7話:俺は俺なりに 【私は私なりに~】
それからと言うもの、俺は役所のお姉さんの検索する知識の通りに指示を出した。
情けないと思うかもしれんが、俺には農業の知識なんてない。
だが、今は素人の適当なノリで事を進めていい場面じゃないのだ。
数人を森に走らせ、俺もそこに付いていく。
必要なのは、「腐葉土」と、「種」。
地中の微生物や、ワームが食い、発酵させた栄養満点の土と、そこに撒く野菜の元だ。
「ヤマベ様、土はこのような物でいいですか?」
「ん~…」
【問題ないみたいですね~】
「ん、問題なさそうだ」
流石に人の手が入ってない森なだけあって、そこかしこで使える土がある。
あとは、野菜だが…このへんにあるのか?
【そうですね~、最低限、根菜を見つけられればいいんですが~】
ん~、鬱蒼とした森の中で野菜を探すって、できるのか?
木の実の種なんかは取れるんだろうが…。
「お、そうだ。」
【ん~?心当たりありますか~?】
ほら、あそこだよ。
この森に足を踏み入れた時、やたらと実り豊かな場所あったろ。
あそこなら、なんか有るんじゃないか?
【なるほど~!あそこなら確かに、見つかるかもしれません~!】
俺は早速、ナルゥにそのことを伝えてみる。
「ふむ…実りの多い場所か。ならば私が付いて行ってやる。案内してくれ」
「おう!頼むわ!」
ひとまず、ダークエルフの姉ちゃん達には土を持っていって貰って、俺とナルゥは例の土地に向かう事にした…。
◆
「……ここか?」
「おう、ここだよ」
そこには、相も変わらず様々な実りがあった。
見渡す限りの木の実。
木材を糧にした茸。
ふかふかの地面には、山菜も生えている。
探してみれば、畑で育てられそうな野菜があるかもしれん。
「ナルゥ。早速探してみよう」
「…………」
ナルゥさん、無言。
あ、あれ?なんだろうこの顔。こう、神妙な感じ。
一週間もここを黙ってたの、怒ってるとか?
「…ヤマベ、ここだがな」
「お、おう?」
ゆっくりと、言葉を探すように話すナルゥ。
怒っているというよりは……
【山辺さんに、何か言いたい感じですね~。でも、躊躇ってる…?】
だよな。
この場所が、俺に関係あるんだろうか?
「なんだよナルゥ。ここなんかあんのか?」
「いや…うむ、そうだな。ある。お前には言っておこう」
ナルゥは、何かを躊躇っていたようだが…意を決したのか、俺に向き直る。
その口から、紡がれる言葉は……
「この空間は、精霊の墓場だ」
……俺を驚かせるには、充分な内容だった。
「精霊は、外部からの攻撃以外でその生涯を終える時、こうして己の全てを自然に溶け込ませるんだ」
艷やかな葉を蓄えた木をそっと撫でつつ、言葉を続けるナルゥ。
聞いてる俺の方が、どこか他人事のような気分だな。
「結果として、その空間は実り豊かな場所になる…我々にとっては天の助けだが、精霊であるお前にとって、ここは何か特別な場所かもしれん。それでも、ここから恵みを持っていくのか?」
なるほどな、合点がいった。
ナルゥは、俺の心境を案じてくれてるわけか。
精霊として、理性のある俺。
そんな俺が、仲間である精霊達が眠る場所を荒らしていいものか、と。
【優しいですねぇ~】
あぁ、んだな。
出会って一週間だが…人に自慢してもいい位の、良い女だわ。
だからこそ、この答えは適当じゃいかんな。
「持ってくよ~」
「…本当に、いいのか?」
「ん、俺はねナルゥ。経験上、魂ってのは存在すると、確かに言えるんだわ」
だから、この行動が魂の冒涜になるかも知れないってのは、わかる。
けど……
「だからこそ、その魂ってのが少しでも人の為になるように残したものなら、ありがたいと礼を持って使ってやんなきゃいかんと、思うわけだ」
死に絶え、転生した後の墓ってのは、空っぽでしかない。
けど、記憶を持ってる立場としては、こういう置き土産ってのは、確かに意味のある行動な訳だ。
伝い伝えて、子々孫々ってな。
「少しでも、森を豊かにしてくれてありがとう。俺らを食わせてくれてありがとうってな。この時点でもう、一宿一飯の恩義ってやつだ。だったら、その恩に報いるように、更にその死に意味を持たせるのが大事なんだよ」
「……ひねた考えだ」
「んははっ」
憑き物が落ちたみたいに笑っておいて、素直じゃないでやんのな。
けど、意味って大事だと思うわけだ。
ここにナルゥがいるように、ここに俺がいるように。
ここには、たくさんの精霊がいて、たくさん消えて、たくさん転生した。
その物語が、はいそれまでってんじゃ、味気ない。
その精霊達が転生した後も、物語は続いていきますよ~ってな?
気の持ちようでも、そっちのが楽しいよな。
ま、俺は死にたくないけどな。
【ふふ、山辺さんらしいですね~】
おう、らしいって大事だよな。
「だから、今できることの為に、俺は貰ってくよ。ありがと~って言いながらな」
「ふん、では、私も貰っていくか…感謝を込めて、な」
さて、憂いは薄れた。
役所のお姉さん、野菜捜索はまかせたぜ!
【おまかせを~!】
その後、
俺達は、日本で言う「人参」や「ゴボウ」の根、「白菜」っぽい野菜の種を手に入れた。
【それぞれ、「ネネン」、「オゴの根」、「フーワ」っていうんですよ~】
ええい、紛らわしい!
人参ゴボウ白菜で充分じゃ!
「これらを植えて、増やすのか」
「おう。きっと旨くなるぞ!」
「ふん、お手並み拝見だな」
「「…………」」
なんだろねえ、この空気。
俺ら、こんなに仲良かったか?
「……なぁ」
「行くぞ」
「あ、お、おい?」
ナルゥが先に進み出す。
よくわかんない空気のまま、俺も後を追う。
ま、いいわ。今は畑!こっから精霊に力借りて、成長させなきゃいけないんだからな!
俺達は、里に向けての帰路についたのだった――――
◆
「ふふふふふ!!みぃつけた、み~つけた!見つけましてございますぅ!」
「素晴らしい、素晴らしい、なんと素晴らしい存在でしょう!命に対する考えを持ち、その生と死に意味を与え、それを活かす!中々に言えるものではございません!」
「彼の高等な精神、そしてなすべき事!これは見届けねばなりません、えぇ、えぇ、なりませんとも!」
「その断末魔を堪能するのは、その後、という事にいたしましょう!あぁそれがいい!」
「皆と何かを成すという美学!そして恍惚の達成感!」
「美しい感情が大きければ大きいほど!その後の絶望はどん底へ落ちる高さが違います!!」
「もっと、もっともっともっと!もっと見せてください精霊さん!ワタクシに、このワタクシに、貴方という存在を!んふふ、んふふふふふふふふ!!」




