武将 古田織部 第12話 槍の扱いを“隊”で習う
槍場は、弓場よりも広かった。
地面には長く踏みならされた跡があり、
そこを何度も往復した隊の線が、
薄く残っていた。
若衆たちは槍を受け取ると、
横ではなく、縦に並んだ。
列ではなく、隊になる。
重然もその隊の中に立った。
槍の柄は思ったより太く、
手の中で静かに重さを主張してくる。
「槍先、揃えろ。」
年長者の声が落ちると、
前の者の槍先がすっと上がった。
その高さに合わせて、
後ろの者たちも順に槍を上げていく。
重然も槍を持ち上げた。
前の槍先と自分の槍先の間に、
細い空気の線が一本通る。
その線が揃っているかどうかで、
隊の形が決まる。
「前へ。」
隊が動いた。
槍先が揺れないように、
肩と腕を固める。
足は歩調のまま、
上半身だけが静かに前へ伸びる。
重然は、
槍の長さが“自分の身体の外側”に
もうひとつの身体を作るように感じた。
一本の槍が、
隊の中で十本の線になり、
その線が前へ進む。
「止まれ。」
隊が一斉に止まる。
槍先がわずかに揺れ、
光がその揺れに沿って細く走った。
年長者が言った。
「重然、少し高い。」
重然は息を整え、
槍先をほんの指一本分だけ下げた。
前の槍先と、
その前の槍先と、
さらにその前の槍先が、
一本の見えない線でつながる。
その線に自分の槍先が
ぴたりと吸い込まれる瞬間があった。
「よし。」
年長者の声は短かったが、
重然の胸の奥に静かに残った。
「横へ。」
隊が横に動く。
槍先を揃えたまま、
身体だけが横へ滑るように移動する。
土を踏む音が、
前から後ろへ、
細い波のように伝わる。
重然は気づいた。
槍は、
一人で振るものではない。
隊の中で、
槍先の高さ、
歩幅、
呼吸が揃ったとき、
初めて“槍の線”が立ち上がる。
その線の中に、
自分の身体が静かに組み込まれていく。
重然は槍を握り直した。
手の中の重さが、
さっきよりも少しだけ軽く感じられた。




