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武将 古田織部 第1話 山あいの家
天文17年(1548年)の春。
山の斜面に沿って、古田家の屋敷が建っていた。
朝の光が屋根の端に当たり、板の色がゆっくり明るくなる。
裏の竹林では、細い幹が風に押されている。
竹の先が触れ合い、短い音が続く。
家の前には川がある。
雪解けの水が石に当たり、低い音を出していた。
水の表面を細い光が走り、石の上に細い模様を作る。
その川のそばに、幼い織部──古田重然が立っていた。
まだ六つほどの年。
足は動かず、視線だけが水の上を追っている。
光が流れる。
石の上の明るい部分が細く伸びる。
風が吹くと、水の表面が少し乱れ、模様が形を変える。
重然はその変化を見ている。
川の音も、竹の音も、耳の奥で続いているだけだった。
「重然、またそこか」
縁側から、姉の声がした。
重然は振り向かない。
光の細い線が石の上を移動していく。
その動きを見逃したくなくて、息が浅くなる。
姉が近づいてきた。
足音が土の上で止まる。
「行くよ」
短い声。
重然は川の表面をもう一度だけ見た。
光が沈むように消えていく。
その消える瞬間を目で追ってから、姉のほうへ歩き出した。
家の柱のそばを通ると、柱の色が朝の光で変わっていた。
明るい部分が少しずつ移動している。
重然はその位置を確かめるように、柱の前で足を止めた。
姉が振り返る。
「重然」
声が届くと、重然はまた歩き出した。




