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挿話 1 志津野 雅

勇者四人衆の一人、志津野雅(シズノ ミヤビ)視点のお話しです。

 久し振りに生徒会の仕事が早く終わった放課後。

 その日は、もうすぐ十月だと言うのにまだまだ残暑が続いていた。

 この高校は九月中に文化祭も体育祭も終わらせてしまう。

 三年に成れば十月から大学の推薦入試や、就職する者にとっては就職活動も本格的になるからだろうか。

 以前通っていた学園は、それこそ幼稚園から大学院まで入っていればエスカレーター式に行ける学校であったからか、十月になっても、それこそ十二月になっても生徒会の主催の様々なイベントがあったように記憶している。


 幼稚園に入る前からの幼なじみである本城勇刀と、そんなエスカレーター式の中等部から外部受験をして入学したごく普通の高等学校。

 入学して1年以上過ぎ、やっとこの生活にも慣れてきたなぁと思える頃には、高校生活も約半分過ぎていた。


 大学以上を約束されていた学校から、こんな所に来た理由は勿論あまり大声で言えない事。

 知る人の殆どいないこの環境に来て、勇刀が本当の笑顔を見せてくれるようになっただけで、私は随分と救われた。

 それに、家の名前で集まってくる友達もどきではない本当の友達ができた事は、もしかしたら事件が起きてくれた事が、私達いや私にとっては物凄くラッキーだったのではないかと思ってしまうくらい。


 そんな幾つかあるラッキーの一つである、家族から離れての一人暮らし。

 純然たる一人暮らしでは無く、世話係が数名一緒に住んでいる訳ではあるが、以前のような何もかも管理しようとする雁字搦めの監視がなくなり、心の重しがなくなったようで身体までも軽くなった気がする。(反面、食事が進み体重は重くなっているけど……)


 今、こちらの生徒会に所属した事がきっかけでできた友人二人、伊勢彩芽と柏木恭子と、勇刀の一人暮らしのため用意されたタワーマンションに来ていた。

 彩芽と恭子揃って苦手な数学を教えると言う名目で……。


 ここに1人くらい男子の友人が居たら、と思わなくもないのだが、いかんせん勇刀の俺様臭がそれを邪魔して、中々同い年の友人が出来ない。

 女子からすればまたそれもカワイイ〜、って所で人気の一つであるけれど、同性である彼等からすると、勉強も運動も容姿も全て敵わない相手には中々友情を築くことが困難なようで、卑屈に服従するか敵わないまでも威嚇するか、全く無視するかの選択しかないらしく、心通わせる男子の友人が1人もいない。


 以前の学園でも難しかったかなぁ、幼なじみは沢山いたけど、両親と家の思惑が学年が上がる程大きくなって男子も女子も純粋な友情が結び辛くなっていった。

 それに伴うように勇刀の俺様臭も強くなり……。今思えばこれも一種の防衛反応なのかも。

 まぁ人のことは言えず、私も勇刀以外の友達は、基本人見知りと自覚のある腹黒その上の氷の微笑(笑)も研ぎ澄ませてぼっち街道一直線だったけど……。

 そんな中でも一人だけ、勇刀の親友だった男子が居た……。

 そうそれに気が付いたのはその親友が去って、いやその親友を失ってしまった後だったけど……。


 夕食までご馳走になって日が幾分短くなった初秋の今、このマンションの特徴であるスケスケのエレベーターから、明かりが灯り始めた街並みを見下ろしながら下まで送ると言う勇刀も合わせて四人で透明な箱に乗り込んだ。

 最上階から下を見下ろす。

 横にあるもう一つの透明エレベーターは下から上がって来ているみたいだ。


 頻繁に来ている私と違って、初めてこのマンションに来た彩芽と恭子。特に彩芽は、上に上がる時も下りる今も、このスケスケが気に入ったみたいで大はしゃぎ。

 くるくると動き回るそれを、高い所が得意でない様子の恭子に取り押さえられたが、その恭子の手を逃れわざとエレベーター内でジャンプした。


 その瞬間‼︎


 足の下からゆっくりと熱は感じないが眼を開けていられないほどの真っ白な光が私達四人を包み込んだ。





 四人共に気を失っていた様だ。目覚めると眼の前にぽっかりと口を開けたまま、気を失っているのか爆睡しているのか、な、彩芽の顔がありびっくりした。


 身体を起こすと、足元に恭子が倒れている。


 真っ白な何もない部屋。


 勇刀はどこに行ったのか頭を巡らすと、丁度背後にあたる所で、私の方に背を向けて立っていた。


 身体に痛みは無かったが、一応どこも怪我をしていないか腕や足を動かしながら立ち上がる。


 改めて勇刀に眼をやると、勇刀はこちらから見えない何かと対峙している様だ。


 ゆっくりと周りを確かめながら近づく。


 勇刀の対峙しているその先には、何もない真っ白な部屋の中でただ一つ、ゆらゆらと漂う青白い、そうまるで人魂の様なものが浮かんでいるのが見える。


 腹黒な現実主義者を自称する私だが、実はオカルトが苦手だったりする。

 その人魂の様な青白いものを見た瞬間、思わず勇刀にしがみついてしまった。


 いつもの私らしくない態度に驚いたのか。それまで厳しい表情を浮かべて眼前を睨みつけていた勇刀が、驚いた顔を浮かべて私を受け止める。


 二人共が眼を離したその隙に、その青白いものは姿を消して、次に視線を向けた時には私達とそう年の変わらない西洋人風の女性が、ゴージャスな椅子に座りくつろいだ様子でこちらに顔を向けている状況に変わっていた。


 あまりに一瞬の出来事で、私達二人共くっついたまま金縛りにあったみたいに固まってしまった。


 それからの事はまるでふわふわと現実味がなく、しょっちゅう場面転換の起こる夢の中で起こった事の様で上手く消化出来ない。


 この四人の中では、一番疑り深く慎重で誰よりも上手く立ち回りが出来るものと思っていたのに、いざと言う時にはお調子者の彩芽にすら私は及ばない事がわかった。


 私は突発的な事にはテンパって殆ど役立たずなのだ。


『召喚された』とか、『これから送られる世界の女神様』とか、『勇者』とか、『魔法』とか……。


 正気に戻った時には、勇刀を始め、ゲーマーを自認する彩芽の主導でステータスなるものを決められ、女神の力の源たる愛するヒューマン達を守るため、悪の手先たる魔族やそれに追随する亜人達を討伐する先鋒に成る為、女神の代行者に当たる神託の巫女の元に送られる事が決定していた。


 そして、元の世界地球に戻るには女神の力の充実が必要であり、それは女神の願い即ちヒューマン以外の亜人達が淘汰される事が必要条件なのだと教えられた。


 平和ボケしていると言われて久しい日本に生まれて、それこそ犬猫すら殺した事がない我々が、その様な事が出来るはずがない!


 無理矢理連れてきてそれは誘拐ではないのか⁉︎


 正常であればそう考える筈なのに、


『勇者として選ばれた貴方方は特別なのです』

『勇者であれば容易い事。心配など全く無用な事です』等々……。


 勇刀や彩芽はさて置き、何時もは冷静沈着な筈の恭子まで、何かに取り憑かれた様に浮かれ……。

 それは私も同じで、疑り深く直ぐには人を信じる事ができない筈なのに、何も躊躇せず、初対面の神託の巫女と言う、言い換えれば誘拐犯の片腕を信じきってしまった……。


 あの時の自分たちは一体どうしてしまっていたのだろうか、と後悔しても後の祭りであったと気が付いたのは、亜人や魔獣をこの手にかけて、レベルが上がり、私の持つスキルのステータス閲覧で、自分達に魅了や隷属魔法が掛けられていると知ったこの世界に攫われて随分と時間が経ったその時だった。







挿話一本目です。主人公視点だけで話を進めるのが難しくなったら、このような主人公以外の視点の挿話等を入れたりする予定です。

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