第1話
//AWIWS起動∇
//視聴希望申請確認…………受理
//申請者のジェム…………確認、認証完了
//申請者のジェムシェーフ…………確認、同期完了∇
//接続元:Eamond332-4657-8934758346-456745:3928345
//接続先:Vipha682-5682-3469203468-149576:4306934
//ジェム励起…………24MGsで安定
//申請者との接続…………オンライン
//時間軸設定…………完了∇
//心理状態伝達機能…………オンライン
//言語処理…………完了
//視点固定…………完了
//その他各種調整…………完了∇
//AWIWS起動完了
//申請番号:Ci-Eamond332=Vipha682-7521812002-A
Δ∇
天頂に輝く太陽が、地平線まで伸びる砂漠を焦がしている。その丘の一つに、二人の男がいた。どちらも黒く重厚な戦闘服で全身を完全に覆い、一人は伏せて、もう一人は立ったまま、はるか彼方を見つめている。そのうちの一人、腕組をして立っている背の小さい男が口を開いた。
「ターゲット以外の塊は見受けられないよ。そのまま狙撃して大丈夫だ」
「了解」
もう片方の男はそう答え目を見開いた。手には幾何学模様が彫られた狙撃銃が構えられていて、スコープの先にはかつて都市だっただろう廃墟が映っている。そしてその中心、廃ビルの屋上では不定形の物体がうごめいていた。
塊と短躯の男に呼ばれた物体は黒っぽく、角のないナメクジのような見た目をしており、そのゲル状の巨体を震わせてゆっくりと這いずっている。
本当に気持ちが悪い。
狙撃銃を構えた男、ティル――ティラーハ・ウェイク――は胸中で毒づいた。
不快感を覚えながらも、ティルは視界に映る様々な情報――特に視界干渉魔法によって映し出された各種データ――に視線を向ける。そこには狙撃に必要なデータが示されていた。塊までの距離は約一キロメートル。予想弾着地点を示す緑色の円は塊のちょうど中心部分に表示されている。風は影響のない範囲の範囲に収まっていて、湿度も非常に低い。
良いコンディションだ――。ティルはそう考え、最後にラーハと呼ばれる魔法素が銃に充填されていることを確認する。そしてティルは息を止め、引き金にかけた指を引いた。
その瞬間、銃の模様が青白く発光し銃口から同色の光が射出された。それは塊の中心部分へと吸い寄せられ、塊に当たった瞬間、より強い光を輝かせる。その光に包まれた塊は自身も赤紫色の光を出しつつ一瞬で数十分の一の大きさになり、光がなくなるとそこには黒くて、硬そうな正方形が転がっていた。
「……命中。ターゲット、固体化。蛍光分析結果はいるかい?」
短躯の男は、視線をティルへとむけつつ言う。ティルは狙撃銃から目を離した。
「いらねぇよ。そもそも、塊が死んだときに出す光なんか調べても何も分からねぇだろ」
「いや、まあそれはそうだけどさ……。なんかこう、分析したくなるんだよ」
短躯の男の目はフルフェイスヘルメットで覆われているため確認することはできない。しかし、その目は非常に輝いているようにティルには感じられた。
「なるか。あのクソ塊野郎が出す光まで分析するとか、アレン、お前もう末期だな」
アレンと呼ばれた男はその言葉に苦笑する。
「おいおい、そんなこと言わないでくれよ、ティル。蛍光分析は素晴らしいよ? 僕たちの視界にどんな光が入っているのか気にならない? 後、そうだ。今思い出したけど、塊が出す光からもわかることはあるんだよ。君が打つようなラーハの弾丸は、塊を構成する分子の振動を極端に減衰させると同時に電子も励起するから、その蛍光を分析することである程度は塊の組成がわかるし、それによってそいつがどんな有機物を侵食してきたか……」
「いくら語られても、俺が蛍光ファンになることはないから安心しろ」
ティルはアレンの話を遮り、呆れた顔で言った。
その目線は狙撃銃へと向けられており、すでに撤収準備を始めている。
「とっとと帰るぞ、アレン。お前は荷物がないんだから、クイーンに報告でもしてくれ」
「うーん。もう五年も相棒なんだから、少しくらい興味を持ってくれてもいいのに」
アレンは残念そうにしつつ、通信魔法を起動する。
視界に接続中の文字が映され、数秒後に女性の顔が表示された。その顔は非常に整っていて、美しい。艶やかな栗色の髪は肩口で切りそろえられており、少し釣り上がった目からは凛々しい印象を受ける。
アレンはその顔を見るたびに、彼女から高山に咲く一輪の花のような印象を受けていた。そんなことを考えつつ、アレンが報告を始める。
「エリス団長、アレン・フルオリソンです。件の特殊任務、無事終了しました」
エリスと呼ばれた女性は、ほんの少しだけ表情を緩めて返答する。
「了解した。対塊軍のほうから依頼された特殊任務だったが、特に変わったことはなかったか?」
「いえ、特には。それにしてもこの依頼、なんでうちに来たんでしょうね? 指定された塊を一体だけ固体化させろ、後処理もしなくていいなんて……。言っちゃなんですが、もっと実力の低い傭兵組織に回されるべき依頼だと感じました」
アレンは不思議そうな顔をしながら言った。
「さあな。どちらにせよ、私たちが知ることができるものではないからな。まあ、気にしなくていいんじゃないか?」
「そうですか……。まあ、確かに知っても仕方のないことですね。とりあえず、これで報告は終了です」
「了解した。帰りも、油断しないようにな」
エリスはそう言い残して、通信魔法を終了した。そして、アレンの視界から彼女の顔が消える。
「おーい、アレン。報告は終わったか?」
アレンが目を向けると、すでにティルは後方に停めていた小型空中浮遊車に乗って前線基地へ帰還する準備を整えていた。今にも空中に浮きそうな雰囲気を醸し出している。
「ああ、終わったよ。今行くから待っててくれ」
そして、アレンはティルのほうへと歩き始める。




