食堂の中心でチャックと叫ぶ!!
妙にフラついているチャックを従え、ソフィと金平は食堂へ入った。夕飯の準備はすでに整っていたようで、芹沢と増山が席に座って食事を始めている。
チャックの首筋のアザに気付いたお母さんが、小走りで駆け寄ってきた。
「チャック、あんたどうしたのその首?」
「オゥ、オカアサン、これはソフィアさんがワタシにツケタ、愛のクビワナノデ〜す」
「愛の首輪?」
怪訝そうに首を傾げると、眉を潜めてチャックの首筋に見入るお母さん。
「殺されかけたんだよな、チャック」
金平がチャックを見上げながら素っ気なく言い放ち、椅子に座る。
「オ~ウ、金平サ~ン、そんなブッソウなことイワナイでくださ~い」
巨大な両肩をすぼめ、わざとらしく眉を潜めるチャック。
「そうだよね~、チャック」
ソフィが相変わらず、無邪気に白い歯を見せながらケラケラと笑った。
「……おい、金の字、あいつら黙らせろや」
芹沢が箸を止めずに、仏頂面で金平に視線を送った。
「金の字って……金平です」
芹沢の発した安易なネーミングにムッとする。
何より道場での一件は、金平の心に、当然の事ながら遺恨を残していた。
そんな事はお構い無しに、自分に声をかけてくる芹沢の気持ちが、金平には理解出来ない。
「放っておきましょう」
すでに配膳済みの食事に箸をつけると、ぶっきらぼうに言い捨てる。
「金ちゃん、いただきますの挨拶は?」
「おわっ!?」
さっきまでいなかったはずの社長が、いつの間にか金平の左隣、上座に座っていた。
キ○タマが縮みあがる。
社長の深海魚的な熱い視線を、金平が一身に受ける。
「……い、いただきマッスル」
目を閉じ、口をへの字にしながら頬を赤らめる金の字。その姿を確認すると、社長は腕組みしながら満足そうに頷いた。
社長の右隣へ着席したチャックとソフィも、金平の後に続く。
「いただきマッスル〜」
元気に声を上げるチャックとソフィ。
相変わらず仏頂面の芹沢。対照的に増山は、一連のやりとりを楽しそうに眺めていた。
しかし、芹沢を視界の端に捉えると、ただならぬ殺気を放ち始める。その気配を感じとり、芹沢は一瞬箸を止めた。両者だけが互いに感じとった一瞬の気配。芹沢が、口の端を微かに歪め、禍々しい笑いを浮かべる。増山以外、その悪鬼のごとき殺意を、誰一人感じることは無かった。
夕飯のメニューは昨日と同じで、大量の鳥のささみと、今日増山が買い込んできたサプリメント。それからバナナ一房に、グラスになみなみとつがれたプロテインドリンク。
この異様な夕食も、既に2日目の金平は特に抵抗無く箸を進めている。育ちが良さそうな雰囲気だが、食事に関しては順応性が高いようだ。
たどたどしくバナナを剥いて両手に持ちながら、大口開けてかぶりつくチャック。鼻息荒く、若干白目を剥いている。
さながらイカレたドンキーコングといった様相を呈していた。
「ングッぅ!」
突然チャックが悶絶し始めた。全身を震わせ、喉を掻きむしっている。
「あんた、どうしたのチャック?」
隣の社長が臭そうな表情を浮かべた。
「ンゴーッ!」
本格的に白目を剥きながら、バナナと一緒に口の端から盛大に泡を吹き始めた。
そのまま椅子から仰向けに落ちて、床へ倒れる。
巨体が床に叩きつけられることにより発する、地響きと轟音。
どうやら先ほどのウエイトの落下によるダメージが、今ごろになって発現し、気道がうまく使えずにバナナがつっかえて窒息したようだ。
みるみるうちにチャックの顔色が、信号のように赤から青に変わる。三途の川の横断歩道を渡ろうかといった所か。
「ちょっと、チャック!あんた!大丈夫なの!?」
慌てて床に膝まづき、チャックを中腰で抱えあげる社長。
どさくさに紛れ、チャックの大胸筋を揉んでいる。
「チャック!チャーック!……誰か、助けてください!助けてください!」
社長がチャックを腕に抱き、天を仰いで絶叫する。その声に、顔面を蒼白にしたお母さんが、食堂の壁面に備えつけられたAEDを抱え駆け寄ってきた。




