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31 情報整理

 アロに続いて、ミーリャさん、瑛さんに僕も言語習得魔法を受けた。


 瑛さんもサラスタンの言葉は覚えていなかったようだ。

 その瑛さんは、僕がサラスタン語を話せると思っている節もあったけど、僕が話せないと言うとあっさりと了解してくれた。


 この辺り瑛さんがどう理解しているのか気にはなるけど深くつっこみたくはない。

 瑛さんも流してくれたのであいまいなままにしておきます。


 で、言語習得魔法の副作用については、アロ以外はたいしたことなかった。

 アロは気持ち悪くなってしまったので、冒険者ギルドの近くのホテルを取って休む。

 かなり大きなリゾートホテルだ。


 多分高いと思うけどお金は瑛さんが出してくれたので正確には分からない。

 4人部屋を借りられたので全員一緒だ。

 アロは部屋のベッドでぐったりとしている。


「さて……では明日にはサラスタンへと入るけど、その前に少し情報を整理しようか」


 瑛さんが切り出してきた。

 ミーリャさんは、はっきり言って神器機関からの刺客だろう。

 僕のことを探るために送られたスパイのようなものだ。

 当然、それに気付かない瑛さんではなかった。


「例の……ウホゴリラの森消失事件の後、私には様々なところから連絡が来た。多くは、印世君が最後に放ったあの重力魔法について尋ねてくるものだ」


 そう……これについては、瑛さんが色々と処理をしてくれた。

 最終的にはどこかから圧力がかかってうやむやにはなっているけど、まだ僕を調べる組織は存在するだろう。


「まずは……それらの組織がどういう情報を欲しがっていたかをまとめたいと思う。まずは国連国際防災戦略、こちらは実際に起きた被害を調べるのが仕事だ。すでに職員を派遣していて、今頃はウホゴリラの森跡地を調査しているだろう。こちらは特に問題ない。傭兵ギルドを通して私が上げた情報で充分満足してくれているようだ」


 あの事件を調べる組織は多くても、その目的はそれぞれ違っているようだ。


「次に傭兵ギルドだが、こちらも特に問題はない。傭兵ギルドは魔物の退治が専門だ。だから、向こうの興味はこの事態を引き起こしたのが神獣かどうかにかかっていた。これについては神獣は関わっていないということで決着がついている。私の報告の他に、神器機関の感知魔道具でも現場に神獣がいなかったことは証明されている」


「次に神器機関だが――」


 この段階で、ミーリャさんが話を引き継いだ。


「私のところは、あの事件を引き起こしたのが魔道具によるかどうかが主な関心。ついでに言うと、もっと偉いところから圧力もかかっている。だから森消失事件に魔道具が使用されていないことが分かれば神器機関も引くと思う。私としては目の前で印世君がもう一度その魔法を使ってくれると嬉しい。あれが印世君自身の力と分かれば、とりあえず私の仕事は終了」


 神器機関としては、事件に使用されたものが兵器でなければ問題ないようだ。

 ただし、僕が実演するというのは考えものだ。

 それで本当に神器機関の関心がなくなったとしても絶対に他の所からの関心を引く。


「他には、異人会本部からも一度電話がかかって来てたな。まあでも異人会はこの件には興味がないようだ。電話では伶唖が関わってないか聞かれただけだからね」


「ああ、伶唖さん。私も最初聞いた時にはまた彼女が何かやったのかと思ったけどやっぱり違う、と」


 異人会の方は特に警戒する必要はなさそうか。

 その伶唖さんって人がどんな人なのかは気になるけれど。


「後は……国連本部だね。実は圧力をかけたのはどうやらこの本部の方らしい。で、国連本部……というかカルイラさんから電話があったのだけど、どうやら本部は1人の少女を探しているようだ。黒髪の、中学生くらいの女の子だ。もちろんそんな子は知らないからその通りに伝えたけど、本部には何か心当たりがあるようだ。もしかすると、あの重力魔法と似たような魔法を放てる人間がどこかに存在するのかも知れない」


 …………。


 国連本部が一番やばそうだ。


『というか……カルイラじゃと? 間違いなくカルイラ・イブリンガー、黒猫のことで間違いないじゃろう。瑛はどこまで顔が広いのじゃ。しかも……あきらかに奴が探しておるのは妾じゃ。奴は妾が封印される現場にも恐らくおったのじゃろう。封印が解け、妾が外に出た可能性を探っておるようじゃの』


 国連本部やばい、というかカルイラさんがやばい。

 トキナさんが封印される現場にいたであろう人間がほぼ確信を持ってトキナさんを捜索しているのだ。

 だとすれば、やはり本部を最も警戒しないといけないだろう。

 やはり……神器機関の関心をそぐために僕がグラビティ・キャノンをもう一度撃つのは得策ではないようだ。


「私としては、あれをどうやって起こしたのかちゃんと教えてくれればどうでもいい。魔道具があるなら見せてくれればいいし。もし貸してもらえるならそれを神器機関にもっていけば私の仕事は終わる。そうしたら後はG―Dayまで休暇がもらえる」


 なんというか……ミーリャさん全身からやる気のないオーラが全開です。

 ミーリャさん自身としては、ウホゴリラ事件には興味もないのだろう。


「いちおう、私の知っている情報はこんなところだ」


 瑛さんの話もひとまず終わった。


「印世君、何度も言うけど私は君の味方だ。それは今も変わってはいない。ウホゴリラの件だって、君が農場を守るために戦ってくれたことを私は知っている。そもそもが、あの力を隠したいのなら君は戦わなければ良かったんだ。だけど、リスクを承知で君は戦ってくれて、その結果として今の状況がある」


「だから、私は君を守ることを第一に行動したいと思っている。……この情報を踏まえた上で、どうするかは君が考えて決めてくれ。私はそれを待つ。君が世界に害をなすような悪い人間でもない限りは、私は君の味方であり続けると約束しよう」


 瑛さんは……やっぱり本当に優しかった。

 瑛さんがどういう立場の人なのかはまだあまり掴めてないけれど、本当なら、僕をどこかに引き渡すなり、瑛さんの知る限りの事実を話してしまう方が正しいはずだ。

 それでも尚、瑛さんは僕を守ることを優先してくれるという。


「瑛は基本お人よしだから」


 お人よし……か。

 確かに、瑛さんにはそういう所もあるのだろう。

 でもここまでしてくれる瑛さんを、ただのお人よしで片付けることは僕にはできない。


「でも、私はそんなお人よしな瑛は好き。それに瑛は命の恩人でもある。だから瑛が印世君に味方するなら、私もどっちかというと印世君に味方してあげてもいい。印世君のことも私は好きだし。……特にお尻とか」


 ミーリャさんも、僕に味方してくれるようだ。

 最後はともかくミーリャさんもやっぱりいい人そうだ。


 僕は……本当に運がいいと思う。

 出会う人がみんないい人だ。

 この世界の人がいい人ばかりということはないだろう。

 その中で、これだけ優しい人に囲まれている僕は本当に幸運だと思う。


『それは本当にそうじゃの。ミーリャなど、立場的には敵になって当然ですらあるのじゃからな。この幸運に甘えるようではいけぬが、幸運には感謝し、返せる物があればその都度こちらからも何かしていっていきたいものじゃの』


 本当に僕もトキナさんと同じ気持ちです。


「まあそんなわけで、あの事件についてそのものは印世君のペースで考えてくれればと思うのだけど、サラスタンでの予定は決めておきたいかな。私としてはG―Dayまでのヒマ潰しの面もあるから、観光に行くと言うだけでも構わないとは言えるけど」


 今はこちらの方が緊急事態か。

 まだサラスタンへ行ってどうするかの予定は立てていない。

 正直言うと、ウホゴリラ事件の喧騒から逃れるために逃げてきたという面もある。

 だから、瑛さん達には普通に観光でもしてもらってその間に封印術師を探すという手もあるかも知れないけれど……。


「そう言えば、サラスタンには特殊属性を持つ一族がいると聞いたことがある。確かフムート家。封印術という特殊な系統の魔法を使う一族で、要人警護などで国連との関係も深い」


 サラスタンの封印術師は世界的にも有名なようだ。

 それをミーリャさんまで知っているというのは少し問題か。

 と思ったところで一番問題を起こしたがる子が目覚めてしまった。


「封印! ミリャー今封印って言ったにゃ?」


 封印という単語にアロがなぜか食いついて目覚めてしまった。

 言語習得魔法の副作用でダウンしていたが、何かがアロを元気にさせてしまったようだ。

 多分、封印と言う単語そのものがアロの中二病に火をつけたのだろう。


「おう、アロもだいぶ元気になったな。で、封印がどうかしたのか?」


 瑛さん、そこは突っ込まなくてもいいですよ。


「ふふふ……。アロにはもう分かっちゃったもんね! 印世がこの国に来た理由がにゃ!」


 またややこしくなりそうな予感がする。


「アロの知能には何も期待してないけど面白そうなので話は聞いてみたいと思う」


 ミーリャさんまで乗り気だ。


「ふふふ……。封印。そう、封印なのにゃ! 印世はそのフムフム家に会いにこの国に来たのにゃ!」


 アロにはこれがあるから困る。

 決定的なところでズレはあるけれど、アロは確実に真実に近づいてきている気がする。

 そもそもアロは一番近くでグラビティ・キャノンも見ているし。


 あの時に包帯の中の《獄炎紋》を見られてしまった可能性すらある。

 いや、それ以前にあの時はほぼ獄炎紋と同じ形の炎が僕の右腕から溢れ出ていた。

 それを話されるだけでも分かる人には分かりそうで怖い。


「印世君は封印術師を探しにこの国に来たと……。目的は? 森消失事件と関係も?」


 くっ、ミーリャさんもノリ気だ。


「もちろんにゃ! みんな色々言ってるけど、あの事件は印世の中のトキナさんが起こしたものにゃ! あの時右手の封印が解けかかっているのをアロは見たのにゃ。多分このまま放っておくと中のトキナさんが完全に目覚めてしまうにゃ。だから印世はトキナさんを再び封印するためにこの国へとやって来たのにゃ!」


 くっ!

 これは、ニアミスでいい……のか?

 セーフかアウトかで言えばもうアウトの方に入っているような気もする。


「トキナ……? あの大魔王のテタ・トキナ・マグニータのこと?」


 ミーリャさんにはすごいあっさり確定された。


「にゃ? トキナさんは日本人にゃよ。ミリャーは何言ってるのにゃ?」


 アロは完全にトキナさんを日本人だと思っているようだ。

 が、瑛さんの反応は違った。


「テタ・トキナ・マグニータ……。魔王大戦を起こした歴史上唯一の大魔王か。メイン属性は闇。そして魔王マグニータの代名詞とも言える魔法、グラビティ・キャノン。巨大な重力魔法で広範囲を殲滅したという。確かに……ウホゴリラの森を消滅させた魔法の特徴と同じだ。さらに言うと……魔王マグニータは黒髪の少女の姿をしていたという。これは国連本部が探している少女の特徴とも一致する」


 うん、もうどうしようもないよね。

 瑛さんは勘がにぶいわけじゃない。

 その瑛さんにここまで情報を与えてしまえば真実に辿り着くのも当然だった。


「なるほどそうだったのか。これで全てに納得が行く。私は最初トキナさんの名前を聞いた時、印世君がトキナさんの漢字を知らないと言ったのに少し違和感があった。でもトキナさんが日本人でないなら納得だ。つまり右手のトキナさんには最初から漢字などは存在しなかったわけだ」


 正解です。

 僕はちょっと涙目になりそうです。

 ここはもうあきらめて回答編に入ってしまってもいいでしょうかトキナさん。


『いや……確かにほぼ正解へと辿り着いてしまってはおるが、回答はもう少しだけ先伸ばしにしてくれ。騙し騙しでも封印を解くまで持たせられればそれに越したことはない』


 苦しいけど、全てを自白するのはもう少し我慢してからだ。

 状況はボロボロだけど、封印術師までの道は近い。

 ぐだぐだでもトキナさんの封印を解くまで持たせられるなら、回答はその後にやった方がいいに決まっている。


『妾の封印が解けた暁には、瑛には妾から直接全てを話をしたいとすら思っておる。妾自身、瑛には感謝しておるしの』


 トキナさんも、時さえくれば瑛さんには全てを話すつもりのようだ。

 これは僕としても嬉しい。

 瑛さんには本当に世話になっている。

 だから、ずっと隠し事を続けることは僕だってしたくはないのだ。


 だが今はその時ではない。

 なんとかこの場は切り抜けたいのだけれど。


「にゃるほど……。トキナさんは実は日本人じゃなかったのか。アロはすっかり印世に騙されてしまってたのにゃ」


 いや、騙した覚えはないですけどね。


「印世はすごいにゃ。トキナさんの漢字考えてないからってアロは印世を馬鹿にしたけどアロが馬鹿だったのにゃ。まさかこんな裏設定があろうとは……。しかもその設定をひけらかせずに、ヒントだけを与えてアロ達が真実に辿り着くのを待っていたとは。印世、恐ろしい子にゃ。印世の中二病は本当にすごい中二病だったのにゃー!」


 この期に及んでアロはまだ僕を中二病だと思っているのか。

 現実に発現している時点でもう中二病の域は超えているのだが。


「…………」


 ミーリャさんはそんなアロの様子を冷静に観察していた。


「つまりウホゴリラの森消失事件は、印世君の右手に封印された魔王マグニータが魔法でおこなったと?」


「そうにゃ! 印世の右手はただのエロい右手じゃなかったのにゃ! なんと、印世の右手は大魔王を封じた右手さんだったのにゃー!」


「な、なんだってぇー!」


 アロの大発見に瑛さんが反応した。

 瑛さん、意外とノリがいいです。


「思う所はあるけど、事件の概要は少し見えた気がする」


 ミーリャさんも納得してしまった。


「私としては、これは印世君にとっても悪い事実じゃないと思う。そのトキナさんに頼んで実演してくれれば、私はそれを写メにとって神器機関に持って行く。魔道具によるものでないと証明できるからそれで神器機関の関心は薄れる」


 神器機関に対してだけならそれでいいけど、それをやると一番危険な国連本部にさらに目をつけられそうだ。

 得策とは言えないだろう。

 アロ辺りがこれに乗っかるとやっかいだけど。


「ミリャーは何を言ってるにゃ!」


 アロはミーリャさんと一緒に見せろというかと思ったけど違っていた。


「ただでさえトキナさんの封印が解けかかっているのにさらに力を使わせるとあり得ないのにゃ。 そんなことして右手の中からトキナさんが出てきたらミリャーはどうするつもりにゃー!」


 もちろんそんなことはないですけどね。


「私も一応Sランク。グラビティ・キャノンくらいなら一発は耐えられる自信がある」


 おお、ミーリャさんもすごいことを言う。

 あのグラビティ・キャノンを耐えるとか。

 ここまで言うからには本当に耐えるに違いない。

 やはりSランクは伊達ではないと言うことか。


「それじゃ全然駄目にゃ! ミリャーはホント分かってないにゃ。あの時だってトキナさんの封印は完全には解けてないんだぞ。それでもあの威力だったのにゃ! 本当に封印が解けてトキナさん本体が出てきたらあんなレベルでは済まないにゃ! ミリャーはEXランクとさしで戦えると本気で思っているのにゃ?」


「それは……無理かも」



 アロの理論はとんでもだけど、真実に近づいて来ていることもあって説得力はあるようだった。

 ミーリャさんはアロに言いくるめられてしまった。


 僕としてもグラビティ・キャノンを実演するわけにはいかないので助かります。



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