第 7 話 城下町での買い物
本日 2015・12・17 プロローグ三話を一本にまとめました。
城下町と大きな堀を挟んだ城をつなぐ橋は、常に掛かっている石橋が東西の二本。
城の正面と城下町を二分するようにまっすぐ伸びている大通を繋ぐ南側に掛かる大きな跳ね橋。そして、通常は降ろされる事のない北側の跳ね橋の合計四本がある。
俺が働く事になる『館』や寮は、城の東側に固まってある。
そもそもこのグラオザーム王国の王都は、城を北側の頂点に置くと、城の正面から真っ直ぐ伸びる大通で街を東西二つに分け、城の西側に神殿を頂いた聖なる山を臨み。城の北側には誰も入る事のできない魔の森を置いて天然の守りとしている。
城下は、城に近い所から上級貴族、中級、下級貴族の屋敷が続き、東西の並びでは神殿に近い西側の街の方が上級とされている。
城を含めて、神殿のある聖なる山の麓を掠めながら城下町をぐるりと囲む城壁内の中央にある広場を起点として東西にも大通りが走っていて、城から伸びる南北の大通りと交差するその中央広場で市が立つ事からも、庶民の生活の中心はその辺りで、大きな商店や各種ギルド、行政の出張所もその辺りに有るらしい。
城のお堀が余りにも立派である事からか、我々の生活の場である三の曲輪の館や寮からは街中に出るまでに結構な距離がある。その為、朝夕の通勤(?)時間に合わせて街の中心部に向けて乗合馬車が出ている。
俺たちも、その乗合馬車で街中に出る事にした。
乗合馬車は三の曲輪の寮の前から、東の石橋を渡りほりをぐるりと巡って南の掛け橋に繋がる中央大通りに出る。石畳みの大通りは丁度馬車の車軸の幅で轍ができており、石が削られるほどの時間この地に都が在るのだと、改めて街並みを眺めた。
ただ、サスペンションのない乗合馬車の乗り心地は余りにも悪くて、折角街の様子や、店の話などしてくれたネルケには悪いが、相づちを打つこともできず、下からこみ上がってくるものを抑えるのが精一杯だった。
乗合馬車は中央広場でUターンして、また三の曲輪に戻るらしい。大体の運行時間を聞いて戻る時間を確かめると、ここからもう少し南に下がった庶民御用達の古着屋街に行く。まずこのゼル◯服を金に変えてから、俺の日用品を購入しなければならない。
そう言えば俺はこっちの世界の通貨も知らないんだよなぁ……。
広場に並んでいる露天に掲示されている値段表を確かめる。
(鳥の串焼き一本10Gz…Gz…グラオザームの略か?これでギジーて読むのか?エール一杯20Gz…冷たい水?20Gz…ハンバーガー?30Gz…うーむ…大体1Gz10円位か?)
ウンウン唸って、露店の食べ物を睨みつけていたため腹が空いていて唸っていると思ったのか、パルメに言われたネルケが、俺が他の露店に目が奪われている隙に、鳥の串焼きとハンバーガーを買ってきてくれた。
「一角兎の串焼きと、サンドだよ」
ネルケの分も買ってもらえたからかニコニコ俺に渡してきた。
なんと!鳥ではなくて兎だったよ。それも一角兎!街の城郭の外の草原にたくさん生息しているんだと……。初級冒険者格好の獲物らしい。ハンバーガーと言う言葉は存在しないんだな……。
パルメが飲み物も渡してくれた。
「…ぐわっ……!」
エール?ビール?温くて不味いアルコール飲料だった……。
横で美味そうに飲み干すネルケにびっくり!子供でもアルコールOKなのか?
同じく自然に飲み干しているパルメが訝しげに俺を見た。
「ワタルはエールが苦手かい?」
まぁ、水とアルコールが同じ金額だったらアルコールに行くのかなぁ……でも、このエール?温くて不味い……。
「あのぉ、こう言うの飲みつけなくて……」
ソフトドリンクの方がいいな。生水も怖いし……果汁は無いのかな?
「ワタルはお子様なんだなぁ。じゃあメーロのジュースでも飲むかい?」
笑いながらおれに近づいてきたネルケは俺から飲みかけのエールを受け取ると、屋台から薄い黄色の濁ったジュースを買って来た。
「……!」
思い切って口を付けると、まるっきり搾りたてのリンゴジュースだった。
立って食べるのが普通なのか、その場で食べて飲み物のカップ(使い捨てで無い木彫りのカップ)を戻すと、はじめの目的だった古着屋を目指して歩き出した。
大通りは馬車道(車道?)と一段高くなった歩道に分かれている。車道にはお馬さんの落し物がそこかしこに見えて、あまり清潔に見え無い。城壁のない三の曲輪の堀の内側に植えられている樹木以外、道路沿いに街路樹を植えると言う概念が無いのか、全く緑を見る事が無く、やたらと見晴らしが良いメインストリートは、遠く南の城郭の端まで見渡せそうだ。
貴族や金持ちは洋服はもちろんオーダーメイドで、それ以外の庶民層はあまり種類の無い簡単な既製品か古着になる。
俺の◯ルダ服は、さすが王城品質結構な値段で売れたみたいだ。勿論パルメの手腕に寄ったところが大きいけど……。
小銅貨四枚、大銅貨六枚、小銀貨三枚、大銀貨七枚。7364Gz……73,640円ぐらい。
このお金を持って、下着の上下三組とシャツとズボンも三枚づつ購入する。これは自分の我儘を通してデザインはまぁダサいけど、古着では無い新品を買った。上着とチュニックはデザイン的な事と値段とかを加味して古着を買った。
支給品以外で必要なものはパルメとネルケに聞いて買った。形だけ見たらどういう風に使うのかわからないものもあったりして、すごく呆れられた。
「乗合馬車の時も思ったけど、アンタどんな田舎に居たんだい?火打ちの使い方も知らないみたいだし、なんかすごくちぐはぐなんだよね……」
田舎からここまで出てきたというなら、馬車に乗り慣れていないのはおかしいし、田舎に暮らしていたならなおさら火打石の使い方を知らない事は矛盾している。
そう言うと、パルメはいきなり俺の手を取った。
「ほら、それに手がこんなに綺麗だ」
俺の手を取るパルメの指先は荒れていて、手のひらも女性のものであるがとても逞ましい働く者の手だった。それに比べれば、一人暮らしでバイトをしていたとしても、ただそれだけのとても労働者と言えない、所詮高校生の手だ。
「お貴族様の手だ……」
パルメの後ろから、荷物を抱えたネルケも覗き込むように俺の手を見ている。
「こんなに綺麗な手なのに、すぐ私みたいな手になっちまうよ」
「……でも、俺……」
ここで見捨てられたらどうすればいいのだろう?所持金約7万円。
捨てられた子猫みたいな余程ひどい顔をしているのだろう俺を見て、パルメはひとつ大きくため息をつくと、そっちが泣きそうな顔で、取ったままの手を撫でた。
「理由は聞かないよ。言えない事もあるさ。アンタがお貴族様だろうが誰だろうが、私の元に来たただの野良の子猫だ。私を親猫と思ってなんでも頼っておくれ。明日からビシビシ鍛えて一端のオス猫に育て上げるからね」
所帯を持っているパルメは寮でなくこの城下に住まいを持っていて、毎日三の曲輪まで通っているのだとか。中央広場で俺たちが乗合に乗るのを見送ってから、もう少し下街にある自宅に帰って行った。
ガタガタと揺られながら三の曲輪に帰る道すがら、ネルケが説明してくれた。
俺の纏っている髪や瞳の色合いが庶民のそれでは無く、貴族の者に多い色らしいいから、手の事もあって、俺が貴族の訳ありの落とし胤か何かかと思ったらしい。
そんな事は無いよ、と強く否定しても、薄く笑うだけで真剣に取り合っていない事が伺えて、俺は頭を抱えたくなった。
この世界の庶民として知らない事が山積みなのは確かだし、その世間知らずなところも勝手に俺の出身が訳ありだから(違う意味で)と思ってもらったほうが都合がいいかなと考えながら、日本で見慣れた夜と違い灯のほとんど無いメインストリートを眺めながら、これから始まる異世界での生活に想いを馳せた。
あまりにも長くてくどかったプロローグ三本を一本に纏めました。前のを読んでいた人は色々な設定を読めてラッキーって事で、結構たくさんの事がこれからは裏情報というか、内緒の伏線として重要だったりするかもしれません。




