襲撃!!
「なっ、なんですかあれ?」
運転席の三国が、顔を引き攣らせながら間の抜けた声を上げた。
フルフェイスのヘルメットにブランド物とおぼしきスーツ、手には日本刀。
異様な格好だった。全身を覆うあつらえたかのようなスーツの下に、均整のとれた鍛え上げられた肉体が隠されていた。隆起した大胸筋が、ただならぬ気配を放つ。
ヘルメットのバイザーはスモークがかかっていて、中の表情を伺い知る事は出来ない。左手に日本刀を握り、悠然とクラウンへ向け歩を進める。
慌てて三国がシフトレバーをリバースに入れようとした。
しかし、動揺で手が滑り、うまくレバーを握れず、間違ってドライブに入ったせいで車体が若干前進する。
その間も、フルフェイスにスーツ姿のライダーは距離を詰めていく。
身長は180センチ以上。その逞しい体躯から、男であることだけは分かった。木下がドアを開け、ふらりと車外へ足を出した。
「き、木下君!」
「三国さん、僕が出たら落ち着いて車をバックさせてください」
柔らかく微笑むと、外に出てドアを閉めた。深呼吸すると、言われた通り落ち着いてシフトノブをリバースへ入れる三国。後退する車と入れ替わり、木下が歩み出す。 謎のライダーと木下の距離、約5メートル。
フルフェイスのスモークバイザーに、周囲の景色と一緒に紺色のブレザー姿の木下が映りこむ。
日本刀の鞘についたアタッチメントを、自らのベルトに引っ掛けると、時代劇さながらに佩刀した。
「何かご用ですか?」
謎の人物に問いかける木下。相変わらずこの青年は、のほほんとしているようで何を考えているのか分からない表情を浮かべている。
──応答は無い。そして、音もなく無造作に刀の柄を握った。軽い金属音と共に、刀身を鞘から抜き放つ。濡れた輝きを放つ太刀。鬼気迫る気配が、周囲の空気を変えた。
明らかに模造刀では無い。
和泉守兼定。室町時代から幕末にかけ、子々孫々と受け継がれた刀匠の家系。その二代目の作を、之定、と呼ぶ。歴代の中でも最高の切れ味を誇り、業物として古今の名将から愛された。
何故かそんな名刀を、謎のライダーが所有し、木下の目前にその姿を晒している。
「!?」
横一線。一瞬で、謎のライダーが踏み込みながら刀を振り抜いた。
だが、殺気を察知した木下。音もなく後方に身を仰け反り、浮き上がるように飛び退いていた……が。
「!」
ブレザーの胸元がはらりと裂けていた。
それには全く動じず、流麗に着地。
「あ~あ、買ったばっかなのに……」
ブレザーに入れられた切れ目をつまむと、ガッカリしたように呟く。
「わっ!?」
そんな木下に構うことなく、間髪入れず鋭い突きが襲った。白刃が日の光りを反射して、木下の頬をギラギラと照らし出す。紙一重で躱すも、さすがに姿勢を崩した。
「っ……」
木下の顔色が変わる。先程までの穏やかな表情から一変、餓狼のごとき邪気に満ちた白面。
だが、このままではただ殺されるのを待つのも同じ。木下の身に覚えは無いが、謎のライダーは完全に殺意を持っているようだ。
『しかし、まいったな……。素手じゃどうにもならない』
流石の木下も、向こう見ずな行動を悔いた。
「木下君!」
三国が声を上げたのと、三度目の攻撃を加えられたのは、ほぼ同時だった。上段から斜めに切り下ろされるも、咄嗟に横へ転がる。木下が受け身をとった先に、三国がクラウンの陰から投げてよこした黒い物体が、緩やかな放物線を描いて舞い降りた。立ち上がりながらそれをキャッチする木下。
「黒光丸・JAPANです!使ってください!」
日本刀その物の形状をしたそれは、撲殺太郎や黒光丸同様、ドライカーボンで形成されていた。
「ひぃっ!」
硬質な金属が撃ち合う音。その強烈な響きに、思わず悲鳴を上げる三国。
謎のライダーが打ち込んだ一撃。三国の目からは木下の頭部が割られたように見えた。
──しかし。木下の額に真一文字に押し付けられた黒光丸・JAPAN。それが謎のライダーが打ち込んだ和泉守兼定、之定を、寸での所で防いでいる。両手持ちした黒光丸・JAPANに渾身の力をこめ、一気に相手の刀を弾き返した。
黒光丸・JAPANから目映い発光が起きる。それと同時に、素早く飛び退く木下。再び距離を置き、対峙する両者。
互いの刀身から発する殺気が、冷たく禍々しい緊張の波紋を拡げていた。




