↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界美容院Angeli  作者: イタズ
第2章 成長期 王冠の呪い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/129

1周年

本話で第2章が完結します。

お楽しみください。

晩餐会は佳境を迎えていた。

お陰様で食事を摂れたので、俺のお腹も落ち着きを取り戻したよ。

食事の味はまあまあ。

伯爵家の食事ともなれば、それなりに手が込んだ物が多かったよ。

印象としては牛乳や山羊の乳を使った料理が多かった。

メイデン領は乳製品が特産品だとマリオさんが教えてくれた。


手土産騒動は収まり、場が落ち着き出した処に、壇上に伯爵が登壇した。

場慣れしているだろう、通常営業感が半端ない。

伯爵ともなれば、こういった晩餐会でのスピーチは慣れているのだろうな。

俺にはスピーチは・・・気が重いな。

出来なくはないだろうが、気乗りはしない。

緊張して噛んじゃうかも・・・


全員が姿勢を正し、伯爵に向き直る。

伯爵が場の空気を感じ取り、注目が集まっているのを確認している。

一度全体を見まわしてから伯爵のスピーチが始まった。


「参加者の一同、今日は当家主催の晩餐会に参加頂きありがとう、礼を言うぞ」

遠慮気味に拍手が起こった。

スピーチの最初はこんなものだろう。

それを手で制して続ける伯爵。


「国王様がメイデン領に来られてから凡そ一ヶ月以上が経った、国王様はこのメイデン領をご視察なされて、賛辞を送って下さった」

再び拍手が巻き起こった、先程よりも大きく。

それはそうであろう、国王直々にお褒めの言葉を下さったのだ。

誇らしいに決まっている。

でもこの参加者達は領民なのだろうか?

聊か疑問だ。

だって俺に名乗りを上げた人達は、聞いたことがない領の名を語っていた人もいたし・・・

結局の所、参加者達はどこの誰なのかはよく分からない。


拍手が鳴りやむことを確認してから伯爵がスピーチを続けた。


「国王様、こちらへお越しください」

この発言を受けて国王が登壇した。

それを再び拍手で迎える一同。

国王は軽く手を挙げて受け入れている。

国王はいつも以上に優しい笑顔をしていた。

お土産がかなり嬉しかったみたいだ。


「国王様は三日後に王城へとお戻りになられる」

俺は隣のライゼルをチラ見する。

特に表情に変化はなかった。

国王が帰還することは、もう受け入れているのだろう。


「長きに渡るご視察、ありがとうございました」

伯爵が深々と頭を下げる。

何が視察だ!只の禿げ治療じゃねえか!と言いたくなる。

まあ言わないけどね。

でも視察だ何だと取り繕わないといけないんだろうね。

立場ある人だしさ。

あー、やだやだ。


「数ヶ月に渡る視察は実に有意義であった、メイデン領は余の誇りであるぞ」

この一言に場が揺れる。


「おおー!」


「有難いお言葉!」


「頑張った甲斐があった!」


「誉れ高い!」

その様をにこやかに眺める国王。

新調された王冠がお似合いだ。

ん?この反応を見る限り本当に視察は行っていたみたいだな。

まあでもそうか、家のお店に居ない時間の方が長い訳で、何もずっと遊んでいるなんて出来ないだろうしね。

国王も働いていたという事だね、お疲れ様です。


「皆の者、今後もベルメゾン伯爵を盛り立てておくれ」

この発言を受けて、参加者に向けて伯爵が軽く頭を下げる。

そこに再び拍手が贈られた。




伯爵が手を挙げて場を制した。

これまでと雰囲気が代わり、引き締まった表情をしている。

視線を全体に向けてから伯爵が徐に語り出した。


「このメイデン領は、今大きく舵を切ろうとしている」

ここで一度溜を作る伯爵。

随分と芝居がかっているな。

これが伯爵のスピーチ術か、為になるなあ。

俺には出来ない芸当だな。


「それは主にサービス業全般に置いて大きく変わろうとしている事を、皆なは御存じだろうか?」

俺の隣でマリオさんは大きく頷いている。

俺はいまいち分かっていない。

何のことやらである、何がどう変わっていると?


「その中心にあるのが美容院『アンジェリ』だ」

はい?何の事ですか?

伯爵は俺に視線を送ってくる。

何なんだよ、止めてくれよ!

俺にはさっぱりなのだが?

俺を巻き込むなって!


俺は掌を上に向けて、軽く手を挙げた。

所謂分かりませんのポーズだ。


「なんだ?ジョニー店長は知らないのか?」

今度は首を振って答えてみせた。

分かる訳無いでしょう・・・不意打ちは止めてくれよ・・・伯爵・・・


「『アンジェリ』でのサービスはお手本とされているのだぞ?」

ああ・・・そう言う事か・・・

それは何となく聞いていたよ。

でもそんなにインパクトのある事なのか?

領が舵を切るって・・・大袈裟でしょうよ。

美容院『アンジェリ』が領地の収入を押し挙げているとでも?

それなりにタックスリーさんに支払っている自覚はあるが・・・

でもあくまで、いち美容院にそれほどまでの貢献は無いと思うのだが?


「例えばおしぼり、それにモニター、そしてそこから派生した試食。これらの文化がサービス業を中心に取り入れられている。そして極め付きは接客姿勢だ。他にも食事については大きく変わりつつある」

うーん、なるほど、ちょっとだけ分かる。

確かにおしぼりの文化はこの世界には無かった。

それにモニターに関しては、マリオさんが滅法関心して、広めると公言していたからね。


食事については実は何度かお客さんから、調理法等を相談されたことがあったから、簡単に提案はしたことがあったが、どうやらいつの間にか実用化されていたみたいだ。

これは流石に知らなかったよ。

ていうか教えてくれよな、お客さん達もさ。

連れないなあ・・・


「そして恥ずかしながら、私も美容院『アンジェリ』に救われた一人である事は、皆もよく存じておろう?」

何人もの人達が頷いていた。

フェリアッテの一件は語り草になっているみたいだし。

知ってて当然かな?

ここは俺も頑張りましたよ、ええ!

遠慮はしませんよ!


「温泉が沸いたのは大きな功績だ!」

それを言うかねぇ・・・ていうか、それはいかんだろう。

だってこれは本当にたまたまの出来事であって、俺の実力でも何でもないんだからさ。


運も実力の内なんて言うけど、それは方便であって、今回の俺には当て嵌まらない。

温泉を引き当てたのは、宝くじに当たったのと大差ない。

宝くじを当てて、実力の内だなんて思う人っているのだろうか?

只の運だよ、運。

すまんが俺はそうとしか思えんよ。

実力の内だと思っている人は、直ぐに大金を使い果たして、生活を破綻しているだろうしね。


でも言いたい事は分かりますよ、実際に市井が出来つつあるのは分かっている。

どういうことかというと、温泉という娯楽は人を集める。

要はそれに伴って温泉街が造られる訳だ。

温泉目当てに人が集まり、そしてその人を目当てに商店が立ち並び、やがてそれが街となる。ここに温泉街の出来上がりだ。

実際美容院『アンジェリ』の周辺では、沢山の商店や飲食店等が着工されて、賑やかになっている。


それを早々に察知したマリオさんなんかは、土地を買い漁っていたしね。

ここの土地の価値は格段に跳ね上がると踏んで当然。

俺も土地を買おうかと真剣に悩んでしまったよ。

俺は美容師だからそんな事はしないけどさ。

でも間違いなく儲かると分かっていると手を出しそうになる。


俺は既に温泉を掘り当ててしまったから、ここは欲張らないことにしたよ。

だってこれ以上欲張ると、悪い事が起きそうじゃない?

小市民なんでね俺は・・・上手く行くことは嬉しいが、身の丈に見合っていない上手さは、返って怖くなるんですよね。

そしてその土地を売買しようとしているマリオさんに、俺はまた要らない知恵を貸していた。


ここは売ってしまうのは一時的な利益にしかならないから、賃貸にしたらどうかという提案をしたのだ。

利回りで10%ぐらいでも充分に借り手は居ると思ったからだ。

利回りは・・・銀行屋さんのお客さんに教えて貰った考え方なんですけどね。

ちょっと説明すると、利回りとは投資金額に対する利益の割合のことである。

この利益には利息だけでは無く、投資商品を売却した場合に得られる売却損益も含まれる。

ちょっと分かりづらいかな?


簡単に説明すると、土地の金額が1000万円の物件で、年間の賃料収入が100万円の場合、利回りは10%となる。

また売却損益とは取得した土地を、売買した場合に得られる利益や損失を示している。

今回の場合、マリオさんは購入した土地の金額の10%が、年間での賃貸料とすることと、万が一の場合、その土地を手放す際には、購入した金額以上で売買できることは間違いが無い為、一時的な利益を得るより、将来的に得られる金額を優先しませんか?という儲け話である。

どうにもお金に困ったらいつでも売りに出せるのだからさ。

それにどう考えても土地の値段が下がる事は想像できない。

市井を揺るがす様な事件が起きれば話は別だろうけど、そんな事は想像出来無いでしょうよ。


伯爵が言葉を繋ぐ、

「それに視察に訪れる者は何も国王様に限った話ではない」

へえー、そうなんだ。


「何人もの貴族達がオフレコでこのメイデン領を訪れている」

ん?どうしてかな?

国王が伯爵の隣で頷いていた。


「あの北の蛮族達ですらも、変装して訪れたという情報まである」

んーん?なんだかご大層なお話になってきておりませんか?

これまでの話だと、暗に視察に訪れたり、密偵が暗躍しているってことなのか?

そういうことだよねえ?違うかい?


あれ?家にそんなお客さんが居たのか?

思い当たる節は特にないけど・・・でも相手もプロだ。

悟らせないなんてお手のものなのかもしれないな。

まあでも、特に探られても困る事なんて家には何もないけどね。

あっ・・・神棚があったか・・・ここは知られたくない・・・万全のガードを敷いているから問題無いけどね。


「して、先ほども話した通り、その中心には美容院『アンジェリ』がある。ジョニー店長こちらに来てはくれんか?」

はい?俺も登壇するのか?何で?

スピーチとか嫌なんだけど・・・

でもこれだけの人達が居る中でこれを断る勇気は俺にはない。

雰囲気に飲まれそうだよ・・・

しょうがないなあ・・・

行くしかないよね。っち!


俺が登壇すると今日一の拍手が巻き起こった。

そして怒号とも取れる程に参加者達が騒ぎ出した。


「ジョニー!!!」


「店長!!!」


「よっ!美容師!」


「こっち向いてー!」

何だってんだ?

ちょっと度肝を抜かれてますよ俺は。

どうしたらこうなるの?

たぶん俺は今、顔が引き攣りまくってるんだろうね。

伯爵と国王まで拍手しているよ。

いい加減にしてくれよ。


拍手が止みそうにないから手を挙げて答えることにした。

でもちょっと嬉しくなってきたな、なんだろうこれは?

興奮してきている?

てか家のスタッフ達、騒ぎ過ぎじゃないか?

ライゼル!お前声がデカいんだよ!

シルビアちゃんは手を振っているし、珍しくクリスタルちゃんまで興奮しているぞ。

マリンヌさんまでピョンピョン跳ねてるし。

あっ!モリゾー!お前鼻くそほじってやがったな!


「ジョニー店長、先ずは感謝を述べたい」

伯爵が真っすぐに俺を見つめる。

おおっ!真面目にならなくては・・・


「感謝ですか?」

何のこと?覚えはありませんが?


「そうである、この領地が他領に比べて発展しているのは、美容院『アンジェリ』のお陰と言えるからだ。ジョニー店長!この領地にお店を構えてくれてありがとう!」

この一言を経て、蜂の巣を突いたかの如く騒ぎが大きくなった。


「『アンジェリ』!」


「ありがとう!!!」


「私の髪もセットしてー!」


「俺は白髪染めがしたい!」

変な発言も混じっているが何だってんだよ。

ちょっと騒ぎ過ぎだって。

いい加減、勘弁してくれよ。


そして不意に俺の手に紐が握られた。

ん?これはいったい・・・

振り返るとクロムウェルさんが、俺の背後から俺に紐を握らせていた。

ここでそれをやるのかい?

茶目っけたっぷりな表情でこちらを見ている。

いや、驚いてはいないが、なにこれ?

そう言おうかと思った所に国王が盛大に声を挙げた。


「美容院『アンジェリ』一周年おめでとう!」

そしてそれを皮切りに、おめでとうコールが始まった。


「おめでとう!!!」


「一周年!!!」


「おめでとう!!!」


「一周年ありがとう!!!」


ウヒョーーー!!!

これはやられたーーーー!!!

誰だ犯人は?

どうせライゼルだろう。

くっそう!嬉しいじゃねえかよ!!!

俺は勢いに任せて、力を込めて紐を全力で引っ張った。


パッカーン!と音を立ててくす玉が割れる。

紙吹雪と共に、垂幕が下りてきた。

俺の頭上目掛けて・・・

あっぶな!

垂幕の下部の金属が頭に当たるかと思った・・・

流石にビビったぞ。

カシャリ!

そんな音がした様な気がした。


俺への賛辞が続く。

そして花束を抱えた伯爵と国王が俺に花束を手渡す。

声援に花束を掲げて俺は答えた。


「皆!ありがとう!」

幸せに満ちた時間がそこにはあった。

こんな盛大に一周年を祝って貰えるとは思ってもみなかった。

照れよりも嬉しさが先に立った。

喜びと感謝、賛辞と賞賛。

俺は愛されている事を実感した。

こんな異世界生活も悪くない。

そう想っていた。




その光景を一人こっそりと撮影していたシュバルツ。

後日、ライゼルに送られてきた王妃達の写真と共に、一枚の写真がジョニーに宛てに同封されていた。

写真には、迫りくる垂幕にビビりまくるジョニーが、ありありと映っていた。

目ん玉が飛び出るぐらい驚いている、これは笑える。

そして写真の裏側には「美容院『アンジェリ』一周年おめでとう」と記されていた。

とても愛嬌のある、達筆な文字で・・・



第2章が完結しました。

まだまだ作品は続きます。

少々執筆ペースが落ちるかもしれませんが、ご愛敬と受け止めて頂けますと幸いです。

今後とも本作品を御愛読頂けますと、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。