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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第③マッスル◆戦え!!筋肉の戦士達!!◆
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スケコマシ兄さんと流血兄さんと!!

「お待たせしました~」

 二人いる店員のうちの色白のほうが、握りこぶしの指の間に焼き鳥の串を何本も差しながら、金平達のテーブルの皿の上に置いた。

 一番最初に出てきた焼き鳥以外、それ以降に注文した焼き鳥には皿を使わない。この店のシステムだ。

「うめ~!!」

 焼き鳥を口にした金平が歓喜の声を上げた。サワーから梅酒のロックに切り替え、頬に差す赤みが次第に増していく。

「かしわ」に「ずり」

 三人は、それがどこの部位だか分からない。とにかく、片っ端から注文した物どれもが、それぞれの舌を喜ばせた。

「ねっ、美味しいでしょ?」

 まるで少女を思わせる程に可憐な笑顔で、音もなく杏子酒のロックを(あお)る木下。桜色に上気した顔が、金平の目からはいつもより健康的に見えた。

「焼き鳥オイシ~デ~ス♪夢のドリ~ムデ~ス」

 チャックもご満悦の様子。五杯目の生ビールを一気に流し込む。

 ふと、木下が店の入り口脇にある、トイレへ繋がる通路付近に視線を向けた。先ほど焼き鳥を運んできた女店員が、通路の陰に身を潜めるようにして、何やら熱心にスマホをいじっている。

 年の頃は二十歳ぐらいだろうか?

まだあどけなさが残る張りのある口許(くちもと)を「への字」にしながら、懸命に画面をタッチしていた。

「彼氏にメールしてるの?」

 木下が唐突に声をかける。

「えっ!?いえ、違います、就活の事でちょっと……」

 しどろもどろになる女店員。

「そっか……学生?」

「は、はい」

 微笑みながら頬杖をつくと、女店員の瞳をジッと見つめた。その瞳に吸い込まれるように、女店員の指先が止まる。

「紙と、何か書くのある?」

「えっ?」

「なんでもいいんだ、何か書く物」

 少し固まると、鼻と眉間の辺りを赤く染めながらこちらに歩み寄り、注文を書き込むためのメモ帳とボールペンを、たどたどしく木下に差し出す。

「──ありがとう」

 木下が清潔感のある微笑みを浮かべた。

 「ありがとう」の言葉がおざなりの語感ではなく、(しん)に心が籠っていて、女店員の身体に響き渡っていく。

 木下は素早くボールペンを走らせると、何かを(したた)めた。

 事の成り行きをアポ~ンとした表情で傍観していた金平とチャックが、覗きこもうと身を乗り出そうとするが、流麗かつ自然な動作でメモ帳を女店員へ返す。

 それを受け取った女店員は、一瞬だけ書面を確認すると、すぐにメモ帳をエプロンのポケットにしまった。

 一瞬木下を見つめてはにかむと、愛らしい笑顔を浮かべたままカウンターへと去って行く。

 埴輪(はにわ)と見紛う表情の金平とチャック。

「あの……先生は今、何をされたんですか?」

 金平がおずおずと木下へ訊ねる。

「内緒」

 さらりと言い放ち、小さなグラスの中に揺らぐ杏子酒を勢いよく全部空けた。相変わらずニコニコと屈託なく笑う。

「──そろそろ二次会行きますか?」

「二次会?」

「ええっ、女の子と楽しくお話しながらお酒が飲めるお店」

 そう言って木下が、悪巧みでも考える表情をしながら口角を吊り上げた。

「せ、先生についてきます」

 酔い酔い気分の金平が、ブンブンと音を立てながら顎を上下させる。

「わ、ワダスも~、お姉サンとハナススタイデ~ス」

 酒のせいで舌が廻らないのか、何故か(なま)るチャック。

「じゃあ決まりですね。すいませ~ん!!」

 木下が良く通る声をカウンターへ向けた。


◆◆


 焼き鳥屋を後にした3人は、外の冷たい空気を浴び、アルコールのせいで若干遠く聞こえる街の喧騒の中を歩き出した。木下を先頭に、おぼつかない足取りの3人。

 普段晩酌などしないこの若者達にとって、チェーン店の居酒屋とは違い、濃い目の分量のアルコールを提供する個人が営む居酒屋の酒は、いささか強すぎたようだ。

「おっと」

 金平が足を絡ませつんのめる。咄嗟にチャックが体を支えた。

「金平サ~ン、ダイジョブデスカ~」

「おう、でーじょうぶっす」

 おどけてみせる。

 ──その時。

「嫌だって言ってるでしょ!!」

 20メートル程前方から、鬼気迫る女の声がした。見ると若い女が、体格の良い中年男性に無理矢理腕を引かれているではないか。

 必死に抵抗する女性。長めの茶髪にアーモンド型の瞳が印象的で、気の強そうな顔立ちをしてはいるが、大抵の人が美人と言うであろう容姿をしていた。服装と厚めの化粧から察するに、夜の仕事をしているように見える。腕を引いている中年男性はスーツ姿で、どこぞの会社の重役クラスのような恰幅(かっぷく)の良さがあった。

 そのやり取りを見たチャックが突然駆け出す。

「おい!!」

 金平が慌てて声をかけるが、あっという間に喧嘩とおぼしき渦中へ飛び込んだ。

「ヤメテくださ~い」

 女と中年男性の間に割って入ると、女に背を向けて仁王立ちする。普通ならばチャックの巨躯を見て怯むものだが、男は泥酔していた。

「なんだぁ、お前はぁ!?」

 鼻を突く程のアルコール臭を漂わせながら、焦点が合わない眼差しでチャックを威嚇した。

「乱暴ハヤメテください」

 子供を諭すように、静かにチャックが言う。

「この女にぃ……いっ、くら、使ったと思ってんだ!!」

「私は別に何も頼んでない!!」

「んだとー!!」

 拳を振り上げる中年男性。すると、チャックが突然その場で膝を着く。

「アナタのキガスムまで、私ヲ殴リナサ~イ」

「あぁっ?」

 真っ赤にした顔を怒りで歪ませて、振り上げた拳をチャックに叩きつけた。鈍い音と共に、チャックの顔がブレる。

「キャッ!!」

 女が生々しい悲鳴を上げると、チャックの体に覆い被さった。

「やめて!!」

 その様子を見ていた金平が走りだそうとする。ふと、その肩へ木下が手を置く。見ると中年男性が、殴った方とは逆の手で自らの手首を握りしめ、苦悶の表情を浮かべている。

 素人が拳を使って殴る際、大抵殴った本人もタダでは済まない。恐らく指の骨にヒビでも入ったのだろう。呻き声を上げながらその場にうずくまった。

 ふと女がチャックを見上げると、殴られた額から真っ赤な血が筋を作って流れていた

「ちょっと大丈夫!?」

「オ~ウ、ナンテコトハアリマせ~ん」

 右目に入る血に瞼を閉じると、いつもの爽やかな笑みを浮かべるチャック。

『どんな逆境にあっても笑顔を』

 師である鬼瓦道三の教えを忠実に守っている。

 それを尻目に中年男性は、呻き声をあげながら、ヨタヨタと身を翻してどこかに消えて行った。

「ありがとう」

 チャックの姿を見て、涙を滲ませる女。

「ハッハッハッ」

 なんとも言えない高笑いを上げると、チャックは一層優しい笑顔を見せた。

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