力を合わせろ!!
「うおっ!?」
巨大な拳が増山の胸元を掠めた。瞬く間に傷が癒えたマウンテンゴリラは、元の俊敏な動きを取り戻している。
「っらぁ!」
攻撃を紙一重で見切った増山が、体が伸びきり隙の出来たマウンテンゴリラの懐へ臆すること無く飛び込むと、渾身の力を込めた左右の拳を叩きこむ。
凄まじい打ち込みの速さで、ガードする間を与えない。撲殺太郎が暗闇に美しい二本の線を引いた。
マウンテンゴリラの脇腹に直撃し、あばら骨とおぼしき部位が陥没する。
「ガァッ!」
しかし、痛みに怯むこと無く両腕を広げると、増山を掴みにかかる。
大蛇のような太く長い腕が、増山の退路を塞いだ。
「ちぃっ!」
瞬間、素早く身を屈める。頭一つ分真上を、マウンテンゴリラの両腕が風圧を巻き起こしながら通り過ぎていく。
その一瞬の間隙を突いて、一気にバク中して後方に飛び退き、敵の攻撃圏外まで距離を取る。
『ヤベェ……攻撃してもすぐに回復しやがる。このままじゃ、いずれこっちの息が上がる』
増山が自ら編み出した技「龍虎」は、全身の筋肉に一瞬強力な負荷を加える必要があった。限界まで収縮した全身の筋肉を、インパクトの瞬間、強力な振動として解放し、左右の掌底から打ち出す。
その力にタイムラグをつけて心臓に打ち込むことにより、心停止を引き起こすのだ。言わば健全な肉体へ、医療用の電気ショックを最大出力で施し、尚且つ強力な直接打撃をも与えるという絶大な威力を持っている。
しかし、問題があった。
全身の筋肉を極限まで酷使するため、連続使用はおろか、一度使えばしばらくの間、体の運動機能が低下するリスクがあったのだ。
増山にとってみればフィニッシュブローとして放っただけに、先のことなど考えていない。心臓すらも回復するなど、さすがの増山も考えが及ばなかった。
そして、龍虎を放ってから感じ始めた体の異変。明らかに脾臓近辺から痛みが発せられている。
芹沢との死合により負った傷。長期入院により落ちた筋力。
目の前の怪物と戦うには分が悪すぎた。
「さーて、どうしたもんか」
半身の構えは崩さず、置かれた状況に不釣り合いな、能天気な言葉を呟く。
「むっ?」
突然マウンテンゴリラの背後に、巨大な影が聳え立つ。
一瞬増山は我が目を疑う。徐々に近づくその物体の全貌が、マウンテンゴリラの発する虹色の光彩に照らし出されて明らかになった。
金平とチャックが組体操さながらに、社長をそれぞれの肩に乗せ、マウンテンゴリラに気付かれ無いように背後からジワジワと接近していたのだ。
社長の手には黒光丸・Sサイズが握られ、眉間に皺を寄せながら、神妙な面持ちで口元に人差し指を立て、増山に向かって「黙っていろ」と、無言の指示を送っている。
社長を抱え上げる金平とチャックの顔には、疲労の極みといった色が浮かぶ。
互いに全身を震わせ社長の巨体を支えている。
余りに滑稽な姿に、増山は思わず吹き出しそうになったが必死にこらえた。
どうやら背後から飛びかかり、社長の手にする黒光丸で、マウンテンゴリラの首を跳ね飛ばす作戦のようだ。確かに2メートル50センチはある巨体の首を落とすには、まともに切りつけて容易に成せる事では無い。
作戦が分かればそれに協力するまでと、増山も動き出す。
「オラーッ!」
怒声を発し、マウンテンゴリラの意識を自らに釘付けにした。
次の瞬間、社長が金平とチャックを踏み台にして、猛然と跳躍し空中へ。同時に増山も、マウンテンゴリラの腹部めがけ回し蹴りを放つ。
「うおおぉっ!」
「らぁっ!」
社長と増山の気合いが重なり合い、周囲の空気を震わした。




