6話:鉄腕エルフ!【立派な農場、作れるか~?】
大婆様は、農業について説明すると目の色を変えていた。
まぁ、ダークエルフの文化は、自然の恵みを糧に栄えてきたらしいからな。
作物を育てるという、概念そのものが無かったわけだ。
人間かなんかがいれば良かったんだろうけど、こうして、『廃れた地』のど真ん中に出来た森ん中に住んでる訳で…そりゃ、知識がないと思いつかない、よな?
「んで、そういう風に手を貸すことで、作物を安定して食べれるようになる訳だ。今回で言えば、森を傷つけることなく恵みを得られるようになる訳だから、森衰退の遅延程度にはなると思うぞ?」
「ふむ…なるほどな」
腕を組み、考え込む大婆様。
…もしかしたら、天秤にかけてるのかもな。
今まで自分たちが培ってきた文化を貫くのか。
はたまた、森の為に新しい風を吹かせるのか。
【まぁ、今回に限って言えば、悩むことはないと思うんですが~】
そう言うなよ役所のお姉さん。
あり方を壊して模索する。それを里の長が自ら皆に伝えないといけないんだ。
もし、全ての民に反対されたら。
強行したとして、もし失敗に終わったら。
里の瓦解もありえる展開だ。
長として、あらゆる可能性を考えなくちゃいけない。
責任ってのは、いつだってついて回る。
慎重過ぎるくらいがちょうどいいんだよ。
【私達を招いたのは即決でしたけどね~】
そこはそれ、俺の人柄が素晴らしいからだな。
【はは、ウケる~】
「……ヤマベよ」
「うん?」
大婆様が、重い口を開く。
「畑を作るとして、どのくらいで食物を回せるようになる?」
難しい質問がきたな。
さて、どうなんだお姉さん?
【ん~、先日山辺さんは、MPを10消費して植物を即座に育てていましたね~。あのペースですと、植物にまんべんなく……2ずつ与えると計算して……畑1面程度を成長させきるのに、1日でしょうか~】
そりゃなんとも、俺の現実を覆してくれる答えだな!
【ただし、成長だけを念頭に置いたら、です~。植物の負担、実った野菜の質、味、そういうのは経験した上で試行錯誤していくしかありません~】
なるほどなぁ。
俺は、役所のお姉さんの言葉をそのまま、大婆様に伝えてみる。
また、しばしの沈黙。
「…………」
……腕組むと、更にエロいな。
【こら~?】
失礼。いやらしいな
「おい」
「【はい~!?】」
「決めたぞ」
っ、くりした!びっくりした!
バレたかと思った!
「ついでに、後で面を貸せ」
あ、終わった。
俺が白くなっている中で、大婆様は口を開く。
その答えは……
「此度の件、お前に任せる。我らの手で作り上げる恵み、その恩恵を里の皆に与えられるよう、奮闘しろ」
威厳を込めた、命令だった。
今更ながら、不安になるくらいだ。
里が生まれて、初めての一大プロジェクト。……俺に、務まるものなのか?
【あはは~、山辺さんじゃ無理かもしれませんね~】
おいこら。
【ですが~、ここには私もいますし~、山辺さんには『食い道楽』の特典もあります~!全力でサポートさせていただきますよ~!】
……そうか、そうだな。
おれには、食に困らない運命にある特典、『食い道楽』がある。
それに、いつでも俺のそばにいる、役所のお姉さんがいる。
きっと、なんとかなるはずだ。
だからこそ、俺は答える。
自信を持って。
確信を持って。
「その申し出、受け賜った。絶対に成功させてやんよ!」
頷く大婆様。
ほんの、ほんの少しだが、その口元は、緩んでいた。
「うむ、励めよ。…そうだ」
何かを思いついたのか、大婆様は言葉を続ける。
「今回の計画を成功させるために、お前に助手を付けよう」
「助手?」
「あぁ、精霊絡みなら、奴を付けておけば間違いはない」
おや?
なんでしょう、嫌な予感がしますわよ?
【あ、山辺さんもですか~?実は私も~】
「この里で唯一の、精霊使いだ。実力は保証する」
「【人事につきましては我々に一任させて頂きたい~!?】」
俺とお姉さんの絶叫が、里に響き渡った。
◆
その翌日。
俺は、ナルゥの護衛の元、畑の予定となる集落の離れにいた。
ダークエルフの家を作る際に、どうしても切り落とす必要があった木々のあった場所で、そこそこの広さがある。
30人を賄うための畑くらいなら、作れそうだな。
「よーし、みんな集まってくれたなー」
俺の前には、狩りの仕事を休んで貰ったダークエルフの女性たちが集まっている。その数、八人。
男性はこういうとき、狩りを休んじゃいけないらしい。
「これからアンタらには、畑っていうものを作ってもらう。説明は大婆様から聞いてるよな?」
数人の女性が顔を見合わせ、一人が代表に口を開く。
その顔は、どこか不安げだ。
「確かに、説明は受けてきました。しかし、未だに信じられません……我々が手ずから、森の恵みを作り上げるなど……」
まぁな、わかるよ。
彼女らにとって、作物ってのはこの森から恵んで貰える実りだ。
それは自然という高位の存在から与えられるものであり、自分たちで掴もうという常識はなかった。
だからこそ、今このプロジェクトに懐疑的である、と。
しかし、今のままでは、この里は遠からず衰退する。
それは、たとえ俺が精霊に働きかけて森を拡張したとしても、逃れられない未来だろう。
「あんたらの言いたい事は理解出来るし、不安もわかるつもりだ。けど、必要な事なんだよ」
「………………」
だからこそ、俺は説明する。
この人達の懸念を取り除き、畑仕事に対して能動的にできるのは、この一回が大事だからだ。
「大人ならわかってると思うが、あんたら30人に対して、この森が与えてくれる恵みは非常に少なくなってる。恵みが減れば、当然腹が減る。食いぶちを維持するには、獣を狩るしか今はない」
「そう、ですね」
「けど、その獣もまた、恵みを食べて生きる森の一部だ。恵みが減れば、当然飢えて、死ぬ獣が現れる。そうなれば、必然肉が減る。いや……」
肉だけじゃない。
生存競争の果てに、より恵みを多く食べようと獣も活発化するだろう。
そうなれば、わずかな事で、生態系が容易に崩れる。
種の絶滅が始まれば命の循環は回らなくなり、劣悪な雑食しかいなくなる。
結果、森が更に食い荒らされる。
大分大袈裟にあおってはいるが、似たようなものだ。
「だからこそ、俺達がどうにかしないといけない訳だ。自分たちの食いぶちは、自分で稼ぐ。少しでもそれができれば、森は維持できるんだから」
「………………」
沈黙。
不安な時間だな。
昔ながらの考え、習慣。
それを捨てろと言う無茶ぶり。
実際は、捨てるというより項目を増やせという事なのだが、初めてそれをする、という人達には関係ない事だ。
受け入れられるか、否か。
【ふふ、心配し過ぎですよ~】
言ってくれるね、役所のお姉さん。
なにか確信があるのか?
【いえいえ~簡単な事です~。山辺さんは、今や聖樹に住む精霊なんですよ~?】
まぁ、住んでるけどな。
それがどうした?
【んふふ、あまり自分を過小評価しないように~】
「………………わかりました」
お?
【んふふ、ほらね?】
返事は、肯定。
俺をまっすぐに見つめ、ダークエルフ八名が頭を下げる。
「今の貴方の言葉は、聖樹の言葉。その言葉にこそ、意義があると……我々一同理解いたしました」
お、お、おぉ?
なんだ、なんか俺、そんなに凄い立場だったのか?
ナルゥが「え?そんなあっさり?」って顔で見てるんだが?
【ナルゥさんは、貴方の人となりを理解してますからね~】
逆に悲しいんだが。
【まぁ、客観的に見て、聖樹に認められた精霊の言葉なんですから、不安はあれど否定なんか皆しないって確信はありましたよ~】
………なるほどな。
じゃあ、それ相応の責任もついてくるわけだ。
………上等だよ。
「よし。始めるか」
簡素で素っ気ない返事。
だが、ここにいる面々にとっては、それで充分らしい。
今ここに、森を維持するための聖戦が始まった。




