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この異世界もう地球化してるんですけど……ぐあっ!右手がぁっ……!  作者: 濃縮原液
第1章 特定外来生物ウホゴリラ(地球名:ニホンザル)
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09 異世界人協会②

 いよいよお待ちかねの換金タイムだ。


 トキナさんに選んでも貰った素材類には相当の値段がつくだろう。

 こちらの方は心配していない。

 もちろん期待はしているけど。


 問題は僕が選んだ電子機器だ。

 状態のよいもの、かつ作るのが難しい気がするものを選んで持って来た。

 最初は電子機器以外も持ってこようと思ったが場所を取るのであきらめた。


 多分正解だっただろう。

 この世界には錬成術がある。

 石油を作れる能力者までいるというのだ。

 構造が単純なものはこの世界で特別な価値はないと思った方がいい。


 むしろ電子機器の価値ですら怪しい。

 国によっては光ファイバーまで通っているような世界だ。

 パソコンとかも普通に作れるレベルまで技術が進んでいるかも知れない。

 受付のお姉さんも普通にパソコン使っていたしね。


 不安を抱きつつ僕はリュックサックの中身を見てもらう。

 素材類と電子機器、どちらの鑑定もドキドキだ。


「おお、魔結晶ですか。これはすごいですね。どこで拾ったか教えてほしいくらいです。魔結晶はドラゴンみたいな強い魔物の体内で生成される物だからめったに見つかる物ではないのですけど」


 そのドラゴンの体内から取り出しましたとは言わない。

 面倒になりそうなので。

 向うも突っ込んで聞いてはこないのでスルーしておきます。


「こっちも色々珍しいですね。電子機器はまだこの世界で作れないものも多いのでこちらも貴重ですよ」


 どうやら電子機器にも価値があるようだ。

 僕が選んだ方にだけ価値がなかったりしなくて良かった。

 トキナさんに対して恥ずかしい思いはしなくていいようだ。


『妾としてはそういう場面も見たかったがの』


 トキナさんは無視して鑑定を見守る。


「電子機器は使えるか試す必要があるので鑑定には時間がかかりますね。でもこの世界で作れない《再現不可機器》も多いです。相場は地球の10倍以上にはなるから全部合わせると100万円はくだらないと思います。状態次第では500万円近くになるかも知れない。すごいですよ」


 確かにすごい。

 500万。500万円か……。

 少なくとも日本の高校生が普通に手にする金額ではない。


『その辺の物は作るのが難しそうじゃからの。円という単位では想像しにくいが、魔道具類と同程度には高く売れるようじゃの』


 魔道具類も高いようだけどとにかくそれだけ価値があるということだ。

 そうして僕が興奮して待っていると、遅れて素材類の鑑定結果も出てきた。


「こっちはさらにすごいですよ。ざっと見ですが、全部合わせると2000万円ほどになります。特に魔結晶はいいですね。これ1つで500万円はくだらないでしょう」


 こっちの方がもっとすごかった。

 僕が選んだ電子機器全部と魔結晶1つが同じ値段か。


『こっちは当然じゃな。主は戦闘に関する基準がバカになっとるようじゃが、ドラゴンは本来普通の人間には倒せぬ。じゃから魔結晶も普通の人間が手に入れることは不可能じゃ。そもそも未開領域は人間が踏み込めぬから未開の領域と呼ばれておるのじゃからの。その中でしか拾えぬ素材が高いのは当然の話じゃ』


 うーん……ちょっと納得がいかない。

 それを言えば電子機器だって地球でしか作れない貴重品のはずなのに。

 でも年間1000人程度の人間が召喚されて来るならそこそこ数はあるのか。


「まあ電子機器はピン切りですからね。最新のタブレットPCとかならもっと高い値がつきますよ。地球の100倍以上の値段で取引されることもざらです」


 そういえば僕が持って来たのは最新のものというわけではない。

 僕自身の持ち物は新しいけど僕のスマホはそもそも売り物には含めてない。

 最新でないなら、技術水準の高いこの世界ではそこまでの価値はないのだろう。

 いやそれでも500万円は大金だ。


 結局はトキナさんが選んだ素材の方こそ異常に高かった。

 この世界は金やダイヤも魔法で作れるはずなのになんで素材がこんなに高い?


「生体部品は魔法で作ることができませんからね。細胞1個くらいなら頑張れば作れるかも知れないですが、多細胞生物の体は電子機器より遥かに構造が複雑ですからね」


 考えてみればそうか。

 生物の体は地球でも無から作り出すのは不可能だ。

 この世界の魔法でもほいほい生物を生み出したりはできないようだ。


「しかしすごいな。中央大密林で暮らしてたっていうからどんな素材が来るかと思ったがここまでとは思わなかったよ。しかも全部貴重品とか。電子機器の方は売れないのも混ざってたっぽいけど素材の方は全部当たりじゃないか? 未開領域内の物だってなんでも高く売れるわけではないはずなんだけどな」


 瑛さんも感心していた。

 まあ素材の方はトキナさんが選んだからね。

 トキナさんの目は確かな上に現在でも有効なようだ。


「電子機器の方は最終的な鑑定まで時間がかかりますが素材の方はすぐ換金できます。どうされますか」


 僕は今無一文なのでもちろん換金してもらう。


「支払いは全て現金でしょうか? 額が大きいので銀行振り込みをお薦めしますが」


 確かに2000万は大金すぎる。

 持ち歩くのも怖すぎなので薦め通り銀行振り込みにしてもらった。


 ちなみに口座はまだ仮なので引き出しは異人会でしかできないそうだ。

 国連仕様のIDカードが完成すれば世界中の銀行で引き落とせるようになる。

 IDカードには僕の魔力も登録するから他人に使われることもないそうだ。


 魔力検査の技術は伝達回路経由でトキナさんの魔力を読みとれるレベルだ。

 セキュリティーはしっかりしていると言えるだろう。


 そういえば魔力検査は伝達回路を切った状態で受けた。

 カードを使う際には毎回伝達回路切らないと駄目なのだろうか。

 それはちょっと面倒くさい。


『その程度の面倒は仕方ないじゃろうの。というか主から妾に話かければ回路はすぐ繋げられるのじゃからその程度面倒がることでもあるまい』


 確かにその通りだ。

 でも面倒といえばIDカードができるまで時間がかかるのも面倒だな。

 電子機器の鑑定も時間がかかるからここにはまた来ることになりそうだ。


「普通は異人会に着いた時には1週間以上入り浸るものなんだけどね。印世君だってこの世界の常識も知らなきゃ言葉も分からないだろう? むしろこの世界で生活できる目途が経つまで異人会を拠点にするのが普通なんだけどな」


 言われてみればそうか。

 言葉は《言語習得魔法》という魔法で読み書き含めて1日で覚えられるという。

 でもこの世界の常識まで同時に覚えられるわけではないようだ。

 ならその辺を覚えるだけでも1週間はそりゃかかる。


 僕はどうするべきだろうか。

 本来の計画なら、僕は1カ月でサラスタンまで行って封印術師の一族を連れ帰ってトキナさんの封印を解いてもらうつもりだったのだけど。


『無闇に急ぐ必要はない。そもそも主の計画は無理がありすぎたのじゃ』


 トキナさんにたしなめられてしまった。

 僕はトキナさんにやる気がないとばかり思っていた。

 でも実際には僕の方こそあせりすぎだったのかも知れない。


『それに、場合によってはひと月かける必要もないかも知れぬしの。最初の計画にゲートの使用は含まれておらぬ。サラスタンへもゲートで行けるのなら移動は一瞬じゃ』


 その通りだ。

 ゲートが使えればサラスタンまでの移動時間はゼロにできる。

 ならその時間を情報収集にあて、封印術師との交渉成功率を上げるべきか。

 なんとなくだが今後の方針が見えてきた気がする。



 そんなことを考えている内に銀行窓口についた。

 異人会の建物は最初見た時から大きかった。

 でも中に色々な施設がありすぎるような気もする。


「この世界に来た地球人はしばらく異人会を拠点にするのが基本だからね。そのために必要な施設がこの辺に集まってるのはある意味当然だろう」


 しばらく生活するのに困らない施設は異人会の中か、近場にはあるようだ。


「異世界人協会って言うのは、元々は県人会みたいな組織だったそうなんだけどね。異世界人の異世界人による異世界人のための相互扶助組織ってところか。それも今や世界規模の巨大組織になってるし、世界に与える影響もばかでかい。力があるから施設も充実してるし、影響も大きいからこの近辺はもはや日本人街みたいな感じになっちゃってるしね」


 この世界にいる地球人の数は数万人。

 これは世界人口に対する比率としては吹けば飛ぶほどに少ない。

 だが影響力はとてつもなく大きいようだ。


 この世界どう見ても地球の影響モロ受けだしね。

 電気、ガス、水道などの生活基盤は地球の技術がベースになっているはずだ。

 この異人会の中にある電灯も地球の物と変わりはない。

 あきらかに蛍光灯だった。


 異人会というのは、そんな影響力を持つ異世界人達の本拠地のようなものだ。

 施設が充実しているのもある意味当然と言えるのかも知れない。


 そんなことを考えつつ銀行から当面必要そうなお金を下ろす。

 素材の売り値が予想以上だったので100万円下ろしちゃいます。


 そもそも電子機器は地球の10倍以上が相場という話だ。

 それはこの世界の物価が10倍以上とも言える可能性がある。

 だったらお金の価値そのものが日本と同じと考えること自体が無意味だ。

 そのためにもちょっと多めに下ろしておいた。


 100万円とか現物は今まで見たことすらない。

 2000万どころか100万持つのも緊張してしまう。


 ちなみに、銀行でお金を下ろすと紙幣が出てきた。

 この世界のお金は金貨とかではないようだ。

 まあガチで金を生みだす錬金術師がいるというのだから金貨に価値もないはずで、そういうのがお金として使われる理由もないのは当然だった。


『紙幣の作成技術も上がったようじゃの。妾の時代でも紙自体は珍しいものではなかったが、この紙幣は紙質も良いようじゃし、何より印刷技術が素晴らしい』


 印刷技術もかなり進化しているようだ。

 日本の印刷技術は世界的にも高そうな気もするしね。


「この世界では今や円が世界標準だ。正確には日本円とは違うんだけどね。1万円とかの数字部分はアラビア数字で日本円と同じだ。でも模様など他の部分は別だろう。ただお金の価値とかは日本を基準に作ってあるから食料品とかの価値は日本と似たような物だと思っていい。まあ消費税が馬鹿みたいに高いからその分物価が高く見えたりはするけどね」


 普通に生活する分にはお金の価値は日本と同じと思っていいようだ。

 再現不可機器と呼ばれるこの世界で作れないものや、後は魔道具のようなものはバカみたいに高いそうだけどそっちの方が例外なようだ。


 自販機のジュースも300円で買えた。

 う~ん、瑛さんは消費税が高いから物価が高く見えると言っていたが……。

 いや実際に物価高いでしょこれ。


「こっちの消費税って今100%超えてるからなぁ」


 消費税高っ!!

 消費税の高さが僕の予想を遥かに超えていた。


 どうやらこの世界の税金は全て消費税で賄っているようだ。

 その方が脱税しにくいし、この世界には住所不定な人間や収入が不安定な人間も多い、所得税などで税金を取ろうとするのでは効率が悪いそうだ。


 だが税金が消費税のみだと貧富の格差がとんでもないことになる。

 そっちは補助金のような物で調整しているようだ。


 BI(ベーシックインカム)と言う無条件でお金をもらえる制度があるらしい。

 IDカードができたら僕にも振り込まれるそうだ。

 ただしBIだけで生活するのは厳しい水準とのこと。


 そこはフードスタンプとか他の制度も組み合わされていると言っていた。

 フードスタンプというのは食料品限定のクーポン券みたいなものだそうだ。


 この世界の税制とか福祉はそんな感じになっているらしい。

 トキナさんは熱心に聞いていたけど僕の頭にはもちろん入ってはいなかった。

 まあそれで世界が周っているというのだから破綻した税制ではないのだろう。


「そもそもBIがなかったらこの世界に飛ばされる人間も大変だからね。働けなくてもすぐ死なないってのは大事なことだ。みんなが印世君みたくこの世界ですぐ大金持ちになれるわけじゃあない。地球から持ってきた電子機器とかで100万円くらいは手にできたとしても半年もせずになくなってしまう。それで福祉も充実してなきゃそれはもう恐怖だ」


 瑛さんの言うことももっともかも知れない。

 この世界には住所不定な人が多いだけでなく不定期に地球人も飛ばされてくる。

 そういう人達の救済措置としても、ベーシックインカムという制度は都合がいいとのことだった。


 まあ所得税はともかく資産税とかもないのはいいかも知れない。

 僕はいきなりお金持ちになってしまったけど、換金した2000万円の貯金にも資産税とかはかからないそうだ。

 ただし消費税でがっぽり持ってかれるので最終的に得かどうかは分からない。


「まあ得かはともかく確定申告とかもいらないから手続きは楽だよ。印世君は学生だったろうからその辺は知らないと思うけど、税金払うのもそうだし、逆に生活保護とかをもらうのだって地球でなら相当面倒な作業だぞ」


 そう言われるとある意味合理的かも知れない。

 これから僕が自分で生計を立てるなら税金も自分で払わないと駄目なはずだ。

 ただしこの世界は消費税だけだから税金の計算を僕が考える必要はないと。


 で、もし就職先とかが見つからずにお金に困っても、BIがあるから生活保護とかを貰うために役所を訪れたりする必要もないということだ。


 そう考えると確かに楽ではあるかも知れない。

 良く分からない税制についてあれこれ考えても仕方ないので頭を切り替える。



「IDカードの登録申請も終わったし換金してお金もとれた。次は言葉だね。とりあえず印世君にはニムルス語を覚えてもらう形でいいよね?」


「あ、どうせ言葉が覚えられるならニムルス語よりもサ――」


『おいっ!!』


 封印術師を探すにはサラスタンで話せることが重要だ。

 だから覚えるならサラスタンの言葉を覚えたい。

 そう言おうとしたらトキナさんに頭の中で怒鳴られた。

 トキナさんに怒鳴られたのは初めてかも知れない。



『主は中央大密林から出てきたばかりで、この世界のことは何も知らぬという前提を忘れてはおらぬよな』



 トキナさんにそう言われた瞬間、僕は体中の血の気が一気に引くのを感じた。


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