燃えよチャック!!
空間を歪める圧倒的速度で、マウンテンゴリラに襲いかかる増山の廻し蹴り。
軸足が踏みつけているアスファルトがミシミシと音を立て、跳ね上がった右足がマウンテンゴリラの腹に叩き込まれた。
「ゴアッ!」
内臓を襲う強烈な痛みと、度重なる増山の攻撃に怒り心頭の表情で大口を開けて咆哮した。だが、痛みに耐えきれず巨体をよろめかす。
その隙を逃さず、背後から飛びかかった社長の黒光丸が刀身を煌めかせ、左右から構えた両刀を、正確無比にマウンテンゴリラのうなじへ走らせる。
勝利を確信する社長。
「!」
瞬きの間だった。痛みに身を捩っていたマウンテンゴリラが、背後を見ないまま両腕をL字型に掲げ、黒光丸を握る社長の両手首を捕まえたのだ。野生の勘に他ならない。
社長の視界が一瞬で上下逆さまになり、ジェットコースターばりの強烈なGと共に、マウンテンゴリラの眼前、蹴りを放った増山の体へ向け叩き落とされた。
「にぃっ!?」
廻し蹴りを決め、軸足だけで立っている不安定な姿勢の増山には、その瞬間、二つの選択肢があった。
こちらへ向かって叩きつけられる社長を受け止めるか。または飛び退くか。
増山が選んだのは──。
「うわっ!」
「ぐっ」
社長の体が増山の頭上に打ち落とされた。マウンテンゴリラのあまりに速い腕の振りと、社長の巨躯。受け止めようとした増山だったが、それは叶わず、全身に社長の体を叩きつけられ、二人共その場に押し潰された。
社長と増山、両者の体を車が衝突したのではと錯覚する程の強烈な衝撃が襲う。重なり合いながら、その場で仰向けに倒れた。
増山の体をクッション代わりにして、アスファルトへの直撃は免れたものの、元々の疲労も重なり意識が不明瞭になっている社長。さすがの増山も全身を強打し、一瞬意識が飛ぶ。
脾臓付近に激痛が走り、苦痛で顔を歪める。そこへ、マウンテンゴリラが身を屈めたと思うと、水中を進むタコのように四肢を束ね、地面を蹴り一気に上空へ跳躍する。空中で両足を踏ん張る姿勢をとり、眼下で折り重なる増山と社長を踏み潰そうという算段らしい。
全身から虹色の光彩を放ち、まるで彗星が落下するかのごとく光の尾を引きながら、眼下に倒れる二人の大男目掛けへ吸い込まれていく。
その光の軌跡を迎え撃つ、巨大な白い影。
「フォーッ……」
深く息を吸い込み腰を沈め、両腕を曲げて脇腹に押し付ける。
チャックには分かっていた。これから放つ技が、自らの体力を限界まで追い込むであろう事を。
「──チャック・バクレツ拳!!」
巨大なチャックの双肩が、異常な程の隆起を見せた。はち切れそうな程脹らむ大胸筋。いく筋もの線が入る大腿筋。
両の脚が、強烈な力で大地を踏みしめる。
「ハァッチャッチャッチャッチャッチャッ!!!」
聞いたことも無い奇声を発し、闇夜を切り裂き下降するマウンテンゴリラへ向けて、対空砲火と見紛うチャックの両拳が打ち上げられた。
──チャックが愛読する日本の漫画。
地元で足しげく通う贔屓のラーメン屋で出会った漫画。
幾度も読んだその作品の主人公に感銘を受け、それを参考にしたというよりほとんど丸パクりし、自らの技として安易に完成させた。
つまるところ、ただの正拳突きの連打である。しかし、全身筋肉の塊から繰り出される正拳突きは、とてつもない威力を持っていた。一発でも直撃を食らえば、普通の人間ならば致命傷。
それが五月雨のごとく放たれるのだ。
まさに筋肉と言う名の嵐。
筋肉と言う名の暴力。
筋肉と言う名の最終戦争。
虹色の光に包まれた空中のマウンテンゴリラへ向け、撲殺太郎の発する輝きが流星群のごとく溶け込んでいく。
「ゴブァッ!」
マウンテンゴリラの全身へ、次々に刻印される巨大な正拳。絶叫する間すら与えられず、空中で乱舞する。
「ッチャッチャッチャッーッ!ワァッチャー!!」
ぶっ飛ぶマウンテンゴリラ。全身の関節が異様な角度で、あちらこちらへ折れ曲がっている。10メートルは吹き飛ばされて、アスファルトにゴミ袋のごとく転がった。
「……ホーゥワァッ!」
頬を震わせ、金髪を振り乱しながら目を見開き、両手を水平に掲げて見得を切るチャック。
「ダカラ言ったダロウ!!」
もはや巨大なクソの塊にしか見えないマウンテンゴリラへ向けて、腹の底から意味不明な怒号を上げた。




