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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第③マッスル◆戦え!!筋肉の戦士達!!◆
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チャリと夜空と青春と!!

 地下駐車場の隅にポツンと並ぶ2台のチャリ。

 1台は普通のママチャリだ。大分年季が入っているようで、所々錆びが浮いている。その隣に並ぶチャリのサドルへ、チャックが颯爽と跨がった。

 車体が黒光していて、大きさも普通のチャリの2倍程はあろうか。

「コレハ三国サンにオネガイシテ、オーダメイドで作ってモライマシタ~。電動でウゴキマ~す。車体のザイシツはドライカーボンで、ワタシの体重ニモタエラレマ~す。100万エンイジョウかかりました~」

「……そっ、そっか……ってか、免許無いって……この車は?」

 金平が軽自動車を指差す。

「コレハお母さんのマイカーで~ス」

 チャックの言葉に、金平は顔を引きつらせ直立した。木下が口元に手をやり、喉を鳴らして笑いをこらえている。

「……チャリはいいけど、街まで10キロはあるぞ……しかもチャリ2台しかねーし」

「大丈夫デ~ス。ワタシのブラッキー号の荷台ニハ、タンデムシートがありマ~ス」

 そう言って、黒光するチャリの後部を何やらいじると、後輪の上に幼児が(また)がる程のタンデムシートが現れた。

 車体自体が巨大なため、タンデムシートも成人男性が余裕で跨げるサイズがある。

「ブラッキー号って?」

「オ~ウ、ブラッキーはワタシがチイサイ頃飼ってた犬デ~ス。国道ニ飛びダシテ、トラックニヒカレて惨死シマシタ~……壮絶なサイゴを遂げたのデ~ス」

『……縁起でもねぇ名前だな』

 胸中で呟く金平。

「で、そこには誰が乗るんだ?」

「僕が乗ります」

 二人のやりとりを見守っていた木下が、オモチャを与えられた子供のように目を輝かせながら言った。

「まぁいいけど……」

『しかしチャリとは……』

 金平は深々と肩を落とす。

 楽しい飲み会が一変、地獄のサイクリングへと様相を変えた。



 3人でチャリを押しながら、地下駐車場のスロープを上がっていく。

 時刻は夕方5時半。日中がポカポカ陽気だったため、雲一つ無い空のせいか、日が(かげ)るに連れて放射冷却になり、少し肌寒かった。

「よっと」

 チャックが跨がっているブラッキー号。その背後にあるタンデムシートにふわりと飛び乗る木下。三輪車のハンドルに似た握りてをしっかり掴み、後ろにいる金平に爽やかな笑顔を見せる。その視線を気にしつつ、久しぶりに乗るチャリに戸惑いながらも、金平もヨタヨタとママチャリに(また)がった。

「ソレジャ、行きマスヨ~」

 木下と金平の様子を確認すると、チャックが大きな体を前屈みにしてペダルを蹴り出す。

 ブラッキー号に内蔵された電気モーターが低いうねり声を上げると、不自然な程急激に加速する。一気に20キロ程まで速度を乗せた。

「キャハハハハッ!!」

 突如としてタンデムシートの木下が、赤子の様な奇声を発しながら顔面を崩壊させた。

「はうあっ!?」

 後ろから追走する金平が、その異様な姿を見て顔をひきつらす。

 疾走するチャリが風を切る感覚と、心地良い加速G(重力)に、童心に還ったかのごとき幸福感が木下を包みこんでいた。

 笑いが止まらない。胸の奥をくすぐる恍惚感。しかし、懸命にママチャリのペダルを漕いで追走する金平には、前を走るブラッキー号に跨がる二人の絵ヅラが異質な物に映った。

 身長2メートルはあろうかという大男のチャック。そんな巨漢が真剣な眼差しで垂直に姿勢を保ち、不気味な程巨大なチャリのペダルを漕いでいる。

 その後部座席には、足を曲げて左右に膝を突き出し、ライダースジャケットに身を包んだ美しい青年が、天を仰ぎ、若干白眼を剥きながら、甲高い笑い声を発していた。

 口の端からはよだれが。

 ──まさに百鬼夜行である。

「……」

 金平は絶句しながら前走車から距離を置く。同類と思われるのだけは避けたい。

 国道をすれ違う対向車の、運転席と助手席の老夫婦が、見てはいけない物を見てしまったかのように驚愕の表情を浮かべていた。そんな事はお構い無しに、グングンと加速するブラッキー号。次第に金平のママチャリと車間距離が広がっていく。

「お~い!!」

 息を切らせながら、懸命にママチャリのペダルを漕ぐ足に力を込める。

「こんのぉっ!!」

 遠ざかるブラッキー号に追い付こうと、大腿筋に力を込め、ママチャリに更なる鞭を入れた。次第に木下の背中が近づく。

 ここ最近のトレーニングのおかげで、金平は現役時代を凌駕する体力を手に入れていた。

 機関車の車輪のごとく、左右のペダルが凄まじい回転を上げる。なんとか並走するに至った。

「オ~ウ!カナダイラさ~ん、凄いデ~ス!」

「アハハハッ♪」

 チャックと木下が楽しそうな表情で、金平を見つめる。ふと、木下が左手で握り拳を作ると、無造作に金平へ向け突き出す。額を汗で光らせ、チャリの運転に集中していた金平だったが、困惑した表情を浮かべながらその拳を見つめた。

「なんだそら?」

 その問いに、木下は笑顔のまま無言で拳を突き出し続ける。仕方なくハンドルから右手を離すと、視線はそのままに、自らも拳を突き出し、憮然とした表情のまま木下の拳に軽く当てた。

「金平さん!!楽しいですねっ!!」

 耳を遮る風の音に負けないように、声を張り上げる木下。

「あんだってぇ?聞こえねーよぉ!!」

「アハハハッ!!」

 思い切り口を開けて目を細めながら、木下は再び笑う。白い顔が、まるで(けが)れを知らない幼子に見え、月明かりの中で照らし出されていた。

 いつの間にか道路は海岸線沿いへと繋がり、水平線と夜空が月明かりに照らされて、滲みながら幻想的な景色を作り出していた。

 生臭い潮風が3人の男を包み込む。

「ハッハッハッ!!」

 金平と木下のやりとりを目の端に捉えていたチャックも、何故だか笑い始めた。

「なんだよお前ら……フフッ……ハハハッ!!」

 疾走するチャリの音。

 穏やかな風と波の音。

 3人の笑い声と重なって、美しい夜空を、賑やかに彩っていた。

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