4話:ヤンデレこえぇ【けしてBLではありません~!?】
どうする、役所のお姉さん!
俺はどうすればいい!?
このままでは、こいつに自宅までお持ち帰りされかねない状況なんだが!?
【と、とにかく、この魔力の網をどうにかしませんと~!】
そうだな、そうだよな!
俺は必死に体を振り回して脱出を試みる。
……しかし、悲しいかな。網はびくともしてくれない。
「ふふふ、無駄だよ、無駄。ボクの作った網はそう簡単に壊れはしないんだ……」
男とわかった今、こいつにドキッとすることは無いんだが……舌舐めずりしつつ近づいてくるのはやめてくれないか!?
マジもんに怖ぇんだよ!?
「なんたって、他の精霊さんに頼んで、魔力補強して貰ってるんだからね!」
「なにぃ!?」
【あ、あー、精霊使いなら、可能でしょうね~】
ちょっとおさらいしてみよう。
エレメンタラーは、精霊に呼び掛けることにより、その力を使役できる職業だ。
しかし、元々この世界での魔法っていうのは、精霊に呼び掛けることで属性を提供してもらい、火や水を出現させる。
その結果、炎魔法や風魔法なんかが使える訳だな。
エレメンタラーでなくとも、精霊の呼び掛けはできるのだ。
では、なぜエレメンタラーが特殊なのか?
その答えが、今こいつがやってる事だ。
エレメンタラーは、精霊に呼び掛けることでその「力」を貰うのではなく、「お願い」が出来るのである。
つまり、俺の『司令塔』と似たような事が出来るのだ。
【正確には、山辺さん程の強制力があるわけじゃ無いですけどね~。そしてその分、他の魔法の適正がほとんどなくなるから、癖が強すぎてやりづらいジョブだと思いますよ~】
逆に言うと、そんなジョブをコイツは使いこなせてる訳で…!
好きこそ物の上手なれ、とはよく言ったもんだな!
「ふ、ふふふ、大丈夫、大丈夫だよ?優しくする、優しくするから……むしろ気持ちいいから!」
「犯罪者の言動じゃねぇかよ!?曇りなき眼が逆に怖いよ!?俺の見た目が精霊じゃなかったら完全にアウトな存在だぞお前!」
「そんな!ボクはただ、家に持って帰ってお茶したり、ちょっと着せ替えしてもらったりして一緒に遊びたいだけなんだよ」
「家の鍵は?」
「全部施錠した上で板を打ち付けるよ?」
「だれかぁぁぁぁあ!下手人が!ここに下手人がいますぅぅぅぅう!?」
こんな奴に構ってられるか!俺は家に帰らせてもらう!
とはいえ、この網、本当にどうすればいいんだ…!
精霊にお願いしたってことは、こいつの魔力に精霊の魔力をプラスしてるってことで…ってことは必然、俺の魔力では…
【山辺さん、山辺さん~】
役所のお姉さん、俺はもうダメかもわからん…まさか、命の危機を乗り越えたと思ったら貞操の危機にみまわれるとは…!
俺の亡骸は、荒野に埋めてくれ…!
【軽口が叩ける分心に余裕がありますねぇ~。というかですね?】
ん?
【精霊の魔力がこの網に使われてるなら、『司令塔』使えば抜け出せるんじゃ~】
……おぉ、そうだよ。
俺、精霊の司令塔じゃんさ。
つまり、命令すればよかったのか!流石は役所のお姉さん!
【ふっふっふ~、もっと、もっと褒めてください~!】
そうと決まれば善は急げだ。
俺は、今まさに迫ってきているクインの油断しきった顔を睨みつける。
可愛い顔してるのに、色々と残念過ぎるやつだなぁ…。
「あぁ!もう辛抱たまらない!今すぐハネムーンに出かけよう精霊さぁん!」
クインは膝を曲げると、その足に力を込め、一気に跳躍する。
お手々と足の裏のしわとしわを、合わせて幸せ。
キラッキラに輝く瞳のままに、俺に飛びかかってくる。
お前、それは伝説の怪盗飛び!?
男の必須科目とはいえ、けして見た目美少女がしていいジャンプじゃねぇんだよぉ!
「開け、網ー!」
「え?」
俺の号令と共に、網に溶け込んだ精霊の魔力がするりと緩む。
俺の体が自由になり………
「おぉりゃあああ!?」
「へぶぅー!?」
奴の顔面に、思いきり体当たりをかましてやった。
空中でバランスを崩したクインは、べしゃあ!と尾とを立てて地面に落ちていく。
ほんと、惚れ惚れするやられっぷりだわ……。
【山辺さん!今のうちですよ~!】
お、おう、そうだな!
「悪いが、お前の相手はしてらんないんだよ!またなクイン!」
俺は、その場を全力で逃げ出した。
もう二度と奴には近づくまい、そう心に近いながら――――
◆
「イタタ……」
地面に落ちたクインは、腰を押さえて起き上がる。
まさか、精霊が魔力の網を開いて脱出するなんて、まったくもって予想外だった。
「はぁ…逃げられちゃった」
せっかく、理想の存在……一緒にお喋りできる精霊に出逢えたのに、その初コンタクトは見事な大失敗。
しかも、完全にブラックリスト入りを果たしたのは明白であろう。
幼いころからエレメンタラーとしての強い素質を持っており、精霊に好かれていたクインにとって、その拒絶はまさに初めての経験であった。
クインは精霊が少なくなってきたこの里に生まれ、精霊に願いを届けて魔力を循環させる仕事を担う、超重要な存在なのである。
まぁ、感性がぶっ飛びすぎており、大婆様からも過度に力を使うことを咎められたりもしていたが……その素質は天才の一言。
里にとって必要な実力者なのは間違いない。
そんなクインが、初めて精霊に拒絶された。
その事実は、重く重くクインにのしかかる。
絶望か、はたまた怒りか。
その肩は小さく震え………
「……キス、しちゃった♪」
訂正しよう、この変態は、恍惚に身を震わせていた。
一部読者に誤解を与えてしまったことを、この場を借りて謝罪するものである。
「しかも、ボクのこと、クインって……クインって、呼んでくれた!あぁ、もう最高!」
顔面に一撃もらったくせしてこのポジティブシンキング。
その上、名前を呼ばれただけてこの乱れよう。
馬鹿な上に天才で変態の思考とは、かくあるものなのか。
「ふ、ふふふ、もうボクは止められないよ、精霊さん…必ず、ボクのダーリンになってもらうからね!」
かくして、野獣は解き放たれた。
これこそが、山辺の持つ特典、『かくれんぼ』のなせる技だというのだろうか。
心の休まる暇もない、地獄が幕を開ける。




