episode7 予感
「もうすぐで卒業シーズン入っちゃう!」
あれから1ヶ月。毎日変わらないような生活を送っていた。
「卒業かー…なんだかんだ早かったなー」
「優は進学しちゃうんでしょ?」
「うん。俺はとりあえずここ出るよ」
「やだやだ!私の優がいなくなっちゃう」
「お前のじゃねえよ。みんなのだろ」
「俺は要らない」
「諒。言っていいことと悪いことがあるよね?俺今深く傷付いたよ?」
「春翔はどうするの?」
「小羽。流さないで?」
「ごめん、優。気になって」
「俺は出る予定ねえよ」
春翔の言葉に胸を撫で下ろす。春翔はどこか行ったらそのまま姿を消しちゃいそうで心配だ。ここにいてくれるならよかった。
「なんでこいつが残って優がいなくなるの。私のこと甘やかしてくれる唯一の存在が…」
茜が泣きべそをかく。優がそれに優しく笑う。
「諒。俺が進学したあとはお前が茜に優しくしないとだよ?」
「このおばさんに?」
「お姉さんと言いなさい小僧」
茜が諒の耳を引っ張り諒が嫌がる。この平和な日常も変わってしまうと思ったら寂しい。温かい存在の優がいないところなんて想像できなくて、したくなくて、できることなら私たちと一緒にいてほしいと思う。
「いなくなること考えたら心配なことばかりだよ。お前らのせいで」
「優はお母さんみたいだからね」
「お節介」
「諒は1度俺にボコボコにされた方がよさそうだね」
「優、闇が見えてるぞ」
春翔が優の肩に手を置くと優が春翔を見て眉尻を下げる。
「俺は何よりお前が心配だよ、春翔」
「なんでだよ」
「俺がいなかったら何しでかすか…」
「問題児みたいな言い方すんな」
「お前…頼むから元気でいろよ」
優がいつにもなく辛そうな表情を浮かべる。隣にいる茜と諒も何かを感じている様子だ。
「当たり前だろ。ていうか、まだ別れのときじゃないのに先走りすぎだ、ばーか」
「俺は心配してやってるのに!」
春翔と優はいつものようにはしゃいでいる。ただの、ただの勘違いならそれでいい。けど、やっぱり春翔はどこか遠くに行ってしまう気がする。私が気付いているならきっと優だって気付いているはず。優はいつも春翔の話をするとどこか切なそうな表情をする。茜や諒も時々何かを思い詰めるように黙り込むことがある。それは私と同じように何か違和感を感じているのだと、私はそう思っている。
「お前ら表情暗いぞ」
春翔に言われ、私を含め茜と諒がはっとする。みんな人の感情に敏感だからこそ、ほんの一瞬でも表情から読み取って気持ちを察知する。
「優がいなくなること考えたら病んできて…私死にたい…」
茜が私たちの感じている違和感に気付かれないよう、咄嗟にふざける。
「茜もしかして俺のこと好き?」
「うん、好き。結婚して」
「怜さんにチクるよ」
優や諒もそれに乗っかるので私も茜の発言に乗った。
「茜が好きになりやすいことは怜さんも知ってるでしょ」
「ちょっと!浮気性みたいじゃん」
「そうじゃなかったの?」
春翔も乗っかってくれたおかげで私たちの緊張感も無くなる。
「なんかお腹すいた」
「確かに。もう夜に近いしね」
「え、鍋しようよ!」
茜が提案する。もちろん、みんないいじゃん!と賛成。
「俺の家でするんでしょ?」
「うん。今日も諒の家にお世話になるな」
「そろそろ家賃払えよ」
ほぼ毎日のようにお世話になる諒の家。確かにそろそろ払わないといけないくらいだ。
「材料調達しに行くか」
「これは私と優2人で!デート!」
「お前怜さんに怒られるよ」
「大丈夫。怜さんも自分が一番って分かってる」
「なんか俺振られた雰囲気だし辞めとく」
「あ、いや!辞めないで!」
茜が瞳をうるうるさせてお願いする。優が笑って「いいよ、行こっか」と言った。茜と優が材料を買いに行っている間、私たちは先に諒の家に行ってセッティングなどをすることにした。
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「…すること無くね?」
「毎日来てるからテーブルも動かしてないし、使いそうなのは出してるもん」
「何もしないでいいじゃん。ラッキー」
そう言って私はソファーに座った。春翔も私の隣に座る。
「人の家に来て主よりもくつろぐとか頭どうなってんの?」
「諒だしいいかなと思って」
諒がため息をついた。スタスタと自分の部屋に向かっている。
「またゲーム?」
「だって、俺今どう見ても邪魔でしょ」
諒の言っていることを瞬時に理解する。きっと私と春翔に気を遣ってくれているのだろう。なんだか気まずくなってしまう。
「諒お前…寂しいのか?」
「は?」
「俺がかまってくれなくて寂しいんだろ!」
くだらない茶番が始まってしまった。
「この可愛い奴め!」
春翔が諒の肩に腕を回し、頭を雑に撫で回す。
「何まじで。違うしきもい」
そんな春翔に相変わらず冷たい返事を返す諒。春翔が「照れるなよー」と諒に絡んでいると、茜と優が帰ってきた。
「ただいま!いっぱい買ってきたよー」
「お前手ぶらじゃん」
「優は男前で優しいからね…私が持ってたら俺が持つよって言ってくれたの」
「優甘やかすな。こいつは女じゃない」
「春翔失礼だろ?茜はちゃんと女の子だよ」
「優好き!結婚しよ!」
「じゃあ、鍋作ろっか」
茜のプロポーズには反応せず優がそう言う。茜が「優酷いよ!」と怒った。
野菜を切ったり、具材を鍋の中へと入れ込んだり、味付けをして煮込んだりと準備する。煮込み終わると春翔が鍋を慎重にテーブルの真ん中に置かれているカセットコンロへと運ぶ。鍋の蓋を開けるとそこには熱そうに湯気をたてる具材が沢山。肉団子や豚肉、キャベツや大根、きのこや白菜。どれも美味しそうにグツグツと音を立てている。みんな「おお!」と声を上げた。
「いただきます!」
みんなで手を合わせると優が気を利かせて取り分けてくれる。湯気が天井に向かって立ち上げていて、みんなといるこの空間を更にワクワクさせていく。熱々の具を口の中へ運ぶと、しっかり味が染みていて美味しい。
「優しい味する…涙出そう…」
「なんでだよ」
「本当に美味しいね」
口々に感想を述べながらどんどん口の中へと運んでいく。それと同時に体も温まっていくのが分かった。
「やばい、幸せ」
「食べてるときいつも言ってんじゃん。豚?」
諒が茜に向かって冷たい言葉を放つ。
「辞めろ、豚じゃないだろ。どちらかといえばイノシシだ」
「てめぇ注意できる立場じゃねえんだよ」
注意した春翔に茜が睨む。
「茜は怜さんのためにダイエット頑張ってるんだよね?」
私がそう言うと茜が「そうだよ」と頷く。
「ダイエットって何か知ってる?」
「もう辞めなよ。茜が可哀想だろ?」
「優おかわり」
「は?自分でやれよ」
「さっきやってくれたじゃん」
「お前は俺に甘やかしてもらえると思ってるだろ。いい加減厳しくするつもりだからな」
そう言いながら諒のお皿を取って新たに具材を入れてあげている。
「優。早速甘やかしちゃってるよ」
「え?…無意識…」
「お前無意識はやばいぞ」
春翔が心配そうに優を見るその姿がなんだか面白かった。
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「んー、美味かった!」
食べ終わった鍋の中は空。美味しかったのもあり、うどんやお米を入れたりして汁まで美味しく頂いた。
「幸せだった!」
「まだ幸せでいてよ」
茜に優が眉尻を下げながらそう言う。
「明日からまた地獄が始まるー…」
学校という現実にみんなでため息をつく。
「でも、あと少ししたら長期休みじゃん。それまでの辛抱だよ」
「卒業祝いにみんなでプチ旅行したいな」
「え!それいいじゃん!しようよ!」
「優とも簡単に会えなくなっちゃうしね」
「そんなこと言ってもどこ行くの?今からじゃ他の県とかお金ないから行けないし」
諒に言われてみんなで考える。
「気分だけ味わうのもいいんじゃない?この前ホテル行ったから次は旅館行くとか」
茜の提案にみんなも少し考える。確かに楽しそうだ。
「私はあり」
「俺も行ってみたい」
「優がそう言うならそれでいいんじゃね?」
みんな賛成したようでプチ旅行モドキは旅館に行くことに決定した。
「楽しみができたから頑張らなきゃだな」
このときはまだ想像もしていなかった。卒業を目の前にあんなことになるなんて。
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