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定格出力5Wの烙印、あるいは最高の引きこもり大地の発見

「うわ、配線汚いな……。そんな高電圧かけたら可哀想じゃん」

実家が誇る10万Wパワーは、ただの恥ずかしいタコ足配線。

中身46歳の頑固職人が、5Wの省エネ(JIS規格)で世界を完璧に調和させる、不器用で最高に丁寧な異世界大開拓、ここに駆動!

【第1話あらすじ】

帝国屈指の軍事技術名門マツシーータ伯爵家。その長男コウノスは、15歳の成人儀式で「出力わずか5W」という前代未聞の無能の烙印を押され、死の大地へと追放される。

だが、脳筋な実家の連中は知らなかった。コウノスの正体が、前世で「人間のクソみたいなシステム」にすべてを奪われ、孤独に死んだ31歳の秋葉原のジャンク屋店員――国家資格『電子回路接続技能士』を持つ、はんだ付けの神様だったことを。

誰も来ない地獄の地? いや、ここは誰にも邪魔されない、僕だけの「最高の聖域(ジャンクの山)」だ!

「――松下幸之助は言った。『物をつくる前に、人をつくる』と。だがお前たちマツシーータ家の人間は、物はおろか、回路の基礎(オームの法則)すらつくれていない。見ていて鳥肌が立つほど不快な、クソ設計バグの集まりだ」

もちろん、そんな言葉は口に出さない。

ボソボソと早口で呟く陰キャの悪癖は、異世界に転生して十五年が経った今でも治っていなかった。

「……出力、わずか5ワットだと!?」

マツシーータ伯爵家、大広間。

空間を圧するような重々しい空気の中、魔力測定水晶を前にした父親――現当主のボルト・フォン・マツシーータが、肉厚な顔を怒りで真っ赤に染めて絶叫した。

「我がマツシーータ家は、代々1万W以上の高出力を誇る帝国の軍事技術名門! 兵器を駆動させる巨万の魔力こそが、我が血統の誇り! なのに貴様はなんだ……! 5W!? 街灯の電球すら灯せんではないか! 衣服の静電気か貴様は!」

父親の傍らで、兄のレジスがクスクスと下品な笑い声を漏らす。

そのレジスの腰に下げられた『1万Wの雷撃魔槍』を見て、俺――コウノスは心の中で深く溜息をついた。

(うわぁ……相変わらず配線が汚い。出力を上げるためだけに魔力導線を何重にもグチャグチャに巻き付けて……接続部から火花が散ってるじゃん。絶縁(安全対策)って概念がないのかな。よくあんな殺人未遂オブジェクトを腰に下げられるよ。バカなのかな)

この世界の連中は、みんなバグっている。

とにかく「高出力(ワット数)が最強」と信じ込んでいて、100の仕事をするために、わざわざ10000のエネルギーをドバドバ注ぎ込んで、残りの9900を熱や爆発ロスとして垂れ流しているのだ。

エネルギー効率という概念が、この世界にはまるで存在しない。

どんなに高い電圧をかけたって、受け止める基盤の定格に合っていなきゃ、待っているのはショートしての自滅だけなのに。

「言い訳はあるか、コウノス!」

父親の怒声が響く。

「あ、いえ……別に。……定格、ですから」

「チッ、これだから根暗の無能は! 母親に似てちまちました薄汚い魔力しか持たぬ粗大ゴミめ! マツシーータの籍から貴様を抹消する!」

父親は冷酷に言い放ち、大広間の床をドォンと踏み鳴らした。

「貴様のような不良品は、我が家の汚点だ。本日を以て、魔導ノイズ渦巻く『死の大地』へ追放する! 二度と生きて戻ると思うな!」

死の大地。

世界の終焉とも呼ばれる、超古代文明の崩壊跡地。常に不規則な過電圧ノイズが荒れ狂い、並の人間なら三日で脳をバグらせて狂い死ぬという、地獄の流刑地。

だが、それを聞いた俺の心臓は、歓喜でドクンと跳ね上がった。

(え……? 誰も来ない、誰も僕に過負荷をかけてこない、広大な土地? しかも超古代のジャンク(廃家電)が山ほど眠ってる場所?)

前世の記憶が蘇る。

31歳、秋葉原の片隅。数億円の国家級マシンをはんだごて一本で直すほどの腕を持ちながら、最後は「都市開発の法律」という巨大な人間のシステム(過電圧)に最愛のジャンク屋を潰され、燃え尽きるように孤独死した、あの現代の記憶。

あの時、僕は誓ったんだ。

もし次があるなら、他人の作ったクソみたいなルール(システム)には二度と従わない。天候も、法律も、セキュリティも、すべてを僕の『JIS規格(独自のルール)』で24時間完全支配した、絶対に誰も介入できない絶対不可侵の要塞(ジャンク屋)を作ってやる、と。

「……わかりました。すぐ、荷物をまとめます」

「フン、二度と不快な顔を見せるな!」

俺は、すれ違いざまにレジスからわざとらしく肩をぶつけられながらも、一刻も早くこのタコ足配線な屋敷からおさらばしたくて、足早に大広間を後にした。

数日後。

俺は、境界線の結界を越え、一人で『死の大地』へと足を踏み入れていた。

ゴオオオオオオ、と不穏な重低音が大気を震わせている。

地面は炭素繊維の黒い砂。空はどす黒く、時折、設計ミスのような紫色の稲妻(魔導ノイズ)が走っている。確かに普通の人間なら、この無秩序なエネルギーの乱れに脳の神経をやられるだろう。

だが、俺は追放される間際に実家のゴミ捨て場から拾い上げておいた、分厚い『ゴム長靴(絶縁仕様)』を履いていた。

パチパチ、と足元で弾ける不快な静電気を、ゴムの分子構造が完璧にシャットアウトする。

「よし、アース(接地)は完璧。……さて、ジャンクハントを始めようか」

数分も歩かないうちに、俺の目は爛々と輝き出した。

砂に埋もれているのは、巨大な鉄くずの山――いや、前世の知識を持つ俺から見れば、それは超古代の高度な文明が遺した『廃家電の密林ジャンク・フォレスト』だった。

「うわ、これ……コンデンサの液漏れを直せば動くな。あっちの鉄塊は、ファンの軸受けにグリスを塗れば現役だぞ。宝の山じゃん……!」

俺は夢中でジャンクを漁り、砂漠の中にポツンと残されていた、頑丈な超古代の観測用シェルター(石造りの小さな小屋)を見つけた。

「ここを僕の『城(ジャンク屋)』にする」

俺は小屋の中に拾い集めたパーツを持ち込み、懐から愛用の道具を取り出した。

実家からコッソリ持ち出した、俺の魔力を流すと先端が超高温になる特注の魔導具――前世の相棒と同じ、**【はんだごて】**だ。

「よし。まずはエアコン(空気調和設備)からデバッグしよう」

拾ってきた、四角い金属箱。超古代の魔導冷暖房機。

中を開けると、案の定、経年劣化ではんだに目に見えない微細な亀裂クラックが入っていた。

俺は5Wの魔力をはんだごてに込める。

多すぎる魔力は基盤を焼き切る。だが、俺の5Wは、ミクロン単位の回路を寸分の狂いもなく接続するための、極限まで洗練された「定格出力」だ。

ジュッ、と小さな音がして、美しい銀色の合金が回路の傷を完璧に繋ぎ直した。

キィン……と、金属箱が澄んだ起動音をあげる。

俺はボソボソと呟きながら、設定温度を入力した。

「設定温度、24度。湿度、45%。省エネ、エコモードで駆動開始」

ブォォォォン……。

静かな駆動音と共に、小屋の中に驚くほど優しく、心地よい清涼な風が吹き抜けた。

次の瞬間、小屋の窓から見えていた外のどす黒い嵐、あの不快な魔導ノイズが、キリガミネ(冷暖房機)の放つ反転周波数によって完全に相殺され、小屋の周囲だけが**『ピタリと静寂』**に包まれたのだ。

「ふぅ……」

俺は、拾ってきた錆びたパイプ椅子を叩いて座り、水筒から冷たいお茶を淹れてゴクリと飲む。

室温24度。湿度45%。魔導ノイズ、ゼロ。

地獄と呼ばれる死の大地の中に、1ミリの無駄もない、完璧に調和した「最高の引きこもり聖域」が誕生した瞬間だった。

「あー……丁寧な暮らし、最高。実家の脳筋どもがタコ足配線で自滅する間、僕はここで一生ジャンクを弄って暮らそう……」

カツン、と。

その時、静まり返った小屋の入り口に、何かが倒れ込む音が響いた。

「はぁ、はぁ……っ、う、頭が、割れる……っ!」

見れば、耳の長いエルフの少女が、過電圧のノイズに脳を破壊され、血を吐きながら床に転がり込んできたところだった。

俺の「5Wの調和(聖域)」に、最初のバグ(迷い人)が接続された。

ご一読いただきありがとうございました!

5Wの陰キャ職人コウノス、ついに死の大地パラダイスへ追放されました。


次回は、過電圧ノイズで脳がバグり散らかしているエルフの少女リィンを、コウノスが「エアコンと丁寧なお茶」だけで魂ごとデバッグ(救済)します!


「面白い!」「エアコンの快適空間に僕も入りたい!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価、応援コメントをよろしくお願いいたします! 執筆の励みになります!

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