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病院から一番近い、フィジャの家に、イエリオさんとイナリさんも、一晩泊まることになった。フィジャがすぐ目を覚ましてもいいように、あるいは、何かあってもすぐ駆けつけられるように、ということで。
それに、今、一人になっても、落ち着かなくて、不安で、駄目になってしまいそう、というのが、わたしだけでなく二人もそうなのが、なんとなく分かる。皆、一人になりたくないのだ。
勝手に泊まらせることになったが、フィジャも怒らないだろう。
ついこの間は、楽しく騒いで飲み会をしていたのに、今はとても空気が重くて、あの晩のことが遠い昔のように思えた。
重い空気の中、イナリさんが口を開いた。
「――なんとか、ならないの」
らしくもない、わたしに縋るような目と、声音。なんとか、とは、なんて、聞かなくても分かる。
魔法でどうにか出来ないのか、ということだろう。わたしのことを怪しい奴、と言ったり、魔法を信じなかったりしても、こういうときはすがりたくなってしまうのだろう。
その気持ちは、痛いくらい分かる。だって、わたし自身、どうにか魔法で解決できないか、考えてしまうのだから。
結論から言えば、不可能ではない。でも……。
「難しい、と思います……」
不可能ではない。でも、現実的でもない。
「治癒魔法を覚えているので、不可能ではないです。多分、後遺症が残っていても、治すことは出来る……と、思います」
でも、それはわたしに医療の知識があれば、の話だ。でも、医療の知識なんて、わたしにはこれっぽっちもない。
第一、わたしはこの国の、この世界の文字がほとんど分からない。その辺の子供の方が、よっぽど読み書きが出来るだろう。
言葉を覚えて、医療の知識を身に着けて……果たして、何年かかるのか。
わたしがそう言うと、イナリさんは暗い顔でうつむいてしまった。彼も、本当は最初からほとんど無理であることに近いと、分かっていたのだろう。
だって、魔法でパッと治せるのなら、わたしが肋骨にヒビを入れてしまったときにそうしていただろうから。
「他に方法はないのでしょうか……」
それでも諦められない、という風に言うのはイエリオさんだ。
――治癒魔法以外で取れる方法としては、まだ二つほど候補がある。でも、これはどちらも、治癒魔法以上に現実的じゃない。
一つは、治癒ではなく修理の魔法で『直す』方法。正しく『直る』まで、修理と破壊を繰り返せば、いずれかは最初……つまり、傷を負う前の状態に戻るはずだ。
でも、そんなの絶対に出来ない。どう考えたって非人道的だし、せめてもの麻酔すらすることが出来ない。魔法を隠したい以上、医者にどう説明して麻酔をかけてもらうと言うのだ。
もう一つは、精霊を呼び出すこと。
魔法を使う人間以外にはいまいちピンとこないらしいのだが、どんな魔法にも、魔法を生み出した『親』というものが存在する。分かりやすく言えば、属性だろうか。
魔法使いが研究して複雑になった魔法が主流ではあるものの、どれもこれも、精霊が『産んだ』魔法が基礎になっている。
そして、精霊は不思議と、魔法使いがどう研究して魔法をいじくろうとも、精霊は魔法を正しく深く理解し、絶対的な正解を知っている。
だからこそ、精霊を呼び出せれば、本来医療知識と合わせて初めて正しく使える治癒魔法を、医療知識がないままに『正解の治癒魔法』を使うことが出来るのだが……。




