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でも、現状、精霊を呼び出すのは不可能だ。何故ならば、わたしがろくに精霊を呼び出す方法を知らないからである。
ある程度独学の部分もあるが、基本は師匠に魔法を教わっているので、師匠から教えを受けていなければ知らない。
うっすらとは分かるのだ。なんとなくの召喚方法は分かるが……なんとなくで呼び出しに応じてくれるほど、精霊は優しい存在じゃない。
ましてや、魔法という技術が失われて相当立っている現在だ。ほとんどの精霊が眠りについて、召喚の声すら届かない可能性が高い。
「せめて、精霊語の文字さえ分かれば……まだ可能性はあったんですけど」
こちらは召喚するというよりは生み出すという表現が近いような、ごり押しの作戦である。まあ、わたしは精霊語なんて勉強したことがないので、当然習得していない。精霊語の文献が残っているかは知らないが、イエリオさんに見せて貰ったものの中には、近いものすらなかった。
精霊に頼らないといけないような魔法は、基本的にかなり高度なものが多く、同時に危険も伴うので、師匠がわたしに教えたがらなかったのだ。なにもこれはわたしに限ったことではなく、弟子全員に、師匠は教えるのを渋った。
師匠から、精霊の召喚を教わったのは、数多くいる弟子の中でも、ほんの二、三人しかいない。
どれもこれも、方法がないわけじゃないが、現実的じゃない上に成功率も低い。いっそ、後遺症が残らず治ってくれることを祈るのが一番なんじゃないかとすら思える。
ちなみに、わたしを呼び出した希望〈キリグラ〉を使えば、面倒な過程や変なしがらみもなしに、望む結果だけを得られる。今ここで、お通夜のような空気で悩んでいるのが馬鹿らしく思えるほど、あっさりと。
でも、そう何回も叶わないから奇跡の魔法と呼ばれているのだ。
あれは一度に一回しか願いを叶えられない魔法だが、一人の人生に一度しか発動しない魔法ではない……はずなのに、二回も希望〈キリグラ〉を成功させた人間はいないと言われるほどの成功率――いや、そもそも、成功しないのが普通だと言われるほどの魔法なのである。
この方法が一番現実的じゃない。わたしが今から勉強するほうがよっぽどマシだと思える。
そう説明すれば、二人とも、もう何も言わなかった。いや、何も言えないのだろう。
本当に、希望がないのだと、分かってしまったから。
「――とにかく、明日、フィジャの店に連絡をしましょう。今日は私たちも、休まないと……」
今から横になったところで、果たして眠れるのかは分からないが、イエリオさんがそう言った。
イエリオさんも、イナリさんも、明日は仕事らしい。イエリオさんは、わたしが解明した文献の調査で仕事が忙しく、また、大きなトラブルがあったとかで、残業を断って定時に上がるか、少し抜けるくらいならまだしも、休むのは難しいらしく、イナリさんもイナリさんで納期がいくつも立て込んでて、イエリオさんと似たり寄ったりらしい。
そんなわけで、何か進展があればすぐ駆けつけるから、とだけ言われ、わたしがフィジャのお店へと出向き、連絡を入れることとなった。




