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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第③マッスル◆戦え!!筋肉の戦士達!!◆
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再生!!

「ゴァーッ!」

 マウンテンゴリラ型SEが、夜空に向かって悲壮に満ちた表情を浮かべながら吠えた。耳をつんざく高周波に似た音に、震える周囲の空気。

 次の瞬間。

「なにっ!?」

 着地して尚、気を緩めることなく追撃に転じようとしていた木下へ向かって、マウンテンゴリラが飛びかかった。左腕は切断され、そこから水に似た液体が迸っている。それを忘れたかのごとき俊敏な動き。

 右足を一瞬で振り上げると、しゃがんでいる木下の頭上目掛け打ち下ろす。鈍い音と共に、マウンテンゴリラの振り上げた足が空中で止まる。背後からチャックが、渾身の力を込めた正拳突きを放ったのだ。

「セナカガお留守デスヨー!」

 ゆらめく輝きを放つチャックの右拳の撲殺太郎が、マウンテンゴリラの背中にめり込んでいる。

「ゴロロロッ」

 ゆらりと体を翻すと、不気味な呻き声を喉元から響かせ、虹色の光を湛えた鋭い眼光がチャックを見据える。チャックの放った強烈な殴打は、確かに直撃したはず。

 ──しかし。

「!?」

 爆風と錯覚する音と共に、空気を裂いたマウンテンゴリラの右腕がチャックに襲いかかった。咄嗟に両手を重ね、恐ろしく巨大な黒い拳を受ける。

「アウチッ!」

 まるで自動車に衝突したのと同等の激しい衝撃がチャックを襲う。

 200キロのベンチプレスをこなすチャックの剛腕を以てしても、まともに受け止めることが出来ない。

 両腕が弾かれ、無様に五体を振り乱しながら後方へ吹き飛ぶ。駐車場の舗装に、背中から激しく叩きつけられた。

「グゥッ……」

 痛みに悶絶し、仰向けに倒れるチャックの巨体。

 突然、その場で回転するマウンテンゴリラ。

 黒光丸を目線の高さで横にし、突きを放とうとしていた木下の気配を野生の勘で察知し、空手家さながらの回し蹴りを放ったのだ。

「チィッ!」

 木下は慌てて後方に飛び退く。



 ──一方、チャックと木下がマウンテンゴリラを引き付けている間に、ハマーに辿り着いた金平と社長の二人。

「……あれは?」

 社長が後方で行われている戦いの、異様な気配に気づき振り向く。

思わず目を見開き、マウンテンゴリラの背中と腕に刮目した。

 ついさっき、チャックが渾身の力を込めて殴打したマウンテンゴリラの背中。拳大に陥没した部位が、ブクブクと泡立っている。木下に落とされた左腕の付け根も同様。見る間に背中の陥没が元の形に戻っていく。前屈みの状態で歯を剥き木下を威嚇すると、転がっていた自らの左腕を拾い上げ、何を思ったか落とされた傷口の断面に押し付けた。

 シャボン玉のような虹色の泡が無数に接合部を覆うと、瞬く間に腕が繋がり、指先まで正常に動き出す。

「おいおい」

 5メートル程距離を置いた木下が、唖然とした表情でその光景を凝視した。余りにも現実離れした事象の連続に、さすがの木下も軽い目眩を起こす。同じようにハマーの側から一部始終を確認していた社長も、驚愕の表情を浮かべていた。

「自己修復能力?……あんなのどうやって」

 前回の戦闘よりも、自分達が更に危機的状況に置かれている事を再認識する。

「社長!何してんすか!早く手ぇ貸してください!」

 金平が虚ろな表情の社長を一喝した。我に還った社長が振り向くと、金平が必死にハマーの車体後部を抑えつけている。

 ひしゃげたガードレールを土台に、ハマーがシーソーそのままに崖下へ向かって傾きつつあった。

 ──10秒後か、1分後か。ソフィを乗せたハマーが、眼下へ落ちて行くのは時間の問題に見えた。

 慌てて車体の後部反対側にしがみつく社長。全体重をかけてバンパーを抑えつける。

「うぉぉっ!」

 社長が顔面を真っ赤にしながら喘ぐ。

「ぬあぁぁぁっ!」

 並ぶ金平も、額に血管を浮き上がらせた。

 全身の筋力を総動員して、傾くハマーを押し留める二人。しかし、屈強な二人の男の力を以てしても、不安定な車体を引き戻すことが出来ない。

「クッソー!」

 顔面から首まで、真っ赤に紅潮させた金平が絶叫した。

「ぐぬあっ!」

 なまはげに似た形相で、社長が首筋の血管を浮き上がらせながら呻く。

 二人の頑張りも虚しく、車体が一気に崖下へと角度をつけていく。互いの胸中に、言い様の無い絶望感が垂れ込める。次の瞬間、巨大な影が金平と社長の間に割って入った。

「チャ、チャック!」

 首を右に向け、白い巨体を確認した金平が驚嘆の声を上げた。

「ウオオオッ!」

 打ちつけて擦りむいた背中の痛みを押し殺しながら、足を大きく開脚して腰を沈めるチャック。そこから両腕を突き出し、バンパーの中央へ全体重を押し付ける。崖下に落ちかけていたハマーが、一気に水平近くに状態を戻した。

「SEは!?」

「キノシタさんが、オレガクイ止めるカライケと」

 肩を並べた金平とチャックが、力は抜かずに互いの顔を見合わす。

「たった一人であの化け物と!?無茶よ!」

 困惑する社長のなまはげフェイス。首を回した視線の先には、マウンテンゴリラに対峙する木下の姿があった。

 黒光丸を平星眼に構え、微動だにしない。眼前にいる規格外の怪物の、悪鬼のごとき眼光に、一人晒される。

「参ったな……。こりゃ、死ぬかもな」

 顔色一つ変えず呟いた。

「いや──」

 ふと、赤い口元を自嘲気味に歪め、両眼に仄暗い悲しみを浮かべる。

 自らを侵している病が、脳裏をよぎったからだ。

「どうせ死ぬのさ……死ぬにはいい夜だ」

 木下の瞳に映る儚げな月明かりが、どこか虚ろに、ゆらゆらと輝いた。

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