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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第①マッスル ◆筋肉への誘い!!◆
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シャワータイム!!

 金平は車窓に顔を向けたまま動かない。

 その瞳は色を失い、どこか冷めて見えた。

 車内には、ジャズの軽快なサックスの音だけが陽気に鳴り響く。

「ねぇねぇ」

「んっ?」

 ソフィの声に振り返る。

 肩を叩いたソフィの人差し指が、金平の頬に突き刺さった。

「……お前なぁ、今どき小学生でもそんなんしないぞ」

 脱力感に襲われていた金平だったが、ソフィのくだらない茶目っ気に笑みを浮かべた。

「アハハハッ」

 屈託無く笑うソフィを見て、居たたまれない気持ちが微かに癒された。

 その後増山達は、巨大なショッピングセンターで買い物を済ますと、三国を拾いにラボへと向かう。


「お疲れさまです」

 ハマーのトランクへ、金平の力を借りて重々しいジュラルミンケースを積み込むと、助手席に乗り込む三国。

「三国さん、いい物できてましたか?」

「ええっ、バッチリです」

 両の頬を丸くして、いつになく得意げだ。

 

 増山達が会社へ帰宅する頃には日が落ち始め、辺りは暗くなっていた。

「夕飯までトレーニングルームを使うのもいいし、疲れたならシャワーを浴びて寝てもいいよ。しばらくSEは現れないだろうから、みんな個々にトレーニングの日々かな」

 増山の言葉に、金平は油の浮いた髪を掻き、汗臭さを気にしていた。帰りの車中でも、隣のソフィにそれと気づかれないように、出来るだけ距離を置いていた。

 漠然と嫌な予感を感じるが、さすがにここまでくるとシャワーを浴びずにはいられない。

「タオルはお母さんに言えば出してくれるから」

 増山が親切に教えてくれた。



 お母さんから柔軟剤の効いたバスタオルを受け取ると、家から持ち帰ったカバンを肩に、道場と同じフロアのロッカールームへと向かう。

 ロッカールームや道場に人影は見られなかった。辺りを注意深く見回す金平。

 ロッカーの扉を一つづつ開けて、丹念に中をチェックする。

 自販機の隣のポリバケツの中。這いつくばってベンチの下も見渡す。

 まるで要人警護のボディーガードが、爆弾の設置を警戒するかのごとく念入りに、周囲を隈無く調べる。

 最後にロッカールームの入り口の扉をしっかりと施錠すると、一息ついてベンチに腰かけた。それから頭を数回掻くと、シャワールームへ入る。

 脱衣場や、間仕切りで区切られたシャワールームの中を、一つづつ開けて入念に中をチェックした。

 何もいないことに、金平の顔に安堵の表情が浮かぶ。

 脱衣場で全裸になると、脱いだ服を丁寧に畳んでかごに入れ、軽い手応えのドアを押して中に入っていく。シャワーのコックを捻ると、すぐに熱いお湯が出た。足を肩幅ぐらいに広げながら両手を壁面に当て、うなだれながらシャワーの中に身を置く。

 昨日からの出来事が、ぐるぐると頭の中で浮かんでは消えた。疼くような痛みを感じて胸を見ると、みぞおちに青々としたアザ、その下には芹沢の指先のあとが赤黒く残っていた。

 ふと目線を下へ。

 白いタイルの中にある排水溝に、渦を巻いたお湯が流れこんでいた。

「んっ?」

 お湯が目に入りこんで見えずらいが、広げた両足の中に何かが見えた。

 その長大な物体は、シャワールームのドアから外へと繋がっている。

 金平は震える両手で目をこすり、お湯と髪を視界から取り除く。心臓が瞬く間に鼓動を早め、命の危険を感じた。

「き〜ん……ガボッ……ちゃん、ガボッ」

 スキンヘッドに口髭の男が、彫像を彷彿とさせる荘厳な表情で仰向けに寝そべり、金平の股関を凝視していた。

 目に飛び込む熱湯になんら屈することなく、両眼を悪鬼さながらに見開いている。開いた口から盛大にお湯が溢れ、会話は困難な状況だ。

「ヒッ!?」

 あまりの恐怖に、金平は一瞬で飛び退く。そのままズルズルと狭いシャワールームの角に腰をへたりこませた。

 もう一度目をこすって、ドアの下の隙間を確認する。ドアは蝶番で留まっているだけで、上下に50センチほどの空間があった。

 だが、すでにそこには何もいない。

 もはや『変なオジサン』レベルの恐怖に、体を硬直させたまま、しばし無言でシャワーに打たれる金平だった。

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