武将 古田織部 第13話 体が“武家の若者の線”に変わり始める
稽古が終わるころ、
陽は高くなり、
槍場の土の上に落ちる影が短くなっていた。
若衆たちは槍を返し、
それぞれの家へ戻るために散っていく。
重然は少し遅れて槍場を離れた。
歩きながら、
自分の足がいつもより静かに地面を踏んでいることに気づいた。
土の感触が、
朝よりもはっきりと足裏に伝わる。
列で歩いたときの歩調が、
まだ身体の中に残っている。
家の裏手の細い道を進むと、
風がひとつ吹き抜けた。
重然の袖がわずかに揺れ、
その揺れが肩から背へ、
静かに伝わっていく。
身体の中に一本、
細い線が通っているように感じた。
一人だけの稽古では、
足も腕も、
自分の中だけで動いていた。
だが今日は違う。
列の中で揃えた足の幅、
弓を引いたときの肩の高さ、
槍先の揃った線。
それらが、
重然の身体の中に
静かに残っている。
家の前に着いたとき、
重然はふと立ち止まった。
自分の立ち姿が、
いつもより少しだけまっすぐになっている。
背の中心に、
細い芯が一本通ったような感覚があった。
それは、
父に言われて立てた背筋ではない。
列の中で自然に立ち上がった線だった。
重然は静かに息を吸った。
今日の稽古で、
身体のどこかが変わった。
足の運び、
弓の高さ、
槍先の揃い。
それらがひとつにまとまり、
身体の中に新しい線を作っている。
“武家の若者の線”。
重然はその線を、
まだ言葉にはできなかったが、
身体の奥で確かに感じていた。
家の中へ入る前、
重然はもう一度だけ背筋を伸ばした。
その動きは、
幼いころのように意識して伸ばすものではなく、
自然に立ち上がる線だった。




