるわ。彼女、無視とかされちゃうと結構すぐに落ち込んじゃうのよねぇ。これはお姉ちゃんが慰めてあげないとよね!
来週は更新できそう……ただ日曜日かは不明です。眠い (瀕死)




