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秋葉原(アキハバラ)の残響。あるいは最初のメッセージ

魔導Amazonを開通させ、完璧な引きこもり生活を謳歌するコウノス。

だが、深夜の静寂の中、端末アイフェンの画面に、注文した覚えのない『1件の通知』が灯る。

それは、世界の誰にも解読できないはずの、前世の「日本語」で綴られたメッセージだった。

人間に否定され、ゴミだけを愛した31歳の秋葉原の夜。

孤独だったコウノスの魂に、異世界の一筋の電波が、奇跡の同期リンクを果たす――。

夜。室温23度。

キリガミネが静かに吐き出す風の音だけが、暗いシェルターの中に響いている。

リィンとアイリスは、昼間のネットショッピング疲れ(過負荷)のせいか、ベッドの代わりの長椅子で健やかな寝息を立てていた。

「……静かだな」

俺は一人、作業机のランプの灯りの中で、冷たくなった麦茶のコップを弄んでいた。

ボソボソ早口の陰キャ。無能と蔑まれた5Wの追放者。

それがこの世界での俺のスペックだ。

だけど、こうして深夜の静寂の中にいると、どうしても前世の、あの秋葉原の狭いジャンク屋の夜を思い出してしまう。

世界中がどれだけ便利になっても、効率を求めてシステムをアップデートしても、弾き出される人間は必ずいる。不器用で、喋るのが下手で、機械の回路としか会話ができなかった、31歳の俺のように。

『松下くん、君の技術は丁寧だけど、今の時代、そんな効率の悪いハンダ付け(こだわり)じゃ食っていけないんだよ』

前世で浴びせられた、冷たい言葉のノイズが脳裏をよぎる。

結局、誰も俺の「丁寧さ(JIS規格)」なんて見ていなかった。だから俺は孤独のまま死んだ。

ゴミ(ジャンク)だけが、僕を否定しなかった。

「……何しんみりしてんだろ。バカみたいだな」

自嘲気味に呟き、手元のアイフェン(通信端末)の電源を落とそうとした、その時だった。

チカ、と画面の隅に、オレンジ色のLEDが不規則に明滅した。

『魔導Amazon』のサーバーから、1件の注文確定通知が届いたのだ。

だが、おかしい。

今夜は何もポチっていない。システムのバグかと思い、ログのコードを解析デバッグしようとした俺の指先が――ピキリ、と凍りついた。

画面に表示された文字。

それは、この世界の『帝国文字アルファベット』ではなかった。

『注文者:SAKURA』

『お届け先:5Wのジャンク屋へ』

「……な、に、これ……」

声が、掠れた。

それは、世界の誰も知るはずのない、前世の故郷の文字――【日本語】のひらがなと漢字だった。

心臓が、ドクンと嫌な高電圧オーバーロードを起こす。

震える指で画面をスクロールする。注文された商品は『不明(ジャンク品)』。価格は『0円』。

そして、その注文書の備考欄メッセージには、不器用な日本語のフォントで、こう綴られていた。

『ずっと、あなたの電波(周波数)を探していました。

システムから弾き出されて、壊れかけていた私を、あの雨の秋葉原で直してくれた、世界で一番優しい頑固職人さん。

万策尽きたなんて言わないで。

今度は、私があなたを「置き配」を見つけに行きます。――サクラより』

「サクラ……」

その名前を呟いた瞬間、前世の記憶の霧が、鮮やかに晴れ渡った。

そうだ。思い出した。

前世のあの夜、土砂降りの秋葉原の路地裏で、壊れた古いポータブルオーディオを抱きしめて泣いていた、歳の離れた少女がいた。

喋るのが下手な俺は、何も言わずに彼女の機械を分解し、5Wのはんだごてで、1ミリの狂いもなく回路を完全接続デバッグして、無言で返した。

『直った。……成功するまで続ければ、失敗じゃないから』

それが、俺が前世の人生で、唯一、誰かの心と「同期リンク」できた瞬間だった。

画面を見つめる俺の視界が、じわりと滲む。

涙が、冷たい麦茶のコップに落ちて、小さな波紋を作った。

「あぁ、そうか……。繋がってたんだ」

5Wの出力。街灯すら灯せない、小さくて、不器用で、無能な力。

だけど、ミリ単位の熱量を均一に保ち続けた俺のはんだごては、世界を、時空を越えて、あの孤独だった少女の魂と、ずっと、ずっと同じ周波数で共鳴し続けていたのだ。

「マスター……? どうされたのですか……?」

ふにゃ、と目を擦りながら、長椅子からリィンが起き上がってきた。アイリスも「んぅ……」と寝返りを打っている。

「……いや。何でもないよ」

俺は急いで袖で目を拭い、いつものボソボソとした早口に戻って、アイフェンをポケットに仕舞った。

「ちょっと、明日は忙しくなりそうだから。……アキハバラ物流網(Amazon)の、受入容量キャパシティを最大まで拡張する。僕たちの聖域に、最高のジャンク(特別便)が届くかもしれないからね」

窓の外、死の大地の暗闇を見つめる。

そこにはもう、不快な電磁ノイズは聞こえなかった。

ただ、遠くからこちらへ向かってまっすぐに進んでくる、懐かしくて、最高に愛おしい『再会の鼓動シグナル』が、俺の回路に確かに優しく、流れていた。

(第1部・駆動完了 / 第11話へ続く)

第10話をお読みいただき、ありがとうございました!

そして、これにて『第1部・アキハバラ起動編』が完璧な定格で駆動完了(完結)となります!


これまでコメディ調で実家をボコボコにしてきた本作ですが、ここで前世の秋葉原での「サクラ」との因縁が日本語のメッセージとして届くという、最高にエモい接続を描かせていただきました。5Wの優しさは、ちゃんと世界を救っていたのですね。


次回第11話からは、いよいよ『第2部・サクラ襲来(?)編』が駆動します!

画面の向こうから、コウノスに逢うためだけに全財産を投げ打って死の大地へ爆進してくるサクラちゃん。それを見た先住ヒロインのリィンとアイリスはどう動くのか――!?


ここまでコウノスの丁寧な暮らしをお見守りいただき、本当にありがとうございました!

「めちゃくちゃエモくて鳥肌が立った!」「第2部も早く読みたい!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや星評価での最大送電(応援)をよろしくお願いいたします!

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