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異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第3章 黎明期 フェアリーバード編

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序章

季節の変わり目を告げる寒空の風物詩の空っ風が、大地の湿り気を伴った微風に変わり始めた頃。

灼熱の太陽はとっくに影を潜め、月光が優しく闇夜を照らしている時間帯。

この世界は月の光に照らされていた。


美容院『アンジェリ』ではジョニーこと、神野丈二が一人黙々と作業をしていた。

水が使い易い様にとシンクの脇で、研ぎ石にハサミを滑らせている。

何度も水を掛けては、ハサミを滑らせていた。

全く力は入っていない、ゆっくりとじっくりと刃先を滑らせている。

ハサミを滑らせる度に、刃先の状態を確認していた。

その視線には情熱と熱意が込められている。

今のジョニーには誰かが話し掛けても、その声は届かないだろう。

それ程集中力を高めて作業に当たっていた。

その様は熟練の職人の所業である。


時折、一瞬にも満たない瞬間に見せる表情は、ハサミに何かを宿わせる様な、そんな想いを感じさせた。

いや、そんな生易しいものではない、魂を込めているかの様な気概を纏っていた。

これぞ正に精魂込めるである。

研いでいるハサミに自分の魂を分け与えている。

そんな神々しさを感じる。

集中を超えたその先の、云わばトランス状態に至っている。

集中と緩和、相反する二つがここに同居していた。

何を想い、何を考え、何を込めているのだろうか・・・


その横顔からは様々な想いが想起させられた。

それは決して消極的な否定的な想いではない。

積極的な肯定的な想いであろう事は確かだ。

熟練の職人が魅せる、想像以上の何かがそこにはあった。

物質的であって、そうで無い何か・・・

常人では計り切れない、観えない何かがそこには存在していた。


やっと手を止めると、ジョニーがふと呟いた、

「ふう・・・これで癖は無くなっただろう・・・」

その後、ウィックを相手に何度もそのハサミの切れ味を確かめている。

少しでも癖がつかない様に、細心の注意を払いながら、角度を気にしてハサミを入れて、その切っ先や切った髪を確認している。

まだ集中力は切れていない。

ここが山場だと更に集中力が増している。

鬼気迫る表情を浮かべていた。

最後に一枚の白い紙を取り出して、切れ具合を確認して仕上げとなった。


そして納得がいったのか、こんな事を言い出した。

「よし、出来たな・・・」

満足げな笑顔だった。

振り返ると時計を眺める。

「やっば!・・・もうこんな時間なんだ・・・」

そそくさと片付けを行うと、裏口から消え去っていくジョニー。

どうやら時間を忘れて作業に没頭してしまっていたみたいだ。

その顔には満足そうな口元が張り付いていた。


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