驚愕の事実!!
「ここでしょ、大学附属病院って」
広大な駐車場の入り口に車を停車するソフィ。黄色い発券機から出た駐車券を抜き取ると、口に咥えて両手でハンドルを回した。二人の乗る水色のフィアットが、ゆっくりと駐車場の奧へと進む。
助手席の金平は、六階建ての真新しい病院を見上げると、どの部屋かは分からないくせに、無数にある窓ガラスを一つづつ見渡した。
「金ちゃん行くよ」
ソフィが軽い足取りで車から降りると、金平も続く。
入院患者と見舞いの客がひっきりなしに行き来する広いエントランスを抜け、受付の窓口に身を乗り出すと口を開くソフィ。
「芹沢と増山なんですが......昨日緊急入院した」
金平は背を向けて、パーカーのポケットに手を突っ込み、ロビーに設置された液晶テレビを眺めていた。
「はい金ちゃん、部屋わかったよ。行くぞ」
金平の腕の内側に手を入れると、グイグイ引っ張りエレベーターに向かった。
「あの怪我じゃ、全治何ヵ月だよなぁ」
エレベーターの内壁におっかかりながら、階数表示を虚ろな目で眺める金平が呟く。
「う〜ん、でもあの二人、怪獣みたいに強いから大丈夫なんじゃない?」
「怪獣ってなんだよ」
ソフィの言いぐさに吹き出す。
「だってスッゴく強いじゃん、あの二人」
口を尖らせるソフィは、まだあどけない目元を細めた。
チーンという電子レンジに似た音が聞こえたと思うと、静かにドアが開く。
「えーっと、5階の......503と505......」
ぶつぶつ呟きながら、ソフィが部屋の入り口にあるプレートを見てまわる。
「あっ」
「見つかったか?」
立ち止まったソフィの視線の先をなぞる金平が、廊下の長椅子に座る不審な人物を発見した。
大きめのファーが襟元についたミンクのロングコート。そんなバブル期のお姉さんさながらの格好で、悠然と足を組みながら読書をしている。
ごつい両手で開いたその表紙には、ピッチピチのボクサーパンツを履いた、細マッチョなラテン系イケメン男性が白い歯を見せていた。
どうやら海外のブランド下着を取り扱う雑誌のようだ。
その本の持ち主であるスキンヘッドに口髭の男は、穴が開く程に真剣な眼差しで雑誌を熟読している。
山賊の頭目が、次の襲撃地の下調べをしているかのごとき威容があった。
「しゃ、社長、何読んでんすか?」
異様な姿に、金平は頬を引きつらせた。
「あら、あんた達いつ来たの?......ソフィ、あんたお見舞いに来るのにそんな派手なヒール履いてきて......場違いよ」
憮然とした表情でソフィの足元を見つめる社長。
『いやいや、あんたの全てが場違いすぎますよ』
金平の心中は複雑だ。
「いーじゃん別に」
ソフィがプイッと顔を反らす。
「二人の具合はどうなんですか?電話じゃ命に別状は無いって......」
社長とソフィの険悪な雰囲気を見て、咄嗟に金平は話題を本筋へ修正した。
「増山ちゃんは肋骨骨折に脾臓破裂で全治1ヵ月。芹沢ちゃんは胸骨骨折で、折れた骨が肺に刺さって全治2ヵ月って話よ」
言葉を失う金平。
「なんでまたそんな命のやりとりみたいなことしたんすかねぇ......」
「あの二人には過去に因縁があったのよ......まぁ、私も絡んでんだけど......聞きたい?教えてやってもいいわよ」
社長がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる。
「あっ、その話なら知ってる。李春なんとかって、芹沢さんが中国人の話でしょ?」
「なんで知ってんの?あんた」
イラッとした声を発し、眉間にシワを寄せる社長。
「だって増山さんから聞いたもん」
面白くなさそうに、社長が不快感を露にした。
「あんた、ベルリッチさんとは連絡とってんの?」
突如話題が変わる。
「......その呼び方やめて」
社長の言葉に、ソフィは表情を曇らせた。
「......モニカとは連絡とってるの?」
なんだか恥ずかしそうに、赤面する社長。
「とってるよ。自分もすればいいじゃん」
「自分とは何よ!父親に向かって!」
「パパが男の尻ばっかりおいかけてるから悪いんでしょ!」
なんだかおかしな痴話喧嘩が始まった。
『パパ?モニカ?』
二人の会話は断片的な情報でしかないが、その言葉の応酬に、金平はとてつもなく嫌な予感に襲われる。
「あのー、ソフィ……パパって?」
恐る恐るお伺いをたてる。
しまったといった顔のソフィだったが、観念した様子で口を開いた。
白い指を社長に向けて......。
「この人、鬼瓦剛......私も前まで鬼瓦ソフィアだったんだけど、パパとママが離婚して、今はママの姓になってるから......ソフィア・ベルリッチ」
「んがっ?」
キン●マが光の速さで縮みあがり、猿轡され後ろ手に手錠をかけられた挙げ句、東尋坊の先端から蹴り落とされたかのような衝撃を受ける金平は、あまりの動揺に奇声を発した。
「あら、金ちゃんに話てなかったかしら?」
社長が眉を上げながら、のほほんとした表情を作った。
「まぁ、そんなことはどうでもいいのよ。それより増山ちゃんに挨拶してくんでしょ?」
社長の言葉は届かない様子で、長椅子に腰を下ろし、目を見開いて、口からヨダレを垂らしながら小刻みに震える金平。
「芹沢さんは?」
ソフィが首を傾げた。
「芹沢ちゃんは誰にも会いたくないんだって。面会お断りらしいわよ、本人いわく」
「はは〜ん、増山さんに負けたから面白くないんだ」
ぷぷっと吹き出すソフィ。
「まぁ、そんな感じね」
社長は言うと、雑誌をヴィトンのバックにしまい立ち上がった。
「あたしは会社に戻るけど、増山ちゃんに挨拶したらあんた達も戻って来なさい。三国ちゃんがSEを察知したみたいなこと言ってたから」
真顔で言うと、エレベーターに向かって歩きだす。
「寄り道しちゃダメよ」
左手を振りながら、ツカツカとその場を去った。
いまだに気が抜けた様子の金平。心ここにあらずといった雰囲気だ。
「金ちゃん行くよ。ボーッとしてないで」
金平の胸中を知ってか知らずか、あっけらかんと言い放つソフィだった。




