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悪役令嬢の怠惰な溜め息  作者: 篠原 皐月
第3章 “学園”は、全力で避けたい鬼門です

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(14)懸念の解消

 剣術大会が学内に向けて告知され、全生徒が何がしかの係に割り振られてから半月後。そのうちの一つが会合を開く事を耳にしたエセリアは、放課後密かにその会場になっている教室を覗いてみた。


「それで今回は、各段階毎の、記章のデザインを決定します」

 そう話を締めくくった、エセリアも顔を見知っていた官吏科のニーナに、参加者の一人が確認を入れる。

「一回戦から段階が上がる事によって、デザインを徐々に大きく、複雑な意匠にしていくのですよね?」

 それにニーナが頷き返し、一番手前の机の列を指し示した。


「ええ、それでこれまでに皆様から提出されていた図案を、こちらに全て並べておきました。一応左から右に向かって、難度が高くなる様に揃えています」

 その説明を聞いた二列目以降に座っていた参加者達は、納得したように頷き合った。


「なるほど、だからこういう風に並べてありましたか」

「これなら分かりやすいですわ」

「確かに決めやすいですね。段階ごとに分割して、その中で決めましょう」

「それに、そのレベルの刺繍が各自可能かどうかを判断して貰って、各デザインの担当も、決めてしまおうと思います」

 それから全員が教室の前方に集まり、激論を繰り広げ始めたが、さすがにニーナは官吏科らしく冷静に周囲を纏め、貴族科生徒の不満そうなところは、同じく紫蘭会会員でもある侯爵令嬢のイリーナが上手く宥めて、会合は問題無く議論が進められていた。

 その様子を目の当たりにしたエセリアは、密かに安堵の溜め息を吐いた。


(刺繍担当班は、早速活動してくれているのね。それに貴族平民関係なく、活発に意見交換してくれているみたいだし、早速学内での隔意を和らげる効果は出ているみたい)

 そんな風に気分を良くしながら、彼女は兄と待ち合わせているカフェへと向かった。


「お兄様、イズファイン様。専科上級学年をきっちり抑えて下さって、ありがとうございます」

 同じテーブルを囲んで頭を下げると、そんな妹の殊勝な姿を見て、ナジェークは苦笑いで告げた。


「大した事はしていないさ。マリーア殿が一言でも文句を言おうものなら、男だろうが何だろうが蹴散らしているからね」

「本当に、これまでの彼女のイメージからは、全く想像ができませんでした」

「そうですか……。皆様、奮闘していらっしゃいますのね……」

 隣のイズファインも、同様の苦笑いで相槌を打った為、エセリアは顔が引き攣りそうになるのを堪えながら、言葉を返した。


(マリーア様を初めとして、紫蘭会会員の活動ぶりは私も耳にしているけど、やっぱり相当弾けていらっしゃるみたい。そんなにオリジナル原稿が欲しいんですか?)

 これは皆様に気に入って頂ける物を書かないといけないわねと、エセリアが密かに気合いを入れていると、ナジェークがついでのように話題を出してきた。


「ところで、この前王宮で、アーロン殿下の婚約を御披露目する会が催されたらしいな。両陛下は勿論、うちやキャレイド公爵家も参加して、和やかに執り行われたとか」

 それを聞いたエセリアは、瞬時に意識をそちらに向けた。


「ローガルド公爵家のマリーリカ様ですよね? アーロン殿下との仲は、どんな感じだったのでしょうか?」

「母上の話では、可もなく不可もなくと言った感じだったらしいな。だが殆ど初対面だし、それほど心配要らないと思うが?」

「それなら良いのですが……」

(私が陰で婚約破棄を目指す煽りを受けて、この婚約話が出てきたわけだし、できればアーロン殿下と良好な関係を築いて欲しいのよね。勝手な言い分過ぎるけど)

 事も無げに話す兄の様子に、エセリアが神妙に考え込んでいると、ナジェークがおかしそうに尋ねてきた。


「やはり、気になるかい?」

「はい、それなりに」

「お前が口にしなくとも、どのみち誰かから話は出ていた事だろう。あまり気にする必要は無いからな?」

「そうですよ。それにマリーリカ嬢はエセリア嬢とは従姉妹同士の関係ですし、家同士の交流もありますから、王子達の派閥争いも暫くは沈静化するだろうと、貴族間では専らの噂ですし」

 イズファインにも宥めるように言い聞かせられ、エセリアは素早く気持ちを切り替えた。


「そうですね。暫くは剣術大会を成功させる為に、全力を尽くす事に致しましょう。それについて、イズファイン様にお願いがありまして……」

「はい、何でしょうか?」

「大会直前までに、信頼できる何人かを密かに選んで、騎士科内で目を配って頂きたいのです。こんな事を口にするのは、騎士科所属の全員に対して失礼だとは思いますが、実力で勝てない相手を脅迫したり買収したりしようと考える不埒者が、出ないとも限りません」

 彼女が真顔でそう申し出ると、イズファインも忽ち険しい表情になった。


「その懸念は尤もですね……。それを見越して、組み合わせ抽選会のスケジュールを、開催日三日前に組み込みましたか……。分かりました。特に抽選会から開催日までの期間は、重点的に目を光らせておきましょう」

「宜しくお願いします。それから信頼できる教師の方にお願いして、騎士科の授業での評価表を、観覧に来られた騎士団幹部の方の目に留まるように、配布する事はできないでしょうか?」

 彼女からの更なる申し出に、イズファインはさすがに困惑の表情になった。


「それは……、さすがに理由が必要になるかと思いますが……」

「参加者の詳細な資料を付ける事で、各個人の戦闘ぶりをより理解できるとかなんとか……」

 エセリアも適当な理由付けができず、かなりの無茶ぶりをしている事を認識しながら頼み込むと、彼は難しい顔をしながらも、力強く請け負った。


「確かにそれがあれば、騎士団への推薦基準がかなり怪しいのが明白ですし、その日偶々不調だったなどと言い逃れはできませんね……。分かりました。信頼できる教師に頼んで、密かに揃えておいた上で、何とでも理由を付けて配布しましょう」

「お手数おかけします」

「いえ、私も気持ち良く、本気で試合がしたいですからね」

 本気で頭を下げたエセリアを、イズファインは笑って宥めた。


(よし、騎士科方面の根回しは大丈夫ね。後はワーレス商会に連絡を取らないと)

 それからナジェークも交えて運営についての話し合いを進めながら、エセリアの意識は早くも次の段階へと向かっていた。



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